第105話 鳴かぬなら・・
額にじわりと汗が滲んでいた。
僕は息苦しさを覚えた。
マリアが無言で僕を見つめていた。
僕はなぜか
責められているような気がして、
チクリと胸が痛んだ。
「煙草・・吸うんだよね」
マリアの視線に耐え切れず、
僕は口を開いた。
「・・たまに。
吸いたくなる時があります。
それで。
どうしますか?
通報しますか?
中学生の喫煙程度で、
警察が動くとは思えませんが」
マリアが口元に手を当てて、
「フフフッ」
と笑った。
「殺人事件なら。
警察も、
動かないわけにはいかないよ・・」
僕は大きく息を吸った。
「あの日。
円が去った後で、
君は屋上に現れた。
それとも。
最初から屋上にいたのかい?
どちらにしても。
妻鳥を突き落とす直前に、
煙草を吸ったよね?
その残り香を、
妻鳥が覚えてたんだ」
マリアが首を傾げた。
「仮に。
小絵が煙草の匂いを感じたとして。
どうして貴方が、
それを知っているのですか?」
「そ、それは・・」
僕は返答に詰まった。
暗闇の中。
少し離れた所にある
2つのブランコのうち1つが、
キーィキーィ
と音を立てた。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「僕は・・。
霊が見えるんだ」
マリアが目を丸くした。
「貴方がそんな冗談を言うとは、
思いませんでした」
「・・冗談だったら。
どんなに良かったか。
僕だって、
見たくて見てるわけじゃない」
僕は真っ直ぐにマリアを見返した。
マリアが小さく首を傾げた。
「つまり。
貴方は小絵の幽霊から、
私が犯人だと聞いた・・。
ということですか?」
僕は首を振った。
「妻鳥は犯人を知らないと言ってた。
それに。
自分を殺した犯人を
探し出すことに躊躇してた。
もしかしたら。
犯人に心当たりが
あったのかもしれない。
彼女は・・。
親友だと思っていた君に
殺されたという事実を、
受け入れたくなかったのかもしれない」
「私は親友ではないと
言ったはずですが?」
「愛してたんだろ!」
僕は思わず声を荒げた。
キーィキーィ
とブランコが揺れた。
僕はそっと息を吸った。
「・・僕を。
・・僕を殺せば良かったじゃないか」
僕は力なく呟いた。
マリアはゆっくりと首を振った。
「貴方が死ねば。
小絵の中で
貴方は永遠に生き続けるでしょう。
そんなこと。
許せると思いますか?」
マリアがにこりと微笑んだ。
「・・僕がいようがいまいが、
妻鳥が君を愛したとは思えない」
僕は最大限の皮肉を込めて言い放った。
マリアが
「フフフッ」
と笑った。
「だからです。
『鳴かぬなら殺してしまえ不如帰』
かの有名な戦国武将を
表現した川柳ですが、
あの時の私は。
まさにそんな気持ちでした」




