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異端者達のメメント・モリ ~冬の始まり  作者: Mr.M
十章

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88/118

第88話 2人

中学2年生になる前の、

春休みのある日の昼下がり。


円響はふらっと街へ出かけた。

宿禰駅のターミナルは、

行き交う人々で賑わっていた。

その人混みの中に、

円は1人の少女を見つけた。

少女は丈の短い、

白いレースのワンピースを着ていた。

露わになった健康的な褐色の肌は、

人混みの中でもひときわ目を引いた。

少女はダークブラウンの髪を

後ろで1つに結んで、

広い額を見せていた。

アーチを描く眉と、

二重の大きな猫目が特徴的だった。


・・安武マリア。


教師ですら円の顔色を窺う中、

マリアだけは

円に媚びることはなかった。

いや。

マリアはそもそも

円を相手にしていなかった。

それに。

マリアは真面目で、

成績も良い優等生だった。

そして。

誰もが羨む美貌の持ち主でもあった。

円は、

そんなマリアのことが苦手だった。


その時。

若い男が3人、

マリアに声を掛けるのが見えた。

マリアは困ったように眉を下げ、

曖昧に笑みを返していた。

円は僅かに逡巡した後、

マリアのもとへと歩いていった。


「お待たせ」

円が声を掛けると、

マリアが驚いたように目を見開いた。

円はそのままマリアの手を取った。

「行くわよ」

すぐに男達が前を塞いだ。

「へー。

 お友達も可愛いじゃん」

「俺達と遊ぼうよ」

「臨時収入が入ったから、

 何でも奢るぜ」

男達は口々に誘い文句を並べた。

円はそんな男達に

冷ややかな視線を向けると、

鼻で笑った。

「フンッ。

 あんた達、

 身の程を知りなさい。

 そのはした金を握り締めて、

 風俗店にでも行ってくれば?

 それに。

 自分の顔を鏡で見たことがあるの?

 もし見たうえで、

 口説いてるなら、

 眼科より脳外科の受診をお薦めするわ」

「な、何だと!」

「少し可愛いからって、

 調子に乗るんじゃねえぞ!」

「口の利き方を教えてやろうか?」

男達が憤慨して円に詰め寄った。

その時。

「どなたか。

 警察を呼んでくれませんか」

マリアの静かな声が、

不思議なほど周囲に響いた。

道行く人々が足を止め、

その視線が、

マリアへと集まった。

「しつこく絡まれています。

 警察に連絡して下さい」

男達の顔に明らかな動揺が広がった。

「ちっ。

 行こうぜ」

「ブスのくせに調子に乗るなよ」

「てめえらみてえな餓鬼、

 こっちからお断りだ」

男達は口々に吐き捨てると、

足早に去っていった。


「フンッ。

 教養のない貧乏人は見苦しいわね」

「それは言いすぎですよ。

 それに。

 響の家と比べたら、

 大抵の家庭は貧しいでしょう?」

2人は顔を見合わせた。

「フフフッ」

マリアが微笑んだ。

「あはは」

円もつられて笑った。

「ねえ。

 暇ならどこかでお茶でもどう?」

円の口から自然とそんな言葉がこぼれた。

「そうですね。

 私も喉が渇いていたところです」


2人は駅ビルへ向かった。

そして2階にある

最近オープンしたばかりの

カフェに入った。

窓際のテーブルに

向かい合うようにして腰を下ろした。

僅かな緊張が、

円の全身を包んでいた。

そもそも。

1年間を過ごしてきた中で、

会話らしい会話をしたのは数える程度。

それなのに。

今はこうして、

2人きりで向かい合っている。

不思議だった。

すぐに注文した物が運ばれてきた。

円は、

季節限定の白苺のロイヤルパフェ。

マリアは、

イチジクのタルトとアールグレイ。


2人はしばらくの間、

他愛もない話に

花を咲かせていた。

その時。

ふいにマリアが言葉を止めた。

マリアは窓の外を見たまま固まっていた。

円も釣られてその視線の先を追った。

と。

駅前のロータリーを歩く

2人の姿が見えた。

冬至と妻鳥だった。

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