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第75話 7月10日。土曜日。赤口。
昼下がり。
僕は本所町へと足を運んだ。
柔らかな陽射しが降り注ぐ住宅街は、
穏やかな空気に包まれていた。
人通りも疎らな中、
僕は向こうから歩いてくる人影に
気付いた。
その人物は
上下とも深い紺色のジャージを着ていて、
キャップを目深に被っていた。
体の線は細く、
一見しただけでは男か女か
区別がつかなかった。
すれ違う直前、
その人物が囁いた。
「物部町はどこかな?」
僕は足を止めて、
相手を見上げた。
白い首と細く尖った顎が見えた。
「えっと。
物部町ならずっと向こうだよ」
僕はそう言って、
やって来た道の方を指差した。
「そうかい。
ありがとう」
その人物はキャップのつばに指を掛けて
軽く会釈をすると、
そのまま歩き出した。
僕は遠ざかっていくその背中を、
ぼんやりと見送っていた。
男なのか女なのか、
結局わからなかった。
気付けば、
周囲を行き交う人々が
訝しげに僕を見ていた。
僕は慌てて歩き出した。




