第九話 夢雪、デビューに向けて育成 ~斑模様の闘志~
飛田牧場は、穏やかな春の陽光に包まれていた。
夢雪は現在2歳2ヶ月。
赤と白の美しい希少斑模様が鮮やかに輝き、母ユキヒメ譲りの堂々とした体躯と、父ドリームメーカー譲りの長い脚、凛々しい目元が目立つ若馬へと成長していた。
「夢雪、今日は本格的なソリ引き練習やで。ええ子やから、ちゃんと頑張れるな?」
宝田誠が白衣の袖をまくりながら、夢雪の首を優しく撫でた。飛田雅樹と菱田瑤子も柵の外から見守っている。
「順調に育ってるな。骨格もしっかりしてきた」
雅樹が満足げに頷く。
瑤子は冷静に夢雪の歩様を観察しながら言った。
「日常は相変わらず甘えん坊だけど、負荷をかけ始めると父の血が顔を出すわね。デビューを意識したスケジュールに切り替えましょう」
デビューに向けた育成プログラム
宝田がノートとタブレットを見ながら、今日のメニューを説明した。
1. 基礎体力・後駆力強化 朝夕の自由運動+坂道歩行(後ろ脚の踏ん張りを重点的に)
軽量ドラム(80kg)を引く引き運動で心肺機能と筋力を徐々にアップ
2. ソリ引き慣らし(本格スタート)
雅樹が150kgに調整した軽量ソリを夢雪に装着した。
最初はソリの違和感で耳を後ろに向け、足踏みしていた夢雪だったが、宝田が落ち着いた声で語りかけると、徐々にリズムを掴み始めた。
「そうや、夢雪。ゆっくりでええ。重いものを引く感覚を覚えていけ」
3. 障害適性訓練
低めの障害(60cm)を即席で複数設置。
夢雪は最初こそ慎重に近づいたが、越える瞬間に闘志がむき出しになり、力強く跳ね越えた。
赤と白の斑模様が跳躍の瞬間に鮮やかに舞う。
宝田が笑顔でチェックした。
「後駆のバネは抜群や。怪我のない範囲で、少しずつ高さ上げていこか」
4. メンタル・性格管理
「甘えん坊やから、ストレスを溜め込まんように毎日しっかり触れ合いを。
レースでは父譲りの闘志が出るけど、日常の信頼関係が大事や」
瑤子が夢雪の健康データを確認しながら言った。
「体重増加も順調。
栄養バランスは宝田さんに任せるわ。
凛花が来られない分、私たちでしっかりフォローしましょう」
練習後、夢雪はユキヒメの側に戻り、いつものように甘えてゴロゴロと転がっていた。
雅樹が宝田に尋ねた。
「デビュータイミングはどう見てる?」
「順調やったら、3歳秋の新馬戦あたりを視野に入れられると思う。
焦らず、怪我だけは絶対に避けたいな。
美保厩舎の武田先生にも定期的に動画送って、プロの目も入れときます」
瑤子が静かに微笑んだ。
「楽しみだわ。
凛花が大学と厩舎で頑張っている今、私たちが夢雪の基礎を固めてあげる時期ね。」
夕陽が牧場を染める中、夢雪は空を見上げて
「ヒヒーン!」
と元気よく一声鳴いた。その鳴き声には、父の英雄的な血と、母の優しさが混ざり合った、未来への期待が込められているようだった。
飛田牧場は、静かに、しかし確実に、夢雪のデビューへの道を整え始めていた。




