第二話 夢雪の3歳に向けた並行成長 ~斑模様の覚醒~
十勝の夏が終わり、秋の風が牧草を揺らす頃。
夢雪は2歳8ヶ月を迎えていた。
赤と白の美しい希少斑模様はさらに鮮やかさを増し、体高はすでに母ユキヒメに迫る勢い。
父ドリームメーカー譲りの長い脚と、がっしりとした後駆が目立つ立派な若馬へと成長していた。
飛田牧場では、夢雪の3歳シーズン(デビュー本格化)に向けた本格育成が加速していた。
宝田誠が軽量ソリ(380kg調整)を夢雪に装着しながら声をかける。
「夢雪、今日は少し重めやで。3歳になったら本番に近い重量になる。耐えられるか?」
夢雪は最初こそ耳を後ろに向けたが、すぐに闘志を覗かせ、力強く前へ踏み出した。
ソリの鉄の軋む音が牧場に響く。
飛田雅樹が柵の外から観察しながら言った。
「後駆の力は確実に上がってる。障害ももう80cm級を難なく越えるようになったな。」
菱田瑤子もデータタブレットを見ながら頷いた。
「心肺機能も優秀。宝田さんの管理のおかげで、筋肉のつき方が非常にバランス良いわ。
凛花が試験を受ける頃には、夢雪もかなり完成に近づいているはず。」
夢雪の3歳に向けた育成ポイント
1. 重ソリ引きの本格化
150kg → 380kgまで段階的に重量を上げ、200mの引き練習を毎日実施。
夢雪は日常では相変わらず甘えん坊で、宝田や瑤子に頭を預けてくるが、ソリを引いている間は父譲りの闘志が全開になる。
2. 障害適性強化
第一障害90cm、第二障害1.4m級に挑戦。
跳躍時のバネと、越えた後の再加速が特に優秀。宝田「この跳び方は、ばんえい記念でも通用するかもな……」と期待を隠せない。
3. ペース配分と「刻み」の練習
短距離だけでなく、400mのロング引きも導入。
途中で一旦止めて息を整える「刻み」の練習を始め、戦略的なレース運びを覚えさせている。
4. 精神面の強化
人馬一体の信頼関係を深めるため、週末に凛花が来られる時は優先的に合同練習を実施。
凛花がいない日は、瑤子や雅樹が毎日長時間触れ合い、甘えん坊の部分を活かしたメンタルケアを行っている。
一方、美保厩舎では、白樺凛花(大学2年生・19歳)は、騎手免許試験(年末目標)に向けた鬼のような並行練習を続けていた。
朝4時半起床 → 厩舎でオトカリやナカヤマタイガー、キタノキングに乗ってソリ引き → 大学講義 → 夕方追加練習 → 夜は筆記試験対策勉強。武田師匠が厳しく言い放つ。
「凛花、夢雪が3歳になる頃、お前が騎手免許を持っていなければ意味がない。
残り4ヶ月、死ぬ気でやれ。」
ある週末、凛花は久しぶりに飛田牧場を訪れた。夢雪は凛花の姿を見つけると、大きな体を揺らして駆け寄り、いつものように頭を胸にゴンッと預けてきた。
斑模様の体は以前より明らかに逞しくなっている。
「夢雪……すごいね。もうこんなに大きくなって……」
凛花は夢雪の首を抱きしめ、涙を堪えた。
宝田が笑いながら近づいた。
「リンちゃん、夢雪は3歳シーズンに向けてめっちゃ仕上がってるで。
お前も年末の試験、絶対に受かるんやぞ。
二人でばんえいの直線を走る姿、俺は楽しみにしてるわ。」
凛花は夢雪の額に自分の額をくっつけ、静かに誓った。
「夢雪……私、20歳で騎手免許を取る。
君が3歳になる春には、絶対に一緒にレースに出られるようにするから。
待っててね。」
夢雪は「ヒヒーン!」と力強く鳴き、凛花のポニーテールを軽くくわえた。
飛田牧場と美保厩舎、二つの場所で並行して成長を続ける少女と牝馬。
20歳の試験と3歳デビューという目標に向け、二人の道は着実に近づいていた。




