最終話 合格発表の日 ~20歳の門出~
十二月二十八日。午前10時。美保厩舎の事務所に、緊張した空気が張りつめていた。
白樺凛花は制服の上にダウンジャケットを羽織ったまま、スマホを握りしめて固まっていた。大学2年生、19歳。
最後の試験から3日経過し、今日がついに騎手免許試験の合格発表日だった。
「まだ……発表されてない……」
隣で宝田誠がコーヒーを啜りながら、珍しく落ち着かない様子で足を動かしている。
「リンちゃん、落ち着け。深呼吸や、深呼吸。結果が出るまであと15分やで……」
武田文吉師匠は腕を組んだまま無言。美保晋三は大阪弁で明るく振る舞おうとしているが、声が少し上ずっている。
「まあ、凛花は頑張ったんやから大丈夫やろ……多分……きっと……」
凛花は唇を噛み、スマホの更新ボタンを何度も押した。心臓の音が耳に響く。
(落ちてたら……どうしよう。夢雪に顔向けできない……師匠にも、みんなにも……)
午前10時ちょうど。地方競馬全国協会の公式ページが更新された。
【令和○年度 ばんえい競馬騎手免許試験 合格者発表】合格者(1名)
・白樺 凛花(19歳)
一瞬、事務所が静まり返った。次の瞬間
「うわあああああ!!! 合格や!! リンちゃん合格したでえええ!!!」
宝田が大声で叫びながら凛花を抱き上げた。
「ほんまか!? マジか!? やったな凛花!!」
美保晋三が飛び跳ねて喜び、武田師匠でさえ珍しく目を見開き、肩の力が抜けていた。凛花はスマホの画面を呆然と見つめたまま、涙が溢れて止まらなかった。
「私……合格……した……? 本当に……?」
武田師匠が低いが温かい声で言った。
「よくやった、白樺凛花。お前は正式に、ばんえい競馬の騎手になった。これからが本番だぞ。」
凛花はスマホを胸に抱きしめ、泣きながら深く頭を下げた。
「師匠……美保先生……宝田さん……ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます……!」
その日の午後。凛花は真っ先に夢雪の馬房へ駆け込んだ。
「夢雪! 夢雪!! 合格したよ!! 私、騎手免許取れたよ!!!」
夢雪は赤と白の斑模様を輝かせて、大きな体を揺らしながら凛花に飛びついてきた。甘えん坊全開で頭を押しつけ、ポニーテールをくわえ、嬉しそうに鼻を鳴らす。
「夢雪……やっと……やっとここまで来れたよ……。
これからは私が、ちゃんと君を引ける……。
20歳の春から、一緒に走ろうね……!」
凛花は夢雪の首に顔を埋め、声を上げて泣いた。夢雪はまるで理解したかのように、優しく大きな体で凛花を包み込んだ。
そこへ武田師匠、美保、宝田、飛田夫妻、遊馬からのメッセージが次々と届いた。
遊馬: 「おめでとう。データ上も十分合格ラインだった。次はデビュー戦の調整プログラムを送る。」
瑤子: 「本当におめでとう、凛花。夢雪と一緒に、素晴らしいレースを見せてちょうだい。」
宝田が笑いながら言った。
「これでリンちゃんも正式に騎手や。次は凛花と夢雪の初コンび……じゃなくて、初騎乗やな!」
凛花は涙を拭き、満面の笑顔で夢雪の斑模様を見つめた。「うん……!
夢雪、これからよろしくね。
私たちのばんえい物語……今から始まるよ!」
雪が静かに降り積もる美保厩舎で、19歳の少女と、赤と白の斑模様の牝馬は、固く固く絆を結んでいた。白樺凛花、20歳の春がすぐそこに迫っていた。
ここからが新たな戦いのはじまりに過ぎなかった。
未来へ、ドリームメーカーの血が再び爆発する。
夢とロマンをのせて。
ドリームメーカー(ばんえい編)
完
著者より
突然の完結申し訳ございません
現在、適応傷害と診断され、休職中であります。
大切なこの物語を休載や途中でやめたくはなかったので、このような措置となりました。
必ず続きを書きますので、ご理解いただきたく存じます。




