第104話 妻鳥のことが・・好きだった
「キュキュキュキュ」
どこかで鳥が啼いた。
「あ・・。
ち、違うんだ!
こ、これは・・その・・」
ふいに現れたマリアに、
僕はすっかり動揺していた。
言葉が出てこなかった。
「冗談です。
・・それで。
私に何の用でしょうか?」
マリアがじっと僕を見つめていた。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「・・僕と妻鳥のことだけど。
君は妻鳥から
僕達の関係を聞いたって言ったよね。
でも。
それは嘘だよね?」
マリアの瞳の奥に、
僅かに戸惑いの色が浮かんだのを
僕は見逃さなかった。
「君は僕と妻鳥が一緒にいるところを、
見たんだよね。
円と一緒に・・」
マリアは無言のまま、
冷めた眼差しで僕を見据えていた。
その瞬間。
あの夜、
葛城町の『森林公園』で見た少女が、
マリアだったことを
僕は確信した。
「そんなことを聞くために、
私を尾けてきたのですか?」
マリアの凛として透き通った声が、
静かな公園内に響いた。
「そ、それは・・。
それより!
答えてくれないかな?
どうして嘘を吐いたんだい?」
「嘘ではありません。
何も、
言葉だけが、
意思疎通の手段ではありませんから。
小絵が貴方を見る目が、
雄弁に物語っていました」
僕は大きく息を吸い込んだ。
「そんな詭弁は・・聞きたくない。
それなら初めから、
そう言えば良かったんだよ。
なのに。
君は
妻鳥本人から聞いたと僕に言った。
おまけに。
2人の間には秘密はなかったとも」
マリアが小さく微笑んだ。
「そのくせ。
君はこうも言った。
妻鳥のことは親友と思ってないと」
マリアはただ黙って、
僕をじっと見つめていた。
その瞳に吸い込まれそうになり、
僕は慌てて頭を振った。
そしてもう一度、
大きく息を吸い込んだ。
それから。
マリアの顔を正面から見た。
「・・その言葉の意味がわかったよ」
マリアは口元に笑みを浮かべ、
首を傾げた。
「キュキュキュキュ」
どこかで鳥が啼いた。
「君は・・。
妻鳥のことが・・。
好きだったんだよね?」
マリアの目が大きく見開かれた。
僕はその目をじっと見つめ返した。
僕がこの結論に至ったきっかけは、
小林の証言だった。
小林の観察力は当てにならないが、
小林が感じ取った違和感には
真実が隠されている。
小林は円が僕のことを好きだと言った。
しかし。
実際に円が好きだったのは、
妻鳥だ。
ならば。
マリアにも同じことが
言えるのではないか。
ある意味。
小林の観察力は鋭い。
ただ想像力がなかっただけ・・。
僕は大きく息を吐き出した。
「君が『ミモザ』なんだね?」
マリアがあの盗撮サイトに、
妻鳥のフェイク画像を投稿した理由は、
僕のことを盗撮犯だと刷り込むため。
そうすれば。
妻鳥の気持ちが僕から離れると考えた。
そして。
それはマリアの狙い通りになった。
「・・今更。
そんなことを聞いて、
何の意味があるのですか?」
アリアが
「フフフッ」
と笑った。
「君の目的は達成されたはず。
なのに。
どうして妻鳥を殺したんだ?
愛してたんだよね?」
「キュキュキュキュ」
どこかで鳥が啼いた。
「・・どうして。
小絵は貴方のことを
好きになったのでしょう」
マリアがぽつりと呟いた。




