第一話 19歳の決意 ~騎手免許試験への挑戦~
十勝農業大学2年生、春。白樺凛花は19歳になっていた。
学生寮の自室で、机の上にばんえい競馬の騎手免許試験要項を広げ、凛花は真剣な眼差しで読み込んでいた。
黒髪のポニーテールが少し乱れ、指先には握力トレーニングの跡が残っている。
「厩務員経験1年以上……筆記試験……実技試験……。私、今ちょうど経験1年3ヶ月か……」
翌朝、美保厩舎。武田文吉師匠は腕を組んだまま、凛花をじっと見つめていた。
美保晋三と宝田誠も同席している。
「12月生まれだから20歳で受けるか……。早い方だな」
武田の声は低く、重かった。
「試験は甘くないぞ。
特に実技はばんえい特有のソリ上操作を徹底的に見られる。
筆記も馬の法規やルールが細かい。
お前は大学と両立しながらここで汗を流しているが、それでも足りない部分は山ほどある」
凛花は背筋を伸ばして正面から師匠の目を見た。「覚悟の上です、師匠。
夢雪はもう2歳半を過ぎて、デビューが近づいています。
私が騎手免許を持っていないまま、彼女を本格的に引くのは……嫌なんです。
夢雪が重賞を目指す頃、私もちゃんと『白樺凛花騎手』として、ソリの上に座っていたいんです。」
美保晋三が大阪弁で優しく笑った。
「リンちゃん、えらい決意やな。
ただ、大学も続けるんやろ?
両立は相当キツイで?」
「続けます。講義は絶対にサボりません。
朝と夕方の練習を増やして、遊馬くんのプログラムもさらに厳しくやります。」
宝田誠が頭を掻きながら言った。
「リンちゃん……20歳で受けるのは立派やけど、体が持つか心配やで。
体重管理も大事やし、精神的なプレッシャーも半端ないで。
俺は獣医として、夢雪のほうも全力でサポートするから、お前は自分の体を一番に大事にせえよ。」
凛花は三人に向かって深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!
正直、怖いです。試験に落ちたらどうしようって、夜に何度も考えます。
でも、武田師匠に現実を教えてもらったあの日から、私は覚悟を決めてきました。
負けたらヤジられる世界でも、夢雪と一緒に走りたいんです。」
武田師匠はしばらく無言で凛花を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「よし。そこまで言うなら、わしも本気で仕込む。
試験までは朝5時からの特別メニューを組む。
実技対策はもちろん、筆記対策の勉強会も週2でやる。
大学とのスケジュール調整は自分でやれ。
泣き言は禁止だ。」
「はいっ! 全力で取り組みます!」
その夜、学生寮。
凛花はベッドに座りながら、遊馬に送られた最新トレーニングメニューを見ていた。
内容はこれまで以上に過酷になっていた。
遊馬: 「免許試験挑戦の決意、了解した。
データ上では君の体幹と握力は十分合格圏内だが、精神的な負荷を考慮して調整した。
落ちても次があると思ったら負けだ。1回で合格するつもりでやれ。」
凛花は小さく笑って返信した。
凛花: 「ありがとう、遊馬くん。1回で絶対に合格するよ。夢雪が待ってるから。」
彼女は窓の外の夜空を見上げ、静かに拳を握りしめた。19歳の初夏。
白樺凛花は、ついに本気で「ばんえい騎手」への扉を開ける決意をした。
夢雪との未来を掴むための、長い直線が始まろうとしていた。




