第659話 ママあああああん!! とはならんだろ……
水竜の滝まで戻って来る……すっかり夕暮れになり飯の事も考える時間だ。
迷宮にさっさと入って先ほどの場所まで、障子をあけると広い座敷で1人茶を飲んでるばあちゃんスタイルのレイアが出迎えてくれた。
「おかえり、外は暑かった?」
もはや言動がおばあちゃん。
「ちょっと予定が狂った。50人ぐらい水竜たんを呼べるぐらいに強くしようとしたら、どれもこれも使い物にならなくなった。というか……無事なのがいないし、そもそも逃げ腰組ばっかりで、いやわかるけどさ……でね、この子を次期青龍に育ててる間に俺が殴り込みに行こうかと」
「青龍様!?」
「あら、いつになく暴力的でやる気」
「そりゃまぁ……不在の所に押しかけて火を放つような集団は気に食わん、そう思うよね近藤」
「んあ? 神選組は……その昔……酒の席に押し込んで人斬りした事もあるのう。不在の所に火もそうだが……まぁその、闇討ちもした事も。今の君に『あの行い。あれは卑怯だ』と賛同するには、ちと」
ああ……忘れていたけど。元の設定である集団は人斬り集団だもんな。
のんびりした、むちむちお姉さんの局長いか可愛い女の子集団と思ったがやる事はちゃんとやってたらしい。
「……池田屋事件?」
「ふむ」
近藤の眼が薄く細目になる。
やば。地雷を踏んだ気がした。
「はいはいはい。そこで勝手に盛り上がらない。お義母さん無視されて悲しいわ!! ねぇ可愛い黒頭巾ちゃん」
「黒子です」
セーフ。
ちょっと頭を冷やさんとな。
そう、平和主義。
「でも、くーちんあれよ? 怪我した人も連れてくればよかったのに……お義母さんが何百年かけても説得してあげたのよ?」
「母殿!?」
「黒子は死んでしまいます」
2人は驚いているけど、たぶんタイムスリップ時計で何百年も説得するんだろうな……その場合肉体はどうなるんだろう? 確か成長していたきもするけど。
「じゃぁ黒頭巾ちゃん。修行してこよっか」
「黒子です」
してこよっか?
え、教えないの?
「あれ? レイアが教えるんじゃないの?」
「皆のお義母さんは美人で博識だけど精霊は専門外よ?」
「そうなの? 何千年も生きてるのに」
「くーちん。他の人にそういう言い方したらだめよ?」
「うい。いや……別に嫌味とかじゃなくて」
「わかってるわ」
つい。疑問の声が。
普通に考えればそうか、俺がレイアを呼んだのも時間系を使うからだし。
てっきり何でも知ってると思っていたが。
「じゃぁ俺か……ええっと水級はだせるから、そこから槍かなで盾ができれば」
くるっと空中で指文字を書く。
書かなくても出そうと思えば出せると思うけど俺のスイッチと言うか。
癖。
だって、読んだ本にかいていたもん! 詠唱に代わるスイッチを作れって。
で、ネッシー型水竜たんが出て来た。
「青龍様凄いです!!」
「うい」
水竜を放置すると首を動かして黒子の顔を突いたりしてる。
友好的なのかな?
「くーちん。黒頭巾ちゃんにはまだ無理じゃないかな?」
「あの……ですから黒子です」
「諦めたのほうがいいのう。この男もそうじゃが人の名前を適当にいう……本当に血が繋がってないのか不思議な感じだ」
失敬な。
「人の名前は間違えた事1度も無い!!」
「さっ今回使うのは──」
さらっと全員に無視された。
しょうがないじゃん! 人間だもん間違えるよ!!
「…………タイム君改!! 時代は設定してあるわ。これで水竜の使い手に会えるからその人に教えてもらって」
レイアから黒子に、あの秘宝が手渡される。
俺と近藤……そしてレイアを見た後に「青龍様がそう命令されるならやってみます!」とカチっとボタンを押した。
「…………」
「…………」
「…………」
ん? 黒子はその場所にいる。
あれ?
