第92話 アル・クルクス
続きです!∠(`・ω・´)
「………」
アタシは珍しくドン引きしてた。
魔人化して飛んで10分くらい……。
一応マッハ5で飛んでるだけど、アタシはあの純也ってダンピールの身体能力を低く見積もってたみたいだ…。
今コイツは、アタシと並走してる。
意味が分からねぇだろ?
アタシも意味が分からなくてドン引きしてる……。
飛んで行く前、コイツ等は合体して犬耳犬尻尾を生やした獣人吸血鬼になった。
そこまでならまだ良い。
前に見てるからな。
まぁ変身している間に、アタシは魔人化して低空飛行で目標の位置まで飛んだ。
飛んだんだよ……。
そしたら………
「で、どこまで行くんすか!?」
「!!?」
コイツ………アタシが海上を飛んでるのに対して、同じ速度で海面を走ってやがった……。
しかも普通、こんな速度だったら海面が結構波立つのに、純也が走った海面は驚くほどに静かだった……。
海面に水しぶき一つ立てず、まるで空気の上を滑るように並んで走ってる……。
ニンジャも真っ青な静音性………。
身体能力高いって言ってもエゲつない。
何なんだコイツは?
とりあえずコイツの事は視界の隅に置いといて、目的地まで進む。
千里眼でフィリピン沿岸警備隊の位置を把握しつつ、光の無い真っ暗な海の上を直進する。
あともう少しで目標に到着するが、この犬耳ダンピールをどうするか………。
戦闘能力はピカイチだが、コイツもまだ未成年だ。
アタシの仕事で、殺人の片棒を担ぐ必要はない。
「あ!セツ姉さん!アレ、なんか見えてきたっすよ!」
少し思案していると、もう目的地に到着したようだ。
思ってたよりもかなり大型のタンカーだな。
ちょいちょい塗装が剥げて錆が目立ってるが、それでもこの暗闇でライトを切ってると殆ど見えない。
暗視ゴーグルでもなければ見るのは不可能だな。
千里眼で甲板を見渡しつつ、アタシは静かにタンカーに降り立って魔人化を解除した。
で、肝心の純也はというと………
タッタッタッタッタッタッタッタッ!
…………軽く垂直を超えて反り返ったタンカーの側面をなんの苦もなく走り上がっていた。
(変態吸血鬼………)
あまりにも人間……いや、人外……でもここまでの変態的な運動能力は無い。
もう人外離れの運動能力で物理法則無視してる……。
◯年ジャ◯プのこち◯両◯もビックリするだろうな…。
そういえばあのキャラクターも新幹線を走って追い抜くから、似たようなもんか?
余計な事を考えてると、純也が登りきった先に人影が見えた。
多分、甲板を巡回してる連中の一人だろう。
運悪く、ソイツの目の前でタンカーを登りきった純也が、姿をモロに晒してしまった。
「あ…」
「っ!!」
驚いた巡回が、無線で連絡を入れようとしたが…
「Cont…」
「ヨイショーーー!!」
ボッッゴン!!
ドロップキックとともに、人間が鳴らしたらダメな音を響かせて、巡回は荒れるフィリピン海峡に吹っ飛ばされた。
可哀想に……。
「あっぶねぇ、何か知らねぇから思わず蹴っちまった!」
………殺人の片棒を担がせないようにしようとして立ち回ろうとしたら、一瞬で終わった。
しかもあの躊躇の無さ……。
ってか、ギャグ漫画のノリで殺してんじゃねぇよ。
ハァ、仕方ない。
こうなったら全力で巻き込むか。
覚悟を決めて、今回アタシがこのタンカーに何をしに来たのかを話すことにした。
「ここに、人身売買で売られてきた子供達を救助する事と、その組織、童話の巣窟の連中を始末するのが目的だ」
「! いるって噂で聞いてたけど、ホントなんすね…」
「この規模だから、おそらく顧客も居るはずだ。ソイツ等はアタシが始末するから、お前は子供達を見つけてくれ」
「了解っす!セツ姉さん!」
「いい返事で応えてくれたが、とりあえず今は黙ろうか?」
見つかったりしたら面倒だ。
アタシは千里眼で敵がどこにいるのか分かるからいいが、純也の方は……
「あ、俺なら大丈夫っすよ!オルカと合体してる間は、嗅覚と聴覚がパワーアップしますんで!」
………心配無用、か?
