第74話 門前払い
コップを2つ持って
部屋に戻ると、
幻夜が立ったまま部屋の中を
キョロキョロと見回していた。
「出かけてたの?」
「う、うん。
ちょっと・・」
僕は言葉を濁して、
幻夜にトマトジュースの入った
コップを渡した。
幻夜はそれに口をつけることなく、
コップをベッドボードに置いた。
「ねぇ。
シロウはどこにいるの?」
「しろう?」
僕は聞き返した。
「もう。
この間決めたでしょ。
白露のことよ」
「あ、ああ。
兄ちゃんならほらそこに」
そう言って僕は幻夜の隣を指差した。
「キャー!
へんたいっ!」
幻夜の悲鳴が耳をつんざいた。
僕は思わず肩をすくめた。
時計の針が
コチコチコチと時を刻んでいた。
「いい?
私の半径1m以内には
絶対に近寄らないで。
もし。
この決まりを破ったら殺すわよ」
幻夜はベッドに腰を下ろすと、
何も無い空間に向かって、
指を突きつけた。
僕は溜息を吐いて机に座った。
「お言葉ですが。
兄ちゃんはすでに
死んでるですけどね。
あとさ。
そんなに大きい声を出したら、
霊だってびっくりするだろ」
僕が突っ込むと、
幻夜は頬を膨らませて、
僕を睨んできた。
僕は慌てて目をそらした。
「それよりさ。
こんな時間に何の用だよ?」
「そうそう。
そのことだけど。
今日の放課後。
円響の家に行ってきたのよ」
幻夜がポンッと手を叩いた。
「へ、へぇ・・」
僕は曖昧に頷き、
アイスコーヒーを一口啜った。
「ちなみに聞くけどさ。
何のために行ったのかな?」
「あら?
学校を休んでるクラスメイトを
心配するのは、
友達として当然でしょ?」
幻夜は何食わぬ顔でそう言って、
コップに口をつけた。
「いつから円と
友達になったんだよ・・」
僕はふたたび小さく溜息を吐いた。
「それで?
円は元気にしてた?」
「それがね。
門前払いよ。
『あいにく。
お嬢様は、
お会いになりたくないと
仰っております』
だって。
本当に失礼しちゃうわ」
幻夜は腕を組んで、
唇を尖らせた。
「そ、そりゃね・・。
そもそも。
何を話すつもりだったんだよ?」
「決まってるじゃない。
妻鳥小絵を殺したのか
って聞くつもりだったのよ」
そう言って、
幻夜はにこりと微笑んだ。
小さな八重歯が覗いていた。
僕は開いた口が塞がらなかった。




