第84話 背後霊
書斎の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・そして。
どういうわけか。
死んだ円くんは、
背後霊となって、
田村先生に憑いてる。
ここで重要なのはね。
背後霊というのは、
多くの場合が身内の霊なんだよ。
いわゆる守護霊だね。
だけど。
稀に円くんのように、
他人に憑く場合もある。
そして。
そういう場合、
そのほとんどは悪霊なんだよ」
「あ、悪霊・・」
「そう。
何らかの恨みを抱いて
死んでいった者の中には、
悪霊になる者がいる。
生前に酷い仕打ちを受けた者や、
あるいは、
殺された者などは、
悪霊になりやすい」
「それってさ。
つまり・・。
円は田村先生に殺されたから、
悪霊になって
田村先生に憑いたってこと?」
「そう考えるのが、
自然なんだけどね・・」
スガワラさんはそう言って
首に巻かれたネクタイを触った。
「でも。
実際のところ、
円くんは、
交通事故に遭ったんだよね?
それに。
君は妻鳥くんと円くんの件を
同一犯の仕業と考えてるようだけど。
そうなると。
田村先生には
2人を殺すどんな理由が
あったんだろうね」
「そ、それは・・」
やはり円は黒猫の呪いで死んだのか。
そして妻鳥を殺したのは・・。
ふと昨日の小林の言葉が頭をよぎった。
円が恋敵の妻鳥を殺した。
幻夜にしろ、
小林にしろ、
勝手な思い込みから、
円のことを
妻鳥殺しの犯人と決めつけている。
幻夜の根拠のない推理はさておき。
仮に。
小林の観察力が本物で、
円が僕のことを好きだったとして、
それだけで人を殺すだろうか。
そもそも。
僕と妻鳥の関係は、
誰にも知られていないはずだ。
いや・・。
正確には、
マリア以外の人間には・・だが。
兎に角。
僕と妻鳥の関係が知られていない以上、
円が嫉妬して、
妻鳥を殺したという線は考え難い。
それなら。
一体、
誰が妻鳥を殺したのか。
僕は小さく頭を振った。
「円くんから話を聞くことが
できればいいんだけどね」
「うん・・」
僕はふたたび頭を振った。
今日一日。
僕は何度か
円の霊に接触を試みようとした。
しかし。
それは叶わなかった。
円の霊は田村の後ろを
離れることがなかったからだ。
円に話しかけようとすれば、
必然的に田村にも話を聞かれる
というわけだ。
「それは仕方がないね。
円くんは背後霊だからね」
僕は思わず溜息を吐いた。




