第92話 霊を喰う男
7月14日。水曜日。仏滅。
この日の5時間目の授業は国語だった。
田村がホワイトボードに
板書をしていた。
田村の後ろには、
背後霊となった円がそっと佇んでいた。
その様子は、
僕がこれまでに見た霊の中でも、
やや特殊だった。
一般的に。
霊というものは、
生前、
その人物が死んだ時の状態で現れる。
溺死。
轢死。
圧死。
悲惨な最期を迎えた者の中には、
見るも無残な姿となっている者も
少なくない。
それでも。
共通しているのは、
どの霊も、
霊としての活力に
満ち溢れているということだ。
しかし。
今の円の様子は・・。
見るからに弱々しかった。
口がだらしなく開いて、
両腕がだらりと垂れ下がっていた。
その目は
ぼんやりと田村を見つめていた。
「あの背後霊の子は悪霊だねぇ。
でも。
悪霊にしては元気がないねぇ。
きっと。
憑いた相手が悪かったんだろうねぇ」
ふいにそんな声が聞こえた。
僕は視線を斜め前の席へ移した。
ツインテールに結ばれた
緑色の髪が見えた。
久瑠は教科書に目を落としていた。
そんな彼女の後ろに立っている
白髪の老婆が、
僕の方を見て微笑んでいた。
「そ、それは・・。
どういうこと・・ですか?」
「ん?
冬至、
今の説明がわからなかったか?」
僕の声に田村が反応した。
「あ・・う、うん」
僕は慌てて頷いた。
「仕方がないな。
もう一度説明するから、
しっかり聞いておけよ」
田村はオールバックの髪をさっと撫でた。
「悪霊に背後霊として憑かれるとねぇ、
憑かれた人間は、
肉体と精神が蝕まれ、
日に日に弱っていくんだよ。
端から見れば、
重い病気に罹ったようにしか
見えんだろうて。
悪霊に憑かれてるなんて、
医者にも分かりゃせんからのぅ。
そして。
悪霊の怨念が強けりゃ、
最悪、
死に至ることもあるんだよ」
「そ、そうなんだ・・」
僕は田村の説明を聞くふりをしながら、
老婆に向かって相槌を打った。
「でも見てごらん。
あの2人の有様は、
あべこべだろぅ?
いるんだねぇ、
稀に。
霊の生命力を・・いやいや、
霊はすでに死んでるから、
霊力とでも言うかねぇ。
その霊力を吸い取って、
生きる力に変える人間が。
あの男。
随分と図太い神経を
してるようだねぇ。
あたしゃ、
初めから気に食わなかったんだよ」
そう言って老婆は、
「しっしっし」
と笑った。




