第97話 きっかけ
幻夜が帰ると、
僕はベッドに大の字で寝転んだ。
幻夜が座っていた辺りには、
まだ彼女の温もりが残っていた。
「はぁ。
何か面白えことはねえかなぁ」
その声に僕は飛び起きた。
「兄ちゃん!」
白いレジ袋を被った白露が、
腕を組んで机に座っていた。
「どこに行ってたんだよ。
今日は大変な1日だったのにさ」
「あんっ?
何だよそれ?」
僕は一度大きく背伸びをして、
放課後の田村とのやり取りから、
先ほどの幻夜と交わした会話までを
順を追って説明した。
「おいおいおい!
お前っ・・まさかっ!
姫のおっぱいを触ったのかっ!」
「さ、触るわけないだろ!
そ、それに。
重要なのはそこじゃないよね。
僕は田村先生に
殺されるところだったんだよ」
「そうかそうか。
それならいいんだけどよ。
まあ・・あれだ。
姫のおかげで命拾いしたな」
白露はそう言うと、
「ヒヒヒ」
と笑った。
まるで僕が死にかけたことなんて、
大したことではないと
言わんばかりの態度だった。
「・・ま、まあね。
そのことに関しては、
感謝してるけどさ・・」
「でもよ。
このまま田村が引き下がるとは、
思えねえけどな」
「そうなんだよね・・。
かと言って。
警察に話したところで、
信じてくれないだろうし・・」
自然と溜息が漏れた。
「そりゃな。
決定的な証拠でもありゃ、
話は別だろうけどな。
何せ。
目撃したのは霊で、
しかも酔っ払いの爺ぃだからな。
てかよ。
そんなに悩むんなら。
いっそのこと。
田村の背中を押して、
殺しときゃよかったんだよ」
「ちょ、ちょっと、兄ちゃん!
何てこと言うんだよ!」
僕は慌てて否定した。
しかし。
あの時の僕は・・。
何かのきっかけがあったら、
田村の背中に
手をかけていたかもしれない・・。
そこまで考えて、
僕は激しく首を振った。
「ヒヒヒ。
冗談だよ。
でもな。
覚悟しといた方がいいぜ。
相手は人殺しだ。
おまけに狡賢い大人ときた。
いつ何を仕掛けてくるか、
わからねえぞ」
ふいに血走った田村の目が脳裏をよぎり、
僕はブルッと身震いした。
「こ、怖いこと言わないでよ・・」




