第62話 霊の行方②
階段を駆け下りて、
202号室のドアの前に立った。
一度深呼吸をしてから、
僕はドアホンを押した。
しばらくするとドアが開いて、
濡れた髪の幻夜が顔を出した。
ゆったりとした白いTシャツの首元が
大きく開いていた。
「何よ?
こんな時間に突然レディの部屋を
訪ねてくるなんて、
非常識にも程があるわよ」
「あ・・いや・・ちょっと話があって」
僕はそっと奥を覗き込んだ。
「な、内装はそのままなんだね」
幻夜の部屋に通された僕は、
そわそわと室内を見回した。
「私は一時的に借りてるだけだから。
ね。
それより。
そんな話をしにきたの?」
「えっ。
ああ・・えっと。
夜也さんはいないの?」
「まだお店を手伝ってるわよ。
何?
まさか。
冬至ってお母さんが好きなの?
盗撮マニアの熟女好きだなんて、
若いのに随分と歪んでるわね。
将来が心配だわ」
幻夜が口許を歪めた。
「ち、違うよ!」
僕は激しく首を振った。
「そ、それより!
と、トイレを借りてもいいかな?」
「はぁ?
自分の部屋でしてきなさいよ」
「だ、駄目だよ!
も、漏れちゃうよ!」
「もう。
さっさと済ませなさいよ。
場所はわかるでしょ?
間取りは同じなんだから」
「う、うん」
僕は急いで部屋を出た。
廊下に出た僕は
正面の部屋のドアをそっと開けた。
部屋は真っ暗だった。
「兄ちゃん?」
僕は暗闇に向かって呼びかけた。
反応はなかった。
続いて僕はトイレのドアを開けた。
当然中には誰もいなかった。
洗面所にも怪しい点はなかった。
その時。
僕の目が洗濯機の横にある籠を捉えた。
どくん。
胸が鳴った。
僕は恐る恐る籠の中を覗き込んだ。
真っ赤な下着が目に飛び込んできた。
ごくり。
飲み込んだ唾の音が
想像以上に大きく感じられて、
僕は慌てて周囲を見回した。
誰もいなかった。
僕は頭を振り、
急いで洗面所を出た。
それから。
リビングキッチンのドアを開けた。
部屋は真っ暗だった。
「兄ちゃん?」
僕は暗闇に向かって呼びかけた。
またしても反応はなかった。
部屋に戻ると、
幻夜は机に座って足を組んでいた。
艶めかしい太ももが覗いていた。
僕はすぐに視線を外して、
ベッドに腰を下ろした。
「それで。
何の話?」
「え、えっと・・」
口を開いたものの、
その先が続かなかった。
まさか。
白露を探しに来たとは言えない。
「ね。
白露さんは今、
どこにいるの?」
「えっ!
そ、それは・・その・・。
そうだ!
僕の部屋で大人しくしてるよ!」
「何よ。
そんなに大きな声を出さなくても、
聞こえてるわよ。
ふうん。
連れてこなかったのね。
そうそう。
私も聞きたいことがあったの。
幽霊って歳を取るの?」
「へっ?
い、いや・・。
ほとんどの霊は死んだ時のまま
歳を取らない、
ってスガワラさんは言ってたけど」
「ふうん。
つまり。
今は白露さんよりも私達の方が年上、
ってことになるわけね。
ということは。
これからは呼び捨てでいいわね。
あ。
でもこれだと他の人に聞かれちゃ
まずいから・・。
そうね。
『シロウ』って呼ぶことにするわ。
漢字はやっぱり・・四郎かしら?
冬至の弟になるんだもの」
そう言って幻夜は「ふふふ」と笑った。
「・・好きに呼べばいいと思うよ」
僕は小さく溜息を吐いた。




