第654話 駕籠と言えばお約束?
カギーン!!
効果音であればそんな音が聞こえるだろう、枯れた元滝に対してつるはしを使った音だ。
「あばばばばばばばっばばばばばんばんばんばん…………」
腕と言うか体全体が痺れる。
隣にいる案内役の黒子は表情は見えないが首を横に傾げた。
「青龍様。ご冗談がお好きなんですね」
「はぁはぁ何が!?」
「わざと掘れないふりを。どんな時もユーモアを忘れない、勉強になります」
大真面目な声だ。
そりゃ心の中でやってやらあ、と叫んだよ。
でもいくら魔力依存の力があっても無理なもんは無理。
「出来るか!!」
「出来なんですか!? でも、先代の青龍様はつるはし1本で滝を拡張した。とお話に聞いています」
人間じゃないだろ、そいつ。
そういえば先代の話を詳しく聞いてない。
その青龍の廃屋から俺のへその緒が見つかったとか言っていたけど。
「先代の名前は?」
「青龍様には基本俗世の名前はありません。ですが……伊三郎様です」
あれ? てっきり母親の名前が出ると思ったけど。
「カナデじゃないの?」
「カナデ様は家を出奔しました」
「ああ……なるほど」
少しだけ背景が見えて来た。
俺の母親は青龍を継ぐ前に親父と駆け落ちした。跡取りの居なくなった青龍家はどういう訳か廃家になり……家を調べたら俺の名前がついたのが出たのだろう。
「おーい、そこの青龍君! 滝はまだかな? 滝見酒を早くしたいのだよ!?」
「うん。とりあえず……アレを連れて来て」
「はい!」
黒子が酒くさい近藤を連れて来た。
何故呼ばれたわからない近藤は俺の近くに来たので、少し深くなってる元滝つぼの穴に放り込んだ。
「のああ!? 君!?」
「人身御供って知ってるか? 東方の習慣で祭事をするのに生贄を埋める習慣だ。わんちゃん滝つぼが復活するかもしれない」
「君!? 土をいや、小石を飛ばさないでくれ!! いいのか、クロウベル君!!」
一応話は聞いておこう。
砂利や土をかけていた手を止めて上から見下ろす。
「いや。君の腰縄。この私が持っているんだ」
「はっ!? し、しまった!!」
と。思ったら俺の体急激に引っ張られて近藤を落とした穴に落ちた。
むにゅっと肉厚なクッションで、汗と酒と土の匂いが混ざってる。
「そこの世話係の君。この私と青龍を埋めるんだ。きっとすごい滝が出来るだろう」
「馬鹿! いや待て。なんで他の黒子も一斉に集まって土をっぺっ! ああもう! お前ら!! 水竜!!!」
俺が叫ぶと、ネッシー型の水竜たんが守るように空気中に現れる。
振ってくる小石や土を首を回して弾き飛ばした。
立ち上がり穴から這い出ると、それまで土をかけて来た一般黒子達や、世話役の黒子も一切に膝を立て座り頭を下げている。
「な、何? この光景……2回目だけど」
「よいしょっと……うう、せっかくの酒が抜けてしまったよ……あれだろ? 君がこの青龍を見せたからだよ。この者達は青龍家に仕えていた者達、その青龍家がなくなり唯一の希望である君を見つけた物も、本当に仕えていいか迷っていたんだろ。そこで君は実力で青龍を出した」
近藤がそれらしい事を言いだす。
「いや。青龍じゃなくて水竜な。こんなの修行したらすぐ出せるっての……一般魔法だよ?」
「詠唱や時間制限を考えているかい? これでもこの私も異国の魔法の事は少しは調べたよ。どれもこれも術者の力が無いと無理」
そりゃまぁ……俺もこの水竜に何度も助けられたし。
俺が出した魔法なのにオートで動くときあるしな。
