第108話 ネタ晴らし
大通りに出たところで、
赤信号に捕まった。
行き交う車のライトが、
やけに眩しかった。
「あれでよかったのかよ?」
ふいに隣で声がした。
見ると、
白いレジ袋を被った白露がいた。
「こっそり後を尾けてくるなんて、
兄ちゃんも人が悪いよ」
「ヒヒヒ。
人じゃなくて霊だけどな」
「まあね。
兎に角。
お礼を言っとくよ。
ありがとう、兄ちゃん」
「へっぷ。
別に礼を言われるようなことは
してねえけどな」
白いレジ袋の口元がクシャっと潰れた。
「そっか。
兄ちゃんは、
マリアのおっぱいを触れたんだから、
僕に感謝すべきだよね」
「バカヤロウ。
コンプライアンスの厳しい
このご時世に、
好きであんなことをしたと
思ってるのかよ。
俺様はお前のために、
仕方なくだな・・」
「はいはい。
そういうことにしとくよ」
信号が変わるとすぐに、
僕は自転車を漕ぎ出した。
「それよりさ。
フラフラとどこに行ってたの?
昨日の夜も
チラッと部屋を覗いたけど、
いなかったよね?」
隣を走る白露に話しかけた。
「ん?
あ・・ああ。
まあな」
白露はどこか歯切れが悪かった。
「へぇ。
兄ちゃんが僕に隠し事をするなんて、
珍しいね。
いつもは
『死人に隠し事なんてねえよ』
って言ってるのに。
さては・・。
彼女ができたのかな?
まあ。
兄ちゃんが誰と付き合おうが、
僕には関係ないけど。
家に連れ込むのだけはやめてよ」
「へっぷ。
人の気持ちも知らねえで、
好き勝手言いやがって」
「正確には霊の気持ちだけどね」
僕がそう返すと、
白露は僕の方に顔を向けて、
レジ袋の穴の奥の目を
パチパチと瞬かせた。
「ったく。
呑気なお前が羨ましいぜ。
こっちは姫のことで、
頭を悩ませてるっていうのによ」
「何だよ。
幻夜のことだったのか。
そんなことで悩むなんて、
兄ちゃんは余程の暇人だね」
「人じゃなくて霊だけどな」
白露はそう言って、
「ヒヒヒ」
と笑った。
「はぁ・・。
わかったよ。
家に帰ったら聞いてあげるよ。
話したくてうずうずしてるって
顔をしてるからね」
僕はペダルを強く踏み込んだ。
「バカヤロウ。
どうやったら。
このレジ袋越しに
俺様の表情が見えるんだよ」
背後で白露の声が聞こえた。
僕はそれには答えずに
がむしゃらに自転車を走らせた。




