124:あってはならないもの
『穏やかな話じゃねえな。詳細は?』
「差出人、宛先。その他一目で所管が分かるようなものはありません。ですが内容としては陛下、正妃殿下、側妃殿下、王子殿下たちは必ず殺し、王女殿下たちについても生死は不問。とにかく王族を殺害する事を命じた書類ですね」
「なるほど。完全に駄目な奴ですね」
『風鳩の魔術師』様の声が風で出来たハトから響く中、ワタシはグレイシア様が読んでいる書類を後ろから覗き込み、一緒に読む。
うん、確かに陛下たちの名前が書かれていて、第一王子殿下が貴族院に入る前に、この書類にある人間をなんとしてでも殺せと書かれている。
これだけでも反逆罪とかを問えそうな紙だ。
しかも王女殿下は残せるなら残せ。と言う辺りに、王女殿下と自分たちの側の男の誰かを結婚させて、王家の血脈を乗っ取ろうと言う醜悪な思惑が感じられる。
「ただ方法などについては受け取った人間任せだったようで……。ああ、こちらが方法を検討した書類でございますね」
「なるほど。それで呪いの道具ですか」
そして、計画そのものは部分的に実行されていたらしい。
幾つかの方法が検討されて、成功する確率が高いと思われたのが、ワタシたちが先日王族の居住区画で回収したスープ皿のような呪いを利用した方法だったらしい。
……。
今日の件が終わったら、もう一度王族の居住区画を検査した方が良いかもしれない。
まあ、ディム様が既にやってくれているかもしれないけど。
『しかしまあ、よくそんな書類を残していたな。この手のは普通なら、受け取って内容を確認したら、直ぐに燃やしてしまう物だと思うんだが』
「自分たちの保身の為じゃないですか? 道連れにするためとも言いますが」
『ああなるほど。こんな依頼をしてくる奴だもんな。下手すりゃあ、依頼が上手く行った後に組織の人間はまとめて始末して口封じ。くらいはあるし、そうならないための備えや、そうなった後に独り勝ちをさせないための準備はしておいて当然か』
「依頼者の信用と信頼の無さが窺える話でございますね」
なお、王族殺害依頼の紙の末尾には、読んだら燃やして消せとしっかり書かれている。
が、この書類は隠し戸棚にこそ入っていたが、そこに焼却のための仕掛けは一切ないどころか、防火殻で覆われていたので……、『ブラックハート』のボスが依頼者をどう思っていたのかがよく分かる話である。
『それはそれとしてだ。『凍え』、トリニア教またはイストフィフス侯爵との繋がりを示していそうなものはあるか? ちなみに他の拠点で見つかるのはまだ期待するなよ。此処と違って、他はまだまだ時間がかかるんでな』
「精査せずとも見つかりそうな物はまだありませんね。例えばこれなどは王族の方以外で、暗殺対象とされた方の表ですが……」
『んー、弱いな。俺たち宮廷魔術師の名前が半分以上入っているし、これじゃ繋がりとしては弱い』
「同感でございます」
ワタシは『風鳩の魔術師』様とグレイシア様の声を聴きつつ、拠点内及び周囲の警戒をする。
とりあえず拠点内の制圧は完了済み。
なんなら、手が空いた兵士や騎士によって、此処が制圧されている事に気づかずに駆け込んでくる『ブラックハート』の構成員が夜闇に紛れて狩られているくらいである。
つまり、ワタシがそこまで警戒している必要性は無さそうだ。
「これは……なるほど。ノスタの件で『ブラックハート』も被害を受け、予定が崩れたと」
『さっき『ブラックハート』のボスが無理やりに悪霊にされたって話は聞いたが……。なるほど、あれを王都の各所で一斉にやる事で王都を壊滅状態に追い込み、その混乱の中で王族を暗殺する計画もあったのか。だが、その計画はノスタが暴れたせいで色んな意味でお釈迦になった、ね』
だからワタシは室内に目を向ける。
ボスが使っていたであろうこの部屋には、とにかく高級そうな物が集められている。
呪われた品が混ざっているのは、『聖アンザンシ教会』から持ち出された呪いの品の中でも見た目が良い物については、呪いの抽出後にボスの手に収まったと言う事なのだろう。
