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異端者達のメメント・モリ ~冬の始まり  作者: Mr.M
十一章

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94/117

第94話 殺人犯

西へ傾いた陽が、

街並みを赤く染めていた。


田村が首を傾げた。

「疲れてる?

 こんな状況でも、

 先生を心配してくれるのか?」

「ち、違うよ!

 せ、先生は・・。

 霊に取り憑かれてるんだ。

 先生の後ろには

 背後霊になった円が立ってる・・」

僕は努めて冷静に、

感情を押し殺して告げた。

田村が2度、

パチパチと目を瞬かせた。

「はっはっはっ。

 背後霊だと?

 随分と想像力が逞しいな。

 でもな。

 そんな話はここだけにしておけよ。

 頭がおかしくなったと思われるぞ」

「どう思われたって構わない・・。

 でも。

 先生が円を殺したのは、

 紛れもない事実だよね」

「そこまで言うからには。

 証拠があるんだろうな?」

田村がにやにやと笑っていた。


「目撃・・者はいるよ」

僕は小さな声で呟いた。

田村の表情が一瞬だけ曇った。

「先生が・・。

 円の背中を押すところを、

 車道の反対側にいたお爺さんが、

 見てたんだ」

「はっはっはっ。

 もしそれが本当なら、

 警察が捜査をしてるはずだよな?

 でも実際は、

 事故として処理されてるじゃないか」

当然。

地縛霊は目撃者になり得ない・・。

「くそっ・・」

思わず声が漏れた。

田村がふたたび僕に背を向けた。

円の霊が背後にぴたりと寄り添っていた。

その両腕はだらりと垂れ下がっていた。

生温い風が頬を撫でた。


「どうした?

 今なら背中を押せるぞ?

 それとも。

 お前が言う円の背後霊が邪魔をして

 押せないのか?」

田村がマゼンタ色の空を仰いだまま、

挑発するように言った。

僕はごくりと唾を飲み込んで、

震える手をグッと握りしめた。

「はっはっはっはっはっはっはっは」

田村の高笑いが響いた。

「お前にそんな勇気はないだろう」

田村は振り向くと、

オールバックの髪を撫でつけた。

「いいか?

 証拠もないのに、

 人を疑うのはよくないぞ。

 そういう思い込みや決めつけが、

 冤罪を生むんだ」

そう言って田村は

ゆっくりと僕の方へ歩いてきた。

「冬至。

 お前もここから飛び降りてみるか?」

その顔は笑っていた。

僕は恐怖に駆られ、

後ずさった。

「せ、先生・・」

足が震えて、

もつれた。

「あっ!」

次の瞬間。

僕はバランスを崩し、

コンクリートに尻餅をついた。

「はっはっは。

 怖いのか?

 お前は先生のことを、

 殺人犯と思ってるんだよな?

 それなら猶更。

 むやみに殺人犯を

 刺激しちゃ駄目じゃないか?

 授業でも教えたはずだぞ。

 『君子危うきに近寄らず』

 ってな。

 さては聞いてなかったな、冬至」

普段と何ら変わらない口調で、

田村はそんなことを言った。

しかし。

その目は血走り、

口元は笑っていた。

それが余計に恐ろしかった。

殺される・・。

そう思うと声が出なかった。

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