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異端者達のメメント・モリ ~冬の始まり  作者: Mr.M
十章

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83/118

第83話 黒猫

放課後。

僕は圭太と良司の誘いを断って、

スガワラさんの家を訪ねた。


「その顔は何かあったのかい?」

僕が書斎に入ると、

机に座っていたスガワラさんが

立ち上がった。

スガワラさんは

部屋の隅の木製の椅子へ移り、

僕に机を勧めた。

「実はさ・・」

そして僕はここ数日間の出来事を

順を追って説明した。


「なるほどね。

 つまり。

 田村先生に憑いてた生霊は、

 円くんだったんだね。

 その円くんは事故で亡くなって、

 今は背後霊として、

 田村先生に憑いてるわけだね」

「う、うん・・。

 何が何だか、

 さっぱりわからないんだ」

「ふむ。

 その謎を解くには、

 時系列に沿って、

 整理した方がいいね。

 まずは。

 どうして円くんが生霊を生み出し、

 田村先生に憑いてたのか。

 ということだけど」

スガワラさんは

ゆっくりと足を組み直すと、

小さく頷いた。

「この前も少し話したけど。

 生霊とは

 強い執着によって、

 生きてる人間の魂が肉体を離れ、

 別の場所に現れる現象なんだけどね。

 その多くは、

 愛か憎しみなんだよ。

 どちらも。

 強い執着から生まれる感情だからね。

 そして。

 愛する人を想うあまりに

 生霊になることは、

 そんなに珍しいことじゃない。

 たまに。

 それほど親しくない異性が、

 夢に出てくることがあるだろ?

 あれは相手の強い想いが、

 生霊になって飛んできてるんだよ」

スガワラさんがにこりと微笑んだ。

「ふ、ふーん・・」

僕は小さく首を傾げた。

「基本的にね。

 愛による生霊は、

 それほど厄介なものではないんだ。

 でも。

 憎しみから生まれた生霊は違う。

 危険なんだよ。

 毎夜、

 憎む相手の夢枕に立ち、

 その者を追い詰めていく。

 睡眠障害を患ってる人の中には、

 生霊に憑かれてる人もいるんだ。

 それだけじゃない。

 生霊を生み出すほどの強い憎しみは、

 生み出した本人の

 心や体まで蝕んでいく。

 人を呪うっていうことは、

 自分の命まで削ってるんだよ」

「そ、そうなんだ・・」

僕は白露が見たという、

円の姿を思い出した。

「そうは言ってもね。

 普通の人間には、

 簡単に生霊を生み出すことなんて、

 できないんだよ」

「じゃあどうして円は・・」

スガワラさんは、

ゆっくりと首を振った。

「・・恐らく。

 円くんは黒魔術を使って、

 田村先生を呪い殺そうとしたんだよ」

「く、黒魔術・・!」

僕は息を呑んだ。

「うん。

 そう考えると、

 彼女に憑いた黒猫の霊にも説明がつく。

 円くんは黒猫を生贄に捧げたんだよ。

 その結果。

 彼女は生霊を生み出したのさ」

ふいに。

首のない黒猫の姿が脳裏に蘇り、

僕は全身が総毛立った。


書斎の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


「しかし・・ね。

 ただでさえ。

 動物の怨念は危険なのに。

 よりによって黒猫とはね・・」

スガワラさんはそう言うと、

溜息を吐いた。

「そんなにヤバいの、

 黒猫って?」

「そうだねぇ。

 そもそも黒猫というのは、

 古くから西洋では

 不吉の象徴とされてきたんだ。

 聞いたことはないかい?

 黒猫は魔女の使い魔。

 黒猫が前を横切ると不吉。

 黒猫を跨ぐと不幸になる。

 黒猫を飼う家には災厄が訪れる。

 黒猫が鳴くと死が近い。

 黒猫と目が合うと呪われる。

 等々。

 黒猫にまつわる不吉な言い伝えは、

 枚挙にいとまがない。

 実際、

 過去には魔女狩りなどによって、

 黒猫が殺されることもあったんだよ。

 今でも黒猫を不吉だと信じている人は、

 少なからずいる。

 一方で。

 黒という色には、

 邪気を払う力があるとされててね。

 黒猫は『福猫』とも呼ばれ、

 魔除けや厄除け、

 さらには商売繁盛を願う縁起物として、

 大切にされてもいるんだ」

「ふーん」

僕は曖昧に頷いた。

「まあ。

 ボクは、

 黒猫が不幸を運んでくるという迷信は、

 後付けに過ぎない、

 と考えてるんだけどね。

 どういうことかというと、

 先後関係と因果関係の違いだね。

 つまり。

 黒猫が現れた後に、

 たまたま不幸や厄災が起こった。

 人々はその2つを結び付け、

 黒猫は不吉な存在だと思い込んだ。

 結果。

 黒猫に対する迷信が広まった」

「へ、へぇ・・。

 それでさ。

 結局どういうことなの?

 黒猫に関する迷信は、

 全部嘘ってこと?」

「いや。

 黒猫に少なからず霊力があるのは

 事実だよ」

「じゃ、じゃあ・・もしかして・・。

 円は黒猫の呪いで・・死んだの?」

「確かに。

 その線も否定はできないね。

 あとは。

 もう1つの可能性だけどね・・」

そう言って、

スガワラさんは口元に手を当てた。

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