第653話 はい。名前は…………と、申します。
とある場所に連れられた。
途中で逃げようと思ったけど、腰に縄を付けられてこれでは犯罪者である。
その縄の先を持っているのは近藤で、その周りには大量の黒ずくめ。
神撰組の縁側に来た人間はあっという間に着替えをし俺を連れ出した。
その姿は全員が全員、演劇舞台の黒子のように顔を隠してる。
周りの一般人は、ひそひそと『犯罪者……?』『怖いですわね奥様』など聞こえてくる始末だ。ちげえっての。
まっ本当に逃げないのは理由があって。
ホームに止まるしゅぽしゅぽする乗り物をみて足を止めた。
じゅぽじゅぽじゃないからね。
「ほう……これが蒸気機関車か」
そう! 場所は駅!! 近代化された物を見るのに心が踊る。
乗ってみたいじゃん。
「ヒノクニが技術者を集めて作った汽車だよ汽車。なんと! 魔力は殆ど使わないそうだ。これもヒノクニが優秀だからかねぇ」
でたお国自慢。
ヒノクニは魔物が少ないからってのがあるんだろうな。
短距離であればレールをひいても襲われ無いんだろう。
魔物と思っても妖怪だったってオチもあるし、逆に妖怪と思ったら魔物だったとかあるし……ここで他国は飛行船があるぞ? と言うのは興が醒めるってもんだし、さすがの俺も空気を読む。
近藤の方を見ると駅弁を売っている女性を捕まえて必死に何か頼んでる。
「あっそこのお姉さん。地酒をくれないか? クロウベル君、ちょっとこっちに来てお金を貸してくれた前」
「いや、いいけどさ……昨日借りないって話してなかったっけ?」
「個人としては別だよ。美味しい酒と駅弁が売っているだが沖田君から頂戴したお小遣いがもう無くてね……君だって飲みたいだろ?」
「まぁ……な。貸しても帰って来ないだろうし俺だけ目の前で食うのも悪いし奢るか」
「本当かい!? じゃぁそこのお姉さん。これとそっちの酒ももう1本貰おうか」
「遠慮って知らない?」
「聞いた事ないな、異国の言葉には弱いんだ」
そこまで笑顔で言われると俺も笑うしかない。
黒子の1人が俺達を手招きして汽車に乗ってくれとジェスチャーしだす。
「はいはい。じゃっ行くか」
「おおっと……少しは持ってくれたまえよ」
ぱっと見た感じ1車両に40人ぐらい座れるタイプ。席は2人掛けの椅子が向い合せにあるタイプでその中央に案内された。俺達を囲むように黒子の集団が席に座る。
俺と近藤。その席にに入り込んできたのはジェスチャーをして席に案内した黒子である。何も喋らなく黙って座っているので、うざい。
「向こう行ってくれない?」
黒子はぶんぶんと首を横に振った。
ちらっと見える顔付から若そうなのはわかる。
「ああそう……」
別に良いんだけどさ。俺と近藤はこれから旨そうな弁当を食べるわけで……ってか近藤は既に食べてる。あの、まだ汽車走り出したばっかりだよ!?