とりあえず、船内に入るか。
見つけてある扉の前まで行き、アタシ達はゆっくりと入っていく。
「へぇ〜、意外と揺れないんすね?」
船内は揺れが少なく、比較的安定していた。
この揺れの少なさ……。
おそらく船体に、何らかの改造を施してるな。
古い船だから、おそらくは左右のバラストタンクをU字型の管で繋いで、中の水が船の揺れと逆のタイミングで移動するように調整してあるんだろう。
横揺れを劇的に軽減出来るし、タンク容量が大きいから、非常に強力な減揺装置として機能するだろうな。
少しずつ船内を見ていくが、巡回が少ない。
まぁこんな海のド真ん中だから、警備も少なくていいという事なんだろうが、それにしても少なすぎる……。
甲板の上でもたった4人しか居なかったし、船内だと3人と少ない。
そして問題は別にもあった。
アタシの千里眼が機能しない所があった。
船底部分、元は原油を積む場所が視えない。
(こりゃ、奴等が関わってるな……)
思い当たる部分があった。
長い間生きていると、アタシが悪魔だという事で討滅させようと、ある一神教の狂信者が襲いかかってくる事があった。
別に神様信じるくらいなら勝手にやっててほしいんだが、この狂信者共はアタシと戦って負けたら、奥歯に仕込んだ青酸カリを飲んで自殺。
さらにその死をアタシのせいにして、信者を煽ってくるというゴミっぷりを発揮する。
近年は日本にも進出してきて信者を増やそうとしているが、日本は神道という自然崇拝が日常生活に溶け込んでいる。
その結果、逆に信者を減らす結果になって、奴等は『日本人は悪魔信仰が根付いた、人の皮を被った蛮族だ!!』とか言う始末。
口では"多文化共生"だの"自由主義"だの、耳触りの良い言葉を並び立てているが、やってる事は旧態依然の侵略に他ならない。
「セツ姉さん、どうしたんすか?」
アタシが立ち止まってしまったのを見て、純也が声をかけてきた。
コイツもダンピールだし、話した方が良さそうだな。
「純也、お前、"アル・クルクス"って聞いたことあるか?」
「え? アル・クルクス? なんすかそれ?」
「童話の巣窟が囲い込んでる狂信者の集まりだ」
今から60年前か、少なくともそれ以前に存在しているのは確かなんだ。
コイツ等は、キリスト教徒とイスラム教徒が水面下で宗教戦争をし続けて、お互いにボロボロになって疲弊して停戦協定を結んだ。
その最中、ある二人のキリスト教徒とイスラム教徒が手を結んで、互いの両陣営を掌握し、融合し、それぞれの負の側面を混ぜ合わせた最悪の宗教を作り出してしまい、ある島を手中に収めて国を作ってしまった。
そこは地中海の要衝、キプロス諸島にある島。
長年キリストとイスラムが対立してきた歴史的な境界線にあるその一国の名は、The Democratic Republic of PAN-EQUIX。
日本名、パン・エキナクス民主共和国。
全翻訳すれば、全人類平等救済民主共和国。
民主共和国なんか名ばかりで、実態は"極右と極左のハイブリッド"国。
そこで生まれた国民は、もれなく全員奴隷と大差ない、逃げ場の無い最悪の宗教国家だ。
* 右翼的側面(選民・規律): 「神が定めた唯一の秩序」を絶対とし、伝統的な家父長制と指導層への盲従を強制。
異分子を「不浄」として排除する。
* 左翼的側面(分配・監視): 「神の下の絶対的平等」を掲げ、私有財産を没収。
富を共有するが、個人の贅沢や「個性」は社会への反逆(罪)として糾弾される。
アル・クルクスを国教にして、国際社会にはまだ進出してはいないが、日本で今問題になってる移民の推進を、非合法に水面下で進めているとも聞く。
「なんすか……そのヤバ過ぎるハイブリッド宗教国家………」
さすがにコイツもドン引きしてるな。
まぁそんな国で宗教だから、国を回していくのに外貨を稼ぐ必要がある。
その方法が、非合法商法ってことだ。
そしてアタシを討滅させたい為に努力した結果、10年前に魔眼の能力を著しく低下させる秘術や、その他のあらゆる超常の異能、永遠の慈悲を生み出した。
「ハァ、少し面倒になったな……」
まぁ千里眼が使えないってだけで、戦闘には支障はないんだが………もういいか。
「面倒だけど、まとめて始末するか」
軽く腹を括って、アタシ達は船底へと歩を進めた。
AL-CRUX
名前の由来は、アラビア語の定冠詞「Al」と、ラテン語の十字架「Crux」を合体させて、東西の融合と不気味さを象徴しました。
まずは匂わせで、今回は以上です∠(`・ω・´)