光は? 確か俺の時は光に包まれて時代を飛んだはず。
「あの青龍様? 何も変わりません……です」
「だよな。またレイアの冗談か?」
「本物よ。調整に調整を重ねたアイテム。内側に何万にも及ぶ術式を書いてるわ、確認して」
仕方がない。
黒子の近くに行くと時計を渡される。形は全く同じ、怖いから針は触らない……。あとはボタンだ。
「黒子ちょっとおしてみてくれる?」
「はい!」
黒子がボタンを押してもカチカチとなるだけで反応はしない。
やはり壊れているんでしょうか? と小さく言うのでその可能性は高い。
「黒頭巾ちゃん、くーちんの手を握っていて」
「え? はい……青龍様」
「ん? どうぞ。で? 握ったけど……はっ!? まさか俺が居ないと発動しないとか!?」
「え!? 青龍様。黒子は既にボタンを押してます」
「きったねえぞおおおおおおおおお!! この妖怪ロリババアあああおあああ………………?」
叫んでも何も変わらない。
黒子の小さい手が俺の手をぎゅっと掴んでるだけ。
広間がシーンとなる。
「…………もしかして俺結構ひどい事言った?」
「くーちん……」
「君って」
「青龍様。あの、意見がはっきりして素晴らしいと思います」
無理に褒められますます空気が悪い。
「じょ、冗談ですって」
「くーちん。相手が嫌な気持ちになる冗談は冗談じゃなくて犯罪なのよ?」
うぐ。
ド正論である。
こうなればやる事は1つ。
「せ、青龍様!?」
「大変申し訳ございませんでした!」
「いやー君の土下座は綺麗だね……まるで心が1つもこもって無い所が特に凄いよ」
うるせえ。
気持ちはこもってるよ、ちょっとは悪いって思ってるもん。
「いいのよ、こんちゃん。くーちんだげが悪いわけじゃないし……あっ黒頭巾ちゃんちゃんと、くーちんの手握っていてね」
「黒子です」
「顔を上げて、くーちゃん」
土下座のまま顔をあげる。
「前にね。くーちんが『あんなタイムマシンの機械をポンポン作りやがって頭湧いてるんか? 誰でも触れるようにしたら悪用されるだろ。1000年以上生きると脳みそ溶けるの?』って言われて」
「君ぃ」
「青龍様……その」
「そこまで言ってない!!」
朽ちてない元聖王の玩具にするのはどうか? って話したような気はする。
「で。今回の改! なんと遠隔スイッチ対応なの! そっちの本体のスイッチはダミーよ!」
「はい?」
目の前でスイッチをおすレイア。
映画のワンシーンのように一気にその場面が遠ざかった。
「やっぱり──」
──
────
「ババアじゃねえかあああああああああ!!」
「青龍様!?」
真っ暗な場所に出た。
空気が澄んでいる。というか空気中の魔力が濃い。
逆にちょっと息苦しくなる。
周りを見ると細い通路。といのがわかり、灯りはないのに少し先まで明るく見える。
迷宮の作りだな。
自分のいる場所から一定の所まで明るくなる魔法のような物。
逆にこれのせいで迷うまである。
黒子が俺の手を握ったままで、その手が震えてくる。
怖いのか。
「青龍様……ここは……水竜の祠……」
「お?」
「あっ誰か来ます」
前方からコツコツと歩く音が聞こえて来た。
その影が俺の視界に入ってくると全身が見えてくる、黒髪が綺麗な女性でソバカスが少し残る顔たち、日本人形を大きくしたような感じで巫女服は水で濡れている。
「いやいやいやいや……さすがにこれは駄目でしょ」
何がダメなのか俺は一瞬で判断した。
「君達。ここは立ち入り禁止よ、どこから入ったのかしら? それとそこの男性……おじさんさぁ。ババアじゃないし、まだ16才です」
「青龍様! この人の絵を倉庫で見た事あり──もごごご」
余計な事は言わないで欲しい。
「あら、才能があるからって……まだ青龍と呼ばれるには早いかも。男の子よね?」
「黒子は女の子です」
「っ!? ご、ごめんなさい。ちょいちょい間違うのよね……それってウチの忍び衣装よねこれ……でも貴女みたいな可愛い子見た事ないし……ああ。ごめんなさい、こういう時自己紹介が必要よね」
自己紹介しなくてもわかるっての……。
「私の名前は──」
俺はその名前にかぶせるようにカナデ母さんと小さく呟いた。