俺が弁当を広げると、ぎゅるぎゅるぎゅると、腹の音が鳴った。
黒子の。
腹を鳴らした黒子は真正面を見て一切俺達の顔を見ないようしてる。
ちなみに席としては、空席。俺。反対側に近藤、その隣に黒子の順番だ。
柔らかい豚肉の角煮かな。濃厚な匂いがし《《食欲をそそる。》》
黒子の布のしたからよだれがこぼれた。
うん。一気に食欲がなくなった。
「ほら」
黙って弁当を黒子に渡すと、黒子は手を前にして全力で拒否をしだす。
まぁそうだよな。
近藤のほうは弁当は空になって2本目の酒を飲んでいる。
「いや。よく考えたら腹減ってないわ……かといって捨てるのももったいない。俺の金だし」
「君。じゃぁこの私が食べ──ぶっ! 仮にも局長を務めた私に攻撃とは恐れ入ったね」
「近藤……いや近藤さん。酒に弁当太るぞ。というか10年前に見た時より腹出た?」
「はっはっは。これでも鍛錬はしてるつもりだよ。だが……友人の忠告は受けておこうかな……なんせ、君を怒らせると帰りの弁当代が心配だからね」
帰りもたかる気か。
「と、言うわけだ食え」
黒子は迷った挙句周りを見渡した。
他の黒子にもこのやり取りは聞こえているのに完全に無視。
「ついでに名前は?」
「君知らないのかい? 黒子は喋らないんだよ?」
近藤が当たり前だろ。と言う感じで教えてくれる。
「演劇ではな…………まっ俺達の横に座らせたって事は世話係か密偵とかそういう役割だろ? 別に黙っていても良いんだけど……本気になったら俺。この走ってる汽車から逃げれるよ?」
「その場合この私は借金だけが残る……クロウベル君! いやクロウベル様!! 絶対に腰ひも離さないからね!?」
慌てる近藤をよそに許可が出たのだろう。
黒子が小さい声でしゃべり出した。
「青龍様の世話をします黒子です」
「…………」
子供っぽい声だな。
少女か? 黒子と言うのは偽名として……さすがにそんなキャラは知らないしなぁ。
「青龍様?」
「いや、君が黒子なら周りの制服姿のは? って思って」
「周りも黒子です」
おお、言い切った。
「君は?」
「黒子です」
「周りも?」
「黒子ですか?」
あーうん。深く考えるのは止そう。
「やぁ、この男の代理として聞くけど。お世話ってどこまでかな? 三食酒はつくのかな」
「青龍様がご希望であれば」
近藤が俺の手をいきなり掴んではもみもみしてくる。
「ってか、俺の酒は!?」
「君の酒もあったのかい!? 全部私の酒かと思って飲んでしまったよ!?」
「これをどうぞ」
黒子は竹の水筒を俺に渡してくる。
小さいフタを開けるとアルコールの匂いがする。
一口飲んでみると、余りの旨さにちょっと感動。
「君! 君だけ飲むきかい!? これは竹酒だよ竹酒」
「はい。返す」
「あー! もう。君は……」
さすがの近藤も黒子の手から酒を奪おうとしない。
そこまで言ったらもう末期だよ、末期。
「まっどこに向かっているか知らないけど、黒子だっけ。よろしく」
小さい声で返事をするので俺は視線を窓の外にうつす。
白い煙が視界に入りながらのまったりな景色。
やっぱり、こういう時間はいいな。
聖都もそうだけど、魔物が多くて電車って移動手段ないからなぁ。
いくつかの駅が過ぎ、駅帽をかぶった人が終点とと伝え扉を閉めていく。
窓から見える風景は山奥で街並みも発展してるようには見えない。
黒子達がぞろぞろと降り、隣の世話係が小さく頭をさげ外に出ろ。と誘導した。
駅の名前は『水神の滝』
「ふーん」
「おや。浮かない顔だね」
「魔力がよどんでるっていうか、息苦しくてな」
「さすが青龍様です。この地を守護する青龍家が途絶え滝も枯れています」
なるほどねぇ……滝を俺に復活させろって事か。
──
────
俺の予想通りに枯れた滝まで連れてこられた。
黒子(世話係)が俺にツルハシ1本を渡す。
「さぁどうぞ青龍様」
マジで言ってる?
俺の前には枯れた滝。数十メートルの絶壁と水が消えた滝つぼが見えた。
そこを、つるはし1本で掘れと?
思わず近藤を見ると、近藤は俺の腰につけた縄をさらに延長させてリラックスタイムだ。
どこからかゴザをひいてその上で他の喋らない黒子と酒を飲んでいる。
だめだ、あいつは話にならない。
世話係の黒子の方に振り向き直す。
「掘れと?」
「はい!」
………………やってやらああ!!




