第80話 バチ
休み時間になると、
机で本を読んでいるマリアの許へ、
雲泥と久瑠が近づいていくのが見えた。
どうやら。
2人は円に代わる新たな主として、
マリアを選んだようだ。
三木と薬袋は机を向かい合わせて、
談笑していた。
安心院は相変わらず、
机の上の参考書と睨めっこしていた。
同じように二ノ宮も本を広げていたが、
読んでいるのは漫画本だった。
剣野は腕を組んだまま目を閉じて、
静かに呼吸を整えていた。
その隣の席の九は、
机につっ伏して寝ていた。
教室の後ろでは、
圭太と良司が道成寺を交えて、
攻略中のゲームの話で盛り上がっていた。
幻夜の姿は見当たらなかった。
ここには、
円の死を悼んでいる者はいなかった。
まるで。
初めから円という生徒など
存在していなかったかのように、
教室にはいつもと変わらない時間が
流れていた。
僕はベランダに出た。
日差しが眩しく、
僕は目を細めた。
熱を帯びた風が頬を撫でた。
「ば、バチって信じる・・?」
ふいに背後から声がして、
僕は驚いて振り返った。
目の前に小林が立っていた。
「・・バ、バチ?」
僕は何のことかわからず、
聞き返した。
「う、うん・・。
ま、円のこと・・。
こ、こんなこと言うのはあれだけど。
か、神様がバチを与えたんだ・・」
そう言うと、
小林は大きく息を吐き出した。
小林が何を考えていたのかわかって、
僕は小さく息を吸い込んだ。
「あのさ。
小林が見た屋上の人影のことだけど、
本当に円だったのかな?」
「えっ?」
「だってさ。
小林は目が悪いだろ?
おまけに前髪が邪魔して視界も悪い。
それに。
目の前で妻鳥の死体を見て、
動揺だってしてたはずだよね?」
小林は心外とばかりに、
激しく首を振った。
「た、たとえそうだとしても・・。
お、男と女は見間違えないよ」
小林が食い下がった。
「そ、それに・・。
ま、円には、
つ、妻鳥さんを殺す動機がある・・」
小林は静かに呟いた。
「と、冬至くん・・。
つ、妻鳥さんのことが・・。
す、好きだったよね?」
話題が急に変わったことよりも、
小林の口から出た言葉に驚いて、
僕は思わず目を見開いた。
前髪に隠れた黒縁眼鏡の奥の目が、
じっと僕を見つめていた。
「ぼ、僕はこう見えても・・。
か、観察力はあるんだ。
と、冬至くんの妻鳥さんを見る目・・。
す、すぐに気付いたよ」
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
額に汗が滲んだ。
「そ、そして・・。
ま、円の冬至くんを見る目・・。
あ、あれは・・。
す、好きな人を見る目だった・・」
小林の口元には、
微かな笑みが浮かんでいた。
「ま、円は・・。
こ、恋敵の妻鳥さんを・・。
こ、殺したんだ・・」
そう言うと、
小林は黒縁眼鏡のブリッジに
そっと手を触れた。
僕は小さく息を吸い込んでから、
額に滲んだ汗を拭った。




