第109話 夜霧家
コップにアイスコーヒーを注いで、
僕は部屋に戻った。
白露がベッドの上で胡坐をかいていた。
僕は机に座って、
くるりと椅子を回した。
「それで。
幻夜がどうしたの?
まさかとは思うけど・・兄ちゃん。
幻夜のことを、
本気で好きになったとか?」
「バカヤロウ。
仮にも忠実な下僕たる俺様が、
恐れ多くも姫に恋心を抱くなど、
笑止千万!」
白露が胸を張って言い放った。
「何だよ・・。
その芝居じみた台詞は・・。
全然かっこよくないけど」
僕は溜息を吐いて、
コップに口をつけた。
「・・姫のことだけどよ。
どういういきさつで、
あの母娘はここに越してきたんだ?」
「へっ?
さ、さあ?
父さんの知り合いじゃないの?」
僕は首を傾げた。
「単なる知り合いを、
わざわざここに住まわせると思うか?」
「じゃあ他に理由があるの?」
「もしかしてだけどよ。
望月夜也は
親父の愛人じゃねえのか?」
「は、はぁぁぁ?」
つい変な声が漏れた。
「バカヤロウ。
でかい声を出すんじゃねえよ」
「だ、だって。
兄ちゃんが変なことを言うから・・。
あのね。
父さんに限ってそんなわけないだろ。
そんな下らない話なら、
もう寝るよ。
僕は疲れてるんだ」
「待て待て待て。
今のは可能性の話だ。
俺様だって、
本気でそう思ってるわけじゃねえよ」
「一体、
何が言いたいのさ?」
僕はもう一度、
小さく溜息を吐いた。
「・・お前は聞いたことがねえか?
夜霧の家の者には、
不思議な力があるって話を」
白露は腕を組むと、
レジ袋の穴の奥の目を
パチパチと瞬かせた。
「えっ?」
僕は眉をひそめた。
「実際、
お前には死人が見えるだろ?
俺様にしてもだ。
こうして浮遊霊になって、
好き勝手できるのも、
夜霧の血のおかげかもしれねえ」
「そうかな?
別に父さんは普通だし、
清明兄ちゃんも、
喧嘩は強いかもしれないけど、
それは不思議なことでもないし。
立夏姉ちゃんだって。
頭は良いけど、
それは真面目に勉強してるからで・・」
「でもよ。
爺さんは明らかに異質だろ?」
そう言われて、
僕は自然と頷いていた。




