第110話 秘密
時計の針が
コチコチコチと時を刻んでいた。
「爺さんのことだけどよ。
最近、
飯は食ってるのか?」
「えっ?
それなら・・清明兄ちゃんが、
部屋に食事を運んでるはずだけど?」
「ならよ。
お前は、
下げられた膳を
見たことがあんのか?」
「えっ?
それは・・」
僕は首を振った。
食事の片付けまでは、
気にしたことがなかったからだ。
「ついこの前のことだけどよ。
親父が4階から膳を運んでくるのを、
目撃したんだ。
その時。
食事にはまったく、
手を付けられた形跡が
なかったんだよ」
「それはさ。
こう毎日のように猛暑日が続くと、
お年寄りには、
厳しいんじゃないかな。
食欲がなくても、
無理はないと思うけど」
僕がそう言うと、
白露は大きく首を振った。
「俺様の勘だけどな。
爺さんの奴、
もう死んでるぜ」
「へっ?」
僕は思わず目を瞬かせた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。
それって、
部屋に死体を隠してるってこと?」
白露は頷いた。
「でだ。
問題はここからだ。
4階に護符を貼ったのは、
爺さんじゃなくて他の人間だ。
何せ爺さんは死んでるんだからな」
「う、うん・・」
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「つまりだ。
この家にはお前以外にも、
俺様の姿が見えてる奴がいる。
そいつは。
爺さんの死体を
俺様に見られないように、
護符を貼りやがったんだ」
「な、何のために?」
「あん?
そりゃあ。
俺様に知られたら、
お前に伝わっちまうからだろ」
「い、いや。
だからさ。
何で爺ちゃんが死んだことを
秘密にするの?」
「へっぷ。
そりゃあ・・お前・・あれだ。
その・・。
つまりだ。
いいんだよ!
そんなことは!
兎に角だ。
俺様の言いたいことは。
夜霧の家の者には、
何かあるってことだ」
そう言って白露は、
「ヒヒヒ」
と笑った。
「何だか・・強引だな。
それにさ。
僕が霊を見ることができるなんて、
誰も知らないよ。
ていうかさ。
随分と話が脱線してるけど・・。
そもそも。
これまでの話と幻夜に
何の関係があるのさ?」
僕は欠伸を噛み殺した。
「望月夜也は・・。
お袋の妹かもしれねえぞ」
「へっ?」
僕はふたたび目を瞬かせた。
時計の針が
コチコチコチと時を刻んでいた。
「もし。
俺様の想像が当たってるなら。
姫にも夜霧の血が
流れてるわけだろ?」
「ちょっと待ってよ。
もし夜也さんが母さんの妹なら。
それこそ。
秘密にする必要がないよね?
それに。
夜霧の家の者には不思議な力がある
って力説した割にさ、
僕以外の人間は皆普通だし。
爺ちゃんが死んでることに関しても、
兄ちゃんの妄想だよね?」
「へっぷ」
僕の指摘に、
白露は明らかに狼狽えた。
白いレジ袋から覗く2つの目が、
激しく何度も瞬いた。
「あのね、兄ちゃん。
幻夜のことで
頭が一杯なのはわかるけどさ。
下らない妄想に
僕を巻き込まないでよ。
さっきも言っただろ。
僕は疲れてるんだ。
早く休みたいんだよ」
「バカヤロウ。
これから話すことを聞いたら、
お前だってそんな呑気に
構えていられなくなるぜ。
いいか。
よく聞け。
昨日の夜のことだ。
俺様は・・」
そして白露は昨夜の出来事を語り始めた。




