第664話 義父還る
最近は穏やかである。
リビングでゆっくりと音楽をかけながらソファーへ体を預ける。
「クロウ君! すごいよこれ、全部見える!! …………クロウ君の普通の時ってそんな感じなんだね」
メルナが作った、フクガスケール眼鏡をかけたアリシアは俺を見ては喜んでいる。そっと足を組んで大事な部分を隠す……隠しきれてるのこれ?
「…………常に大きかったら男は死ぬからね?」
「そうなの!?」
「そうだよ……それよりも結局メルナは作ったのか」
「ううん、作ったのはメーリスさん。先生の手には負えないって外注発注って言葉だっけ? 帝都から帰ってきた所」
結局なんやかんやで、遺跡を攻略したクウガと『俺』は水晶を持ち帰った。
ほら、クウガ1人で遺跡にいって何かあったら危ないから。
決してやましい気持ちなど無い! 俺もカナデ母さんに会って優しくなったし、そこで隠し部屋にあるのをちゃんと発見した。
が、帰ってくると女性陣の冷ややかな態度。
クウガは『僕が使うはずないじゃないですか……で、メルギナスさんってこれで眼鏡作れたります?』と。
俺も俺で『メルナがそんな器用な事出来るわけないだろ。ポンコツだぞ』って真実を言ったら、まぁ『はぁ!? この魔女を捕まえて、以下略』この通りである。
眼鏡ケースに眼鏡をいれたアリシアは俺に手渡してくる。
「はい。服が見える眼鏡」
「はい。って俺に渡してどうする……」
「え。でもクウガ君に渡しに行くんでしょ? お金貰ってるし」
「まぁそうなんだけど……俺が他の女性に使うと考えないわけ?」
「考えないよ?」
信頼されてるって逆につらい。
ここまで言われたら使いたくても使えない。
「それに、帰って来てからクロウ君誠実だし優しいから」
「普段とかわらんよ。メルナは?」
「地下の部屋で力尽きてる」
そんな事はないとは思うけど、自分でに出来ない事をメーリスがあっさり作って不貞腐れたか。
以前メルナに聞いた所、長寿族って変にプライドが高いのが多い。って話だ。
人間は自分たちの偽物でありながらも繁殖力が高い。
俺が会った長寿族は変人ばっかりだけど、わかるようなわからないような。
まっ俺もその境地に行く前に死ぬだろうけど。
「…………俺、ちゃんと死ぬよな?」
「クロウ君!? 何か悪い所あるの!? ハイ・リザレ──むぐぐぐぐ」
慌ててアリシアの口を押える。
床に現れた魔法陣が完成する前に消えた。
「大丈夫だって、また倒れるし……最悪死ぬぞ」
「クロウ君を助けて死ぬなら英断だよ」
「辞めろ」
「………………ごめんなさい」
アリシアがシュンと小さくなった。
「いや、そこまで怒っているわけじゃなくて。大事にしてるから言ってるだけ……今だから言うけど、アリシアがクウガとフラグ無かったらちゃんと一番に攻略してたからし」
「クロウ君!! フラグとか良くわからないけど、私も初恋だったよ!」
ソファーに座っている俺にアリシアが抱きつくように座ってくる。
そのままキスをしようとして、アリシアの頭をグイッと避けた。
「クロウ君!?」
「いや…………変態が見てる」
俺が玄関の方に顔を向けると、クウガが紙袋を持って立っているからだ。
「いや、本当……ノックはしたんですよ。鍵開いてますし……前回はノックしても出ない時は扉開けてくれって言われましたし……ええっとアリシア、そのごめん」
言った気がする。
「べ、別に!? 珈琲入れてくるね」
俺から離れるアリシアはバタバタと台所に行く。
その間にクウガが入って来てはお土産をテーブルに置いた。
「一応ほら、今日が約束の日でしたし」
黙って眼鏡ケースに入った、ミエールの眼鏡をクウガに渡す。
「これは封印します」
「そうしてくれ」
クウガが真面目に言うので俺も真面目に答える。
アリシアが珈琲とクッキーを持ってきてくれると、シリアスな空気に不思議な顔をしだした。
「え、男の子が欲しいえっちなアイテムじゃないの?」
ゲームではそうだった。
俺よりもクウガの方が説得力ありそうなので、クウガを見ると僕ですか? って顔だ。
「じゃぁ言いますけど。服だけが透けるって事は服以外は見えるんだ。暗器使いや盗賊の天敵。さらに術式を体にいれた魔術師もそうだろう……魔力を高めるのに刺青をする場合があるからね」
「へぇ……じゃぁ。女の子の裸を見るのには使われないよね、クウガ君もクロウ君もてっきり『確認作業するから』って良い訳を作って使うのかと思って」
「…………」
「…………」
馬鹿。クウガ黙るな。
俺まで共犯に思われるじゃないか!!
一度は試したい。
あの……俺はメルナとアリシアが好きだよ? でもだ! 一応は男性なのだ。
クウガなんて狼だぞ。
「2人供?」
玄関の扉が勢いよく開く。
全員がそっちの方を見るとメルナが旅支度をして俺達を見ていた。
「あれ?」
「ああ、いたか……ロウ。アリシア。それと小僧もいたか。ちょっと旅に出るのじゃ。何……数年もすれば帰ってくるなのじゃ」
何だ突然。
とりあえずメルナの腰にしがみ付こうとすると、重力が一気に襲い掛かって来た。
家全体が悲鳴を上げて、4人全員がまともに立てない。
「これは重力系の魔法……馬鹿な! 3人は外に。敵を探します!!」
「アリシア! メルナと外に!!」
「わ。私も戦うよ!」
そうは言うが無理はさせたくない。
出来れば家の中で戦いたくはない、後片付けが大変だから。
が、そうも言ってられないな。
クウガの魔眼から魔力があふれると周囲を見渡した、その視線は玄関に行くと、潰れかけているメルナの方に向いた。
「そっちか!!」
「です!!」
俺とクウガがほぼ同時に動くが、玄関の外からメルナの腕を握る何者かの手。
「行かせるかあああああああああああ!!!」
玄関に入ってくる高身長の男。
メルナを掴んでいない自由な手、その手をこちらに向けると今度は横からの衝撃で俺とクウガは同時に吹っ飛んだ。
「…………待て、こちらに殺意はない」
壁にめり込む俺とクウガ。
必死に俺を壁から引っ張るアリシアのおかけで出ると、本当にそれ以上攻撃はしてこなかった。
なお。クウガは自力で出て来た。
何か言いたそうに俺とアリシアを見ているけど、うん。自力で出れたからいいじゃん。
「ええい、離せなのじゃ、今さらどの顔を──」
「………………久しぶりだな」
魔族の王であったルシオラが、メルナにそう問いかけた。
さらに玄関に少女が入ってくる。
「はーい。皆のお義母さんレイアママよー! ってあれ。どうしたのこの空気。そうそう、くーちん! 数ヶ月前に面白そうな事してたよね!? 私と同じ魔力が世界に現れたの!! あれは迷宮食いの特有の魔力だったわ……残念な事にすぐに消えたのよね。コピーかしら……ううん。言わなくていいのよ、楽しみは取っておきたいし」
一番空気を壊しそうな人が入ってくると、メルナはものすっごいため息をついた。