その水竜たんの背中を軽く叩くと霧のように消えていく。
「もっと言うと、仕事先の知り合いと恋人の違いみたいな物だよ」
もっともらしい事言っているけど、だから修行すればこんなの誰でも出来るって。クウガだって……まぁ水魔法は人気無いから覚えないもんな。
「とにかく、今日明日すぐに滝の復活は無理だ。休ませてくれ……でいいかな。黒子」
「は、はい! すぐにお手配を」
周りの集団黒子達も一斉に動く。
ゴザを片付けたり走ってどこかに行くやつ。道具を片付けたりする奴は数人は座り込んでさぼっている奴まで……。
さらに、駕籠が1つ用意された。
「青龍様。どうぞ」
「…………どうぞっても、ここまで登るのに徒歩だったけど」
「ふむふむ、あれだよ君。君が本物の青龍様だって証拠だよ……いやぁ今日の晩御飯は楽しみだね。どれ、前は私が担ごう……少しは恩を売っておかないと酒が貰えないからね」
いや別に誰でもいい。というか。
そんな事ぐらいで恩を売られても……といいたい。
でも、せっかくなので駕籠に乗ってみる、だってこんな不便な物乗る機会なんてそうそうない。
中は狭く座布団が1枚、中央に紐が垂れ下がっている、落ちないように掴むのだろう。
あぐらで座ってみると浮遊感と共に尻に力が入る。
籠の横にある垂れ幕みたいのをペロンと除けると前には近藤がいるのがわかった。
「さて、屋敷というのは途中で別れた道のほうかな?」
「はい」
可愛らしい声が背後から聞こえ、振り向くと顔を隠した黒子が……駕籠いやまって前の近藤と違ってプルプル震えてるけど!? 無理なんだって。
「ちょっと近藤……」
「ほら青龍様が急かしてくる、急ごうかの」
じゃなくて、せめて後ろを気を使え。
近藤が走り出すと、駕籠も一気に動く。
慌てて中央の紐を掴まないと横から落ちそうに。倒れないって事は案外大丈夫なのか?
近藤の声で『えっほえっほ』と聞こえ、背後のほうからは黒子の荒い息遣いだけ。
降りたほうがいいな。
「近藤。いや近藤さんさー俺降り──」
「今大事な所なのだ。喋るでないっ! さて、そこの角は右は崖にみえるようだの。後ろの黒子とやら、絶対にヘリから手を離すな」
「はぁはぁ……はい! は、離しません!」
まぁ終わったら降りるか。
ええっと確かに右側は崖だな。
近藤が右に曲がると後ろの黒子が困るじゃないの? ああ、そうか……近藤が勢いよく曲がって黒子は駕籠の棒に捕まるのか。
え?
じゃぁ俺はあああああああああああああああ!?
体が突然空中に投げ出された。
近藤が勢いをつけてカーブを曲がったらしく、その駕籠に必死にしがみ付いてる黒子。俺はそのまま崖下へと……。
──
────
「そう怒るな色男よ、酒がまずくなる」
「怒るってか呆れてるんだよ!! やっとの思いでここまで帰って来たの!」
旧青龍の屋敷。
膳が2つあり、俺と近藤だけが飯を食っている。
周りには誰もいなく時間の流れもゆっくりだ。
あの時の事を思い出す、崖下で回復した俺は必死に遠回りしてそこを目指した。
途中で出会った集団黒子達と屋敷に着いたら、紐を離したお前が悪い。と近藤の一言である。
わかるよ?
こう言わないと、担いでいた世話人黒子に飛び火するんだろ?
「一番悪いのはあんただよあんた!」
「ふむ、揉むか?」
近藤は胸をちらっと見せては俺に提案して来た。
「揉まねーよ!?」
「そうか。沖田君が怒る時は大抵これで何とかなる事が多いのに」
「これでも揉む相手は決めてるの」
「はっはっは。そうかそうか」
何笑っているんだが……。




