第四話 寮生活と、3つの拠点
十勝農業大学の学生寮「北斗寮」。
シンプルだが清潔な2人部屋で、白樺凛花は朝5時半に目を覚ました。
「ふぁ……もうこんな時間か。今日も三重苦だ……」
黒髪をポニーテールにまとめながら、小さく呟く。
ルームメイトの短髪女子・佐倉美月(馬産学同期)は、まだ布団の中で丸まっていた。
凛花は素早く着替え、寮のキッチンで簡単な朝食(瑤子さんからもらったプロテイン入りおにぎり)を詰め込む。
活動範囲は今、寮・大学・美保厩舎の三角形。
朝6時40分。凛花は自転車で美保厩舎へ向かった。
大学講義が始まるまでの貴重な朝の時間は、ほぼ全て厩舎作業に充てている。
「よう、凛花! 今日も早いな!」
美保晋三が厩舎の前で笑顔で迎える。
武田文吉師匠はすでに馬房の前で腕を組んで立っていた。
「師匠、おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
「挨拶はいい。まずは馬房8番から10番まで徹底的に掃除だ。汗かいてから講義に行け」
「はいっ!」
凛花は毎日このルーティンを繰り返していた。
重い一輪車を押し、干し草を運び、馬の体をブラッシング。
ばんえい騎手を目指す者として、馬の世話が基礎であることを武田師匠に叩き込まれていた。
午前中の作業を終え、汗を拭いて大学へ急ぐ。
講義室に滑り込むと、佐倉美月が呆れた顔をした。
「凛花、また厩舎臭いよ……。ばんえい騎手ってそんなにハードなの?」
「ハードだよ。でも、夢雪に会うために頑張ってるんだ」
午後の講義(「家畜栄養学」「挽用馬の歴史」)を受けながら、凛花はノートに必死に書き込んだ。
大学で学んだ知識を、夕方の美保厩舎で実践する。
それが今の彼女のスタイルだった。
夕方6時半。美保厩舎での最終チェックを終え、凛花は疲れた体を引きずって学生寮に戻ってきた。
寮の自室でストレッチをしながら、スマホで遊馬からのメッセージを確認する。
遊馬: 「今日のトレーニングログを送れ。握力計測と体幹の安定性も忘れるな。夢雪の体重増加データも最新のものを共有した。」
「相変わらず鬼……」
凛花が苦笑いしていると、LINEのグループ(飛田牧場家族+関係者)に新しいメッセージが届いた。
宝田誠: 「リンちゃん、牧場寂しがってるで〜。夢雪が今日もリンちゃん呼んで『ヒヒーン』て鳴いてたわ。週末にでも来れるか?
ユキヒメも甘えん坊全開やで」
凛花は画面を見つめ、胸が少し熱くなった。
(夢雪……もう少し待っててね。今は大学と厩舎で頑張ってるから。週末、絶対に会いに行くから)
彼女はベッドに横になりながら、天井を見つめた。
寮の静かな夜。
大学で学び、美保厩舎で汗を流し、時折飛田牧場で夢雪と心を通わせる。
それが、これからの凛花の日常になる。
まだ始まったばかりの、ばんえいへの道のり。




