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異端者達のメメント・モリ ~冬の始まり  作者: Mr.M
十章

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85/118

第85話 目撃・・者?

夕食を食べ終えてから、

僕は一旦部屋に戻った。

そして服を着替えてから、

20時になる前に家を出た。


「どこに行くんだよ?」

いつの間にか、

白いレジ袋を被った白露が

僕の横に立っていた。

「事故現場」

僕がそう言うと、

白露は首を傾げた。

僕はそれ以上説明せず、

ペダルを踏み込んだ。


本所町3丁目の市道。

そこは片側一車線の直線道路だった。

行き交う車のヘッドライトが、

車道を絶え間なく照らしていた。

道沿いには、

小さな事務所や昔ながらの店舗、

古びたアパートが、

ぽつぽつと並んでいた。

昼間なら、

それなりに賑やかだろう。

だが。

今はどの建物も静まり返っていた。

帰宅を急ぐ人達が、

パラパラと歩いていた。

歩道には街灯もない。

深夜ともなれば、

周囲はかなり暗くなるはずだ。

僕は自転車を降りると、

そのまま押して事故現場へ向かった。

やがて。

路肩に供えられた花束が見えてきた。

僕は花束の前で足をとめた。

「ここで女王様が事故に遭ったのか」

白露の声に僕は頷いた。

「でもよ。

 何でわざわざ信号機のないところを

 渡ったんだろうな」

その言葉で、

僕は改めて周囲を見回した。

前方50mほど先に、

後方30mほど先に、

それぞれ横断歩道が確認できた。

僕は眉をひそめた。


すれ違う人達が、

僕の方にちらりと視線を向けては

通り過ぎていった。

「で。

 何でここに来たんだよ?

 まさか。

 花を供えにきたわけじゃねえだろ?」

「うん・・。

 ・・何となく」

僕は言葉を濁した。

「あん?

 何だよそれ」

「・・別に。

 兄ちゃんこそ、

 何でついてきたのさ?」

「そりゃお前・・。

 って待て!

 あいつ、

 様子がおかしいぞ」

突然、

白露が向かいの歩道を指差した。

ボロボロの服を着た白髪の老人が、

千鳥足で歩いているのが見えた。

老人の髪は肩まで伸びていたが、

頭頂部は薄く、

地肌が覗いていた。

腰も曲がっていて、

70歳はとうに過ぎているように見えた。

次の瞬間。

老人はふらつきながら、

車道へ踏み出した。

「危ない!」

僕は叫んだ。

老人は僕の声に気付いた様子もなく、

そのまま歩き続けていた。

車のライトが老人を照らした。

僕は思わず目を閉じた。

しかし。

悲鳴も衝突音も聞こえてこない。

恐る恐る目を開くと、

老人は何事もなかったかのように

車道を渡り終えていた。


「お爺さん、危ないよ。

 昨日もここで

 事故があったばかりなんだ」

僕が注意をすると、

老人は、

「きゃきゃきゃ」

と前歯のない口を大きく開けて笑った。

その時。

すれ違う人達が、

怪訝そうな顔で

僕の方を見ていることに気付いた。

「おい!

 この爺ぃも霊だ!」

ふいに白露が叫んだ。

「えっ・・あ・・えっ?」

僕は慌てて口を閉じた。

周囲の視線が僕に突き刺さっていた。

どうやら通行人には、

僕が誰もいない道路に向かって、

話しかけているように見えたのだろう。

僕は慌てて、

ゴホンゴホンッと大袈裟に咳をした。


「ほぅほぅ。

 お前さん、

 儂が見えるのきゃ?」

老人が僕の前に立った。

その顔は若干赤らんでいた。

僕は老人から目をそらして、

小さく頷いた。

それから。

花束に向かって手を合わせた。

「そうきゃそうきゃ。

 昨日ここで

 車に轢かれた子の知り合いきゃ?」

僕は思わず老人を見た。

「し、知ってるの?

 事故のこと」

老人は赤ら顔を崩し、

何度も頷いた。

「それで。

 犯人は捕まったのきゃ?」

「・・うん。

 運転してたのは、

 若い男だったらしいよ」

「違う違う。

 そっちじゃない。

 あの子を車道に押し出した

 男のほうじゃ」

「は・・え、えええっっ?」

つい声が裏返った。

僕は慌てて口を押さえた。

「おい。

 この爺ぃ酔っ払ってるぞ。

 話しても無駄だ。

 行くぞ」

白露が僕の肩を叩いた。


「きゃきゃきゃ」

老人はふたたび

前歯のない口を開けて笑った。

「酔っ払いでも。

 事故と殺人の区別くらいつくわい。

 あの子はのぅ。

 後ろから近づいてきた男に、

 背中を押されたんじゃ」

僕と白露は顔を見合わせた。

「お爺さんはその男の顔を見たの?」

「ん?

 あ・・ま、まぁな・・」

老人は言葉に詰まった。

「見てねえな、

 この爺ぃ」

「な、何じゃと!

 儂は見たんじゃ。

 あの子が背中を押されたところを、

 はっきりとな!」

老人は真っ赤な顔で、

白露に言い返した。

「でもよ。

 男の顔は見てねえんだろ?」

「うぐぐ・・」

「見てないの、お爺さん?」

「儂はあっち側の歩道におったんじゃ。

 それに。

 そいつは真っ黒な服を着て、

 帽子を被っとったんじゃ」

「つうことは。

 背中を押した奴が

 男かどうかも怪しいもんだぜ」

白露が大袈裟に両手を挙げた。

生温い夜風が頬を撫でた。

僕はそっと溜息を吐いた。

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