第86話 疑わしきは罰せず
アイスコーヒーの入ったコップを持って
部屋に戻ると、
白露はベッドに寝転び、
肩肘をついていた。
僕は机に座って、
くるりと椅子を回してから、
背もたれに寄りかかった。
「円を殺したのは誰なんだろう?」
僕はぽつりと呟いた。
「おいおい。
あの酔っ払いの爺ぃの話を
信じるのかよ?」
「犯人の顔は見てなかったとしてもさ。
円が背中を押されたことは、
事実だと思う・・」
僕はコップに口をつけて、
アイスコーヒーを一口だけ飲んだ。
その時ふと、
白露が田村の家で見たという
脅迫状のことを思い出した。
もし。
あの脅迫状を書いたのが、
円だったとしたら・・。
田村は妻鳥を殺し、
その死を自殺に偽装した。
だが。
それを円に目撃された。
だから田村は円を・・。
「なるほどな。
田村には円を殺す動機がある
ってことか。
でもよ。
姫の推理じゃ、
妻鳥を殺したのは円なんだろ?」
「あれは推理じゃなくて妄想だよ。
いや。
妄想ですらないね。
大体、
『お前が殺したのか?』
って聞かれて
素直に認める犯人なんて、
いないでしょ?
そもそも。
円とは話もしてないんだよ?
よくあれで探偵を名乗れるよね。
まったく。
信じられないね」
「おいおい。
姫の悪口は
いくらお前でも許さねえぞ。
それより。
お前、
何か円の肩を持ってねえか?」
「な、何言ってるんだよ。
確たる証拠もないのに、
疑うのは良くないってことだよ。
『疑わしきは罰せず』
それがこの国の法の基本原則だって、
スガワラさんも言ってたよ」
僕の言葉に、
白露はレジ袋を大きく膨らませた。
「ならよ。
円の霊に聞いてみろよ。
死んだ今となりゃ、
秘密を隠す必要もねえだろうし、
答えてくれるんじゃねえか?」
「それができれば苦労しないよ。
背後霊と話すのは、
物理的に難しいんだ」
「ヒヒヒ。
仕方ねえな。
俺様が一肌脱いでやるよ」
「えっ?」
僕が聞き返すと、
白露は得意げに胸を張った。
「ちょっと待ってろ」
そう言うや否や、
白露は壁をすり抜けて出ていった。




