第82話 7月13日。火曜日。先負。
朝。
チャイムが鳴ると同時に、
教室のドアが開いた。
中に入ってきた人物を見て、
僕は思わず目を瞬かせた。
オールバックで綺麗にまとめられた髪。
ダークグレイの真新しいスーツ。
「先生、イメチェン?」
「そっちの方が断然いいよ!」
三木と薬袋が黄色い声援をあげた。
そこでようやく。
僕はその人物が
田村であることに気付いた。
田村は無精髭をきちんと剃っていた。
以前に比べてやや痩せてはいたが、
顔色は良く健康的に見えた。
数日前に見た時とは、
まるで別人のようだった。
教壇に立った田村が
「いやあ。
休んで悪かったな」
と言ってオールバックの髪を撫でた。
その時。
僕の目が信じられない光景を捉えた。
田村の背後の閉じられたドアから、
1人の少女が入ってきた。
白いブラウスに薄手のカーディガン。
膝丈のスカートという恰好。
服装だけを見れば、
休日に街へ出掛けるような、
ごく普通の格好だった。
だが。
その姿は明らかに異様だった。
肩まで伸びた杜若色の髪は乱れ、
頬には乾いた血がこびりついていた。
白いブラウスの胸元や袖口には
黒ずんだ血痕が点々と残り、
スカートの裾も破れていた。
目の下には濃い隈が浮かび、
肌は死人のように青白かった。
その少女は・・円だった。
円の虚ろな二重の目が、
じっと田村を見つめていた。
「どうしたのよ。
顔が怖いわよ」
その声で僕は我に返った。
頬杖をついた幻夜と目が合った。
「えっ・・あ・・いや・・。
な、何かさ。
田村先生・・。
雰囲気が変わったなと思って・・」
僕は咄嗟に誤魔化した。
「そう?
単に髪型と服を整えただけでしょ。
冬至って本当に単純ね。
見た目でコロッと騙されちゃって」
そう言って、
幻夜は小さく欠伸をした。




