第107話 揺れるブランコ
生温かい風がふわりと漂った。
マリアが髪に手を触れたまま、
ゆっくりと僕の方に向き直った。
「風の悪戯ですか。
それにしても。
すごいタイミングですね。
危うく。
貴方の戯言に、
騙されるところでした」
「戯言なら・・良いんだけどね。
オジサン、
彼女に自分の存在を
伝えた方がいいよ」
僕はマリアの背後の闇に向かって、
呼びかけた。
「キャッ!」
悲鳴を上げたマリアが、
両手で胸元を押さえた。
「仕方ないよ。
・・そんな格好でいたら。
オジサンだって興奮するさ」
マリアが周囲に目を走らせた。
「心配しなくても。
ここには、
人間は僕達2人しかいないよ」
マリアがキッと僕を睨んだ。
「変態・・ですね。
どうやって
触れたのかわかりませんが、
貴方ははっきりと、
私の胸を触りました。
私が訴えたら、
貴方はどうなるでしょうね」
僕は首を振った。
「まだ僕の言葉を信じてないんだね。
それとも。
信じたくないのか・・。
その目でよく見るといいよ」
僕は向こうにあるブランコを指差した。
先ほどまで揺れていたブランコは、
今はぴたりとその動きを止めていた。
「ブランコがどうかしたのですか?」
「オジサン。
ブランコに座って漕いでよ」
僕は暗闇に向かって声を掛けた。
次の瞬間。
キーィキーィ
ブランコの1つがゆらりと揺れた。
キーィキーィ
キーィキーィ
ブランコの揺れが次第に大きくなった。
キーーィキーーィ
キーーィキーーィ
「これで。
僕の言葉が
嘘じゃないってことが
わかっただろ?」
「だ、誰っ!」
マリアが僕に向かって叫んだ。
その目には、
先ほどまでとは打って変わって、
明らかな恐怖が広がっていた。
「さあ?
僕に聞かれてもわからないよ。
でも。
残念だったね。
妻鳥の霊じゃなくて。
妻鳥は・・。
今頃天国で穏やかに過ごしてるさ」
僕はそう言って精一杯の笑顔を作った。
「ちなみに。
背後霊は常に君に尾いて回る。
君がどこに行こうとね。
君が眠っている間は、
気付かれることなく、
好きなだけ、
君の体に触れることもできる。
何なら。
君の中に挿れることだって・・」
「ヤメてっ!」
マリアの叫び声が、
夜の公園に響き渡った。
「キュキュキュキュ」
どこかで鳥が啼いた。
「・・最低ですね」
マリアは肩を上下させながら、
僕を睨んでいた。
その目の奥には、
隠しきれない恐怖と不安が
滲んでいた。
僕は小さく溜息を吐き出した。
それから何も言わずに、
ゆっくりと歩き出した。
呆然と立ち尽くすマリアの前を横切って、
公園を出た。
自転車に跨って、
思い切りペダルを踏み込んだ。
「キュキュキュキュ」
どこかで鳥が啼いていた。




