第60話 一陣の風
7月8日。木曜日。仏滅。
先月末から始まった期末試験が
無事に終わった。
その結果に肩を落としながらも、
ふたたび平穏な日常が戻ってきたことに、
僕は胸を撫で下ろしていた。
そんな折。
今月に入ってすぐ、
クラスに大きな変化があった。
マリアの提案によって、
『Dゲーム』が廃止されたのだ。
この日の放課後。
教室の掃除が終わると、
圭太と良司は、
駅前にできたラーメン屋の
半額サービスを目当てに、
真っ先に教室を飛び出していった。
クラスメイト達が出ていく様子を、
僕は机に座ったまま
ぼんやりと眺めていた。
気付けば。
教室には僕だけが取り残されていた。
僕は円の席に目を向けた。
円は相変わらず学校を休んでいた。
期末試験も教室ではなく、
理事長室で受けたらしい。
理事長室に入っていく円の姿を、
偶然にも圭太が目撃していたのだ。
僕は鞄を持って教室を出た。
そして校舎の東階段を上がった。
3階からさらに階段を上り、
屋上の扉の前で立ち止まった。
妻鳥に会うのはあの日以来だった。
しばらく顔を見せなかったことを、
彼女は怒っているかもしれない。
何と声をかければいいだろう。
試験勉強で忙しかったと言えば、
笑って許してくれるだろうか。
僕は大きく息を吸い込んでから、
扉を開いた。
西の空が赤く染まっていた。
僕は胸の高鳴りを抑えつつ、
一歩を踏み出した。
屋上に生徒の姿はなかった。
僕は中央まで進んでから
ぐるりと周囲に目をやった。
「妻鳥?」
僕の声は
溶けるように空へと消えていった。
僕はもう一度ぐるりと見回した。
「ごめん。
期末試験の勉強で忙しくて、
顔を出せなかったんだ。
だから。
今日は、
ゆっくり話ができるよ」
僕は少し声を張って、
言い訳をした。
返事はなかった。
「妻鳥?」
僕はもう一度、
今度はさらに大きな声を出した。
一陣の風が吹いた。




