第116話 青い空
7月21日。水曜日。大安。
終業式を終えて教室に戻ると、
室内はいつも以上に賑わっていた。
明日から始まる夏休みに、
皆、
すっかり浮き足立っているようだった。
雲泥と久瑠は道成寺を交えて、
何か話し込んでいた。
三木と薬袋は机を向かい合わせて、
ヒソヒソと内緒話をしていた。
安心院は相変わらず、
机の上に参考書を広げていた。
二ノ宮は机につっ伏して寝ていた。
教室の後ろでは、
圭太と良司が、
夏休みの旅行の計画を話し合っていた。
ベランダには九と剣野がいた。
2人は何やら言い争っていたが、
その表情はどこか楽しそうだった。
僕は空席になっている
マリアの席へ目を向けた。
僕が彼女にしたことは、
本当に正しかったのだろうか・・。
「余程。
安武マリアが恋しいのね」
幻夜が机に頬杖をついて、
横目で僕を見ていた。
「ち、違うよ!」
僕は小声で反論した。
「はいはい。
そんなに気になるなら、
お見舞いにでも行ってくれば?
弱ってる時に口説くのは、
恋愛の定石よ?」
「ば、馬鹿なこと言うなよ!」
その時。
教室の扉が開いて、
体育教師の佐々木が入ってきた。
佐々木は教壇に立つと、
手短に夏休みの注意事項を説明した。
ホームルームはあっという間に終わり、
皆それぞれに
別れの言葉を口にしながら、
教室を出ていった。
結局。
佐々木は
マリアについて何も触れなかった。
僕は圭太と良司に、
用事があると告げて、
先に教室を出た。
僕は校舎の東階段を上がった。
3階を通り過ぎ、
そのまま屋上へ向かった。
屋上の扉の前で立ち止まり、
一度、
大きく息を吸い込んだ。
そして。
躊躇いがちに扉を開けた。
青い空が広がっていた。
僕はゆっくりと足を踏み出した。
屋上には誰もいなかった。
僕は中央まで進んでから
ぐるりと周囲に目をやった。
「妻鳥?」
僕の声は
溶けるように空へと消えていった。
僕はもう一度ぐるりと見回した。
「やっぱり。
いないんだね・・」
僕は溜息交じりに呟いた。
一陣の風が吹いた。
僕は屋上の縁まで歩いて、
そっと下を覗き込んだ。
花壇が見えた。
「君に報告できなくて、
僕は少しだけ安心してるんだ・・」
僕は誰にともなく独り言ちた。
「何が安心なのよ?」
背後からの声に驚いて、
僕は体勢を崩した。
「あっ・・あああぁぁあああああ!」
落ちるっ!
そう思った瞬間、
手首を掴まれ、
ぐいっと引っ張られた。
僕は屋上のコンクリートの上に
倒れ込んだ。
慌てて身を起こすと、
四つん這いになって、
肩で大きく息をした。
心臓が早鐘を打っていた。
顔を上げると、
目の前に、
スカートから伸びた
すらりとした足が見えた。
「へんたい」
腰に手を当てた幻夜が、
僕を見下ろしていた。




