第五話 いざ試験
午前:実技試験試験
コースは実際のばんえい競馬場に近い200m直線。軽量ソリ(400kg調整)が3頭の練習馬と共に用意されていた。
「騎手、白樺凛花。実技試験、開始します!」
合図とともにスタート。
第一障害を越える瞬間、凛花は腰を深く沈め、完璧なタイミングで体重を後方に移動させた。
ソリがスムーズに越える。
第二障害では、馬がわずかに止まりかけた瞬間、瞬時に後方体重をかけ、声をかけた。
「よし! 行けっ!」
力強く反応し、障害をクリア。
ゴールまでのラスト200mも、呼吸を合わせながら丁寧に刻んだ。
観察席から武田師匠が小さく頷くのが見えた。
あとの2回も気性が荒い馬と重い負荷の馬でも、凛花は崩れなかった。
手綱は常にソフトコンタクト、体重移動は0.2秒以内の正確さでこなした。
実技終了後、凛花はソリから降りた瞬間、足が少し震えた。
美保が声をかける。
「リンちゃん、えぐかったで……!
特に第二障害の体重移動、完璧やったわ!」
武田師匠が珍しく満足げに言った。
「合格ラインは十分超えた。
後は筆記だ。気負うな。」
午後:筆記試験
午後1時から3時間の長丁場。競馬法規、ばんえい競走規則、馬の生理・栄養学、緊急時の対応など、多岐にわたる問題が出された。
凛花は汗を拭きながら、必死にペンを走らせた。
遊馬が作成した暗記カードと、武田師匠に叩き込まれた実践的な知識が頭の中で繋がっていく。
特に難しかった
「障害時の騎手責任と馬の福利」
に関する記述問題では、夢雪の顔を思い浮かべながら書いた。
(馬を道具じゃない……パートナーとして、命を預かる覚悟……)
試験終了の合図が鳴った時、凛花はペンを置いて深く息を吐いた。
会場から出ると、外はすでに暗くなっていた。
雪が静かに降り続いている。
美保晋三がにこやかに声をかけた。
「どや、凛ちゃん。終わった感想は?」
「……正直、死ぬほど緊張しました。でも、全部出し切ったと思います。」
「えらい頑張ったな。
結果は年明けやけど、今日はもう十分や。厩舎に戻って夢雪に報告しに行きな。」
凛花は雪の積もった地面を見つめ、静かに微笑んだ。
「はい……。夢雪に、今日頑張ったって伝えたいです。」
その夜、美保厩舎に戻った凛花は夢雪の馬房の前に座り込んだ。
夢雪は大きな体を寄せ、凛花の頭を優しく鼻面で突いた。
「夢雪……今日、試験受けてきたよ。
実技も筆記も、精一杯やった。
結果はどうなるかわからないけど……私、ちゃんと頑張ったよ。」
夢雪は「フゥー」と優しく息を吐き、凛花のポニーテールをくわえて離さなかった。
武田師匠が少し離れた暗がりから、静かに二人を見守っていた。
「よくやった……白樺凛花。」
試験当日が終わり、凛花の20歳への挑戦は一旦幕を閉じた。
合格発表までは、まだ少しの時間がある。