ただ、抽出を行った魔術師の腕が良くなかったせいで微量に呪いが残り、その残った呪いを基点にボスや『ブラックハート』に対する恨みつらみが集まって、また呪いの品になってしまった。
たぶん、そう言う流れだ。
「『風鳩の魔術師』様」
『どうした? 『闇軍』』
「結局のところ、どういう品物があれば教会または侯爵家が関与した証拠として十分なのですか?」
『んー、そうだな……』
グレイシア様との話が一段落したタイミングを見計らって、ワタシは『風鳩の魔術師』様に話しかける。
すると、風のハトは少し悩んだ様子を見せてから……教えてくれた。
『まずあり得ないが。理想としては、犯罪行為の命令書にトリニア教またはイストフィフス侯爵の紋章が入っている書類とかだな。まあ、よほどのアホじゃなければ、そんな物は残さないが』
うん、ワタシもそれは無いと思う。
『次に此処にあってはならない物が見つかる事だな。トリニア教なら高位聖職者しか持つことが許されないような品。イストフィフス侯爵なら侯爵家の紋章が刻まれた物品とかだな。こう言うのがあれば、仮に盗まれた品であっても、事情を聴くと言う大義名分くらいにはなるし、事情を聞けるのなら、そこから詰める事だって出来る』
「さっきのボスが持っていたトリニア教の聖印らしき物は?」
『アレじゃあ駄目だな。俺が見た限りじゃ、あの聖印は一般信徒でも買えるような代物だった。何処の誰の物なのか照合出来るような印でもあれば話は別だが、そんな物は王族が使うティーカップみたいに徹底した管理を求められているところでも無けりゃあ付いてないだろ』
「ティーカップ……」
『風鳩の魔術師』様の言ったティーカップと言う言葉にワタシは部屋の中を改めて見返す。
特に、呪いの気配がする物を中心に見ていく。
そして……見つけた。
この部屋に似つかわしくないほどに上品かつ華美で、けれど呪いが漂っている。似たような物を以前見かけた覚えがあるティーカップを。
「『風鳩の魔術師』様。これを見てもらっていいですか?」
『お? ティーカップか。でもそれが……ああいや待った。詳しく見せてくれ。『凍え』もこっちに来て確認してくれ』
「了解でございます。これは……」
風のハトとグレイシア様がワタシの見つけたティーカップを見ていく。
「剣と光を組み合わせた意匠の紋章……グロリアブレイド王家ゆかりの物ですね」
『おまけにカップの底、裏側には作った工房の紋章があり、一般的には知られていないはずの隠し紋章もある。おっと、照合用の番号まであるな』
「そして、この意匠は現在王家の方々が使われている物と同じでございますが……」
『今確認が取れた。ティーカップが一つ、呪われたって事で処分されている。処分方法は『聖アンザンシ教会』へ持ち込んで、そちらで浄化されるのを待つ。と言う事になってた。照合用の番号も一致』
「つまり?」
どうやらワタシが知らないだけで、色々と確認用のアレコレが仕込まれていたらしい。
とりあえずグロリアブレイド王家の紋章については、改めてちゃんと覚えておこう。
王家と三公爵くらいは覚えておかないと、何処かで痛い目を見そうだし。
それはそれとしてだ。
確認が終わったところで、風のハトがハトの顔なのに笑っていると分かる顔を見せる。
『これは正に此処にあってはならない物だ。よくやったぞ『闇軍』! これで次の段階に進める!』
「お見事でございます。ミーメ様」
「ありがとうございます、『風鳩の魔術師』様、グレイシア様」
なるほど、大当たりだったと。
うん、だったらワタシがやるべき事は決まっている。
「それではグレイシア様」
「はい。ここはわたくしに任せてください。もっと確かな証拠を見つけますので」
「お願いします。『風鳩の魔術師』様」
『おう。行って、相手が逃げ出さないように現地で備えておいてくれ。他の連中にも知らせは出したから、第一段階の制圧が完了次第、第二段階に移行だ』
「分かりました」
ワタシは移動用闇人間を取り出すと、それに乗り込んで『ブラックハート』の拠点から飛び出す。
目指すは『聖アンザンシ教会』、サキ・イストフィフスの身柄確保である。




