第96話 おっぱいを・・
トマトジュースの入ったコップを持って
部屋に戻ると、
幻夜がベッドに足を組んで座っていた。
今夜も桃花色の短パンから、
艶めかしい太ももが覗いていた。
体のラインがはっきりとわかる
真っ白なTシャツからは、
赤い下着の線が透けていた。
風呂上がりなのか、
後ろで雑にまとめられた髪は、
若干濡れていた。
幻夜はコップを受け取ると、
口をつけずに
ベッドボードの上に置いた。
「円響の霊のこと、
私には秘密にしてたのね」
幻夜の鋭い視線に、
僕は思わず目をそらした。
「べ、別に。
秘密にしてたわけじゃないよ。
話す機会がなかっただけで・・」
そして。
机に座ってから、
くるりと椅子を回した。
「ふうん。
そういうことにしといてあげる」
幻夜は改めてコップを手に取ると、
ゴクゴクゴクと一気に流し込んだ。
それから。
空になったコップをベッドボードの上に
ドンッと乱暴に置いた。
「あのね。
1つだけ言っておくわ。
私だって円響と話さえできてたら。
彼女が犯人じゃないことくらい、
わかったわよ」
幻夜は腕を組んで頬を膨らませた。
どうやら。
幻夜が苛立っている理由は、
僕が隠し事をしていたことではなくて、
自分の推理が外れたことにあるようだ。
僕はホッと胸を撫で下ろした。
「・・はいはい。
猿も木から落ちる。
弘法も筆の誤り。
って言うからね。
この場合は、
名探偵も推理の誤り。
ってことになるのかな?」
僕が皮肉ると、
幻夜の目が鋭く光った。
「な、何だよ・・。
べ、別に嫌味じゃないからな」
僕は幻夜の反撃に身構えた。
「はぁーっ」
ふいに幻夜が大きな溜息を吐いた。
「納得はいかないけど。
賭けは私の負けよ。
いいわ。
何でも1つだけ、
お願いを聞いてあげる」
そう言って幻夜が足を組み替えた。
「へっ?」
僕は呆気に取られたまま、
言葉を失った。
時計の針が
コチコチコチと時を刻んでいた。
「何よ。
さっさと言いなさいよ」
幻夜は腕を組むと、
不満げに天井を睨み付けた。
僕の目は自然とその強調された胸に、
釘付けになった。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
それから慌てて頭を振った。
「べ、別にいいよ。
そ、それに。
やっぱり不謹慎だし・・」
そもそも。
あの賭けは、
幻夜が勝手に言い出したことで、
僕は応じた覚えなんてない。
「今更、
真面目ぶらなくてもいいわよ。
ほら。
言ってみなさいよ。
1つだけ願いを聞いてあげるから」
幻夜が僕へ目を向けた。
その目が赤く光った・・。
ように見えた。
「お、おっぱいを・・」
そう口にしたところで、
僕は慌てて口に手を当てた。
「へんたい」
幻夜が白い目で僕を見ていた。
「ち、違うっ!
今のは誘導尋問だ!」
「私が何を誘導したっていうのよ?」
「こ、怖い目で睨むから・・」
「言い掛かりもいいところね。
それで。
おっぱいをどうしたいのよ?」
僕は全力で首を振った。
「ち、違うって言ってるだろ!
と、兎に角。
僕は何も望んでないよ。
賭けはそっちが
勝手に言い始めたことだし」
そう言って僕はコップを手に取った。
コーヒーの苦みが、
邪念を胸の奥に流し込んでいった。
「へぇ。
後で後悔しても遅いわよ。
おっぱいくらいなら、
触らせてあげても良かったのに」
「はぶっ!」
コーヒーが気管に入って僕は咽た。
幻夜が微笑んでいた。
小さな八重歯が覗いていた。




