第87話 紫紺の迷い猫
ここからは佳鈴の視点から行きますね!
〜佳鈴Side〜
うわ〜、すっかり遅くなったなぁ。
電車に乗って帰る途中、まさかの人身事故が発生した。
退勤帰宅ラッシュだった為に、電車の中はほぼ満員で、急に電車が止まってしまって、電車の中に閉じ込められてしまった。
幸い人身事故はそんな大した事は無かったから、警察の対応も早くて、2時間程度で電車の運行が再開出来た。
まぁでも、繁華街での事もあるから、痴漢に気を付けて電車の中を過ごしたけど、ちょっと堪えた。
「うわ、もう20時?」
龍太郎に連絡しておいたとはいえ、さすがに遅い。
なんか昨日からふんだりけったりだなぁ。
駅から歩いてだいたい30分、私はちょっと愚痴りながら帰路についてた。
溜め息しか出ないけど、龍太郎のご飯食べて、お風呂入って気持ちを切り替えよう。
そう思って前を見据えると、目の前に小さな公園が映る。
小さい頃、莉桜ちゃんと遊んで、子猫だった頃のグラピーを拾った所。
周囲が暗いせいもあって、小さくても夜の公園は危険な感じがする……。
近頃ニュースでも、12歳の女の子が外国人に襲わる事件があったり、憩いの場であっても、それ相応に周囲に気を張り巡らせておかないといけない。
なんだか嫌だなぁ……。
当たり前だった日常が壊されていくみたいで、好きな公園なのにすごく怖い。
そう思ってしまって、私は足早に公園を去ろうした……が、私の目はあるものを捉えてしまった。
(え………?)
公園にある遊具……ジャングルジムみたいな滑り台の下に、小さな人影があった。
フリーサイズのTシャツを羽織っただけで、どのくらいそうしていたのか分からないけど、薄汚れて靴も履いていない裸足の少女が蹲っていた。
「え、ウソ!?」
あのニュースの事が頭を過って、最悪の事態を思い浮かべながら、私は蹲っている少女の元に駆け寄った!
「ねぇ!あなた大丈夫!?」
少女に声をかけて、意識があるか、目立った怪我がないかを見ていくと、少女はワンテンポ遅れで顔を上げて私と目を合わせてくれた。
私は少女の目を見て、さらに驚いた。
小学生の頃、莉桜ちゃんと一緒に自由研究の課題で、人間の瞳の色の事について勉強したことがあった。
瞳の色に多様性がある主な理由は、虹彩に含まれる「メラニン色素」の量と種類の違い、そしてそれに関わる複雑な遺伝の仕組みにある。
瞳の色は、肌や髪の色と同じ「メラニン」という色素で決まり、私達日本人やアジア圏内の多くは、メラニンが多くて光を多く吸収するため、茶色や黒色に見える。
これは紫外線から目を守る役割もあり、日差しの強い地域の人々に多く見られるもの。
逆にメラニンが少ないと、 光が虹彩の中で散乱して、空が青く見えるのと同じ現象、"レイリー散乱"によって、青色やグレーに見えるという。
莉桜ちゃんみたいな緑色の眼の場合は、メラニン量がその中間くらいの量らしい。
あとは遺伝的なものらしいから、詳しいことはムズ過ぎて分からなかった。
何故こんなことを思い出したのか?
それは、この少女の瞳の色が紫紺の眼だったからだ。
莉桜ちゃんの緑色の眼よりも珍しくて、極めて稀な瞳。
私はついつい、その珍しくてキレイな眼に少し見入ってしまった。
(ハッ! イヤ何やってる私!?)
頭を少し振って、とりあえず少女に声をかけた。
「こんな時間にこんな所で何やってるの?
危ないわよ?」
「……………」
私の声掛けに対して、少女の反応はすごく薄かった。
なんというか…私の眼をジッと見て、うんともすんとも言わない。
キョトンとしてる、と言ったほうがいいような反応だった。
「あなた、お家はどこなの?」
「…………」
少女は答えない。
家出だとしたら、多少なりとも荷物とかリュックとかあった良かったのだけど、この子は殆ど着の身着のまま。
もしかしたら、何かしらの事件とかに巻き込まれたのかもしれない。
そう思って、私はスマホを取り出して110番通報しようとした。
そしたら、少女が突然私の腕を掴んだ。
「え、なに?」
「ケイサツは、ダメ」
なんと少女が、警察に連絡しないでと言ってきた。
「どうしてダメなの?」
「…………」
私の問い掛けに、少女は答えない。
何回か同じ様に問い掛けてみるも、少女は黙ったまま、私の眼をジッと見つめてきた。
このままじゃラチが明かないと思った私は、とりあえずRainで龍太郎にトラブルを連絡して、お風呂の用意と着替えをお願いする事にした。
なんにしても、こんな状態で子供を放置なんて出来ない!
私は保護の名目で、この少女を家に連れて帰る事にした。
「ねぇ、あなた名前は?」
少しでもこの子の情報を得ようと、私は名前を聞いた。
「……なまえ?」
「そ、なんて呼ばれてたの?」
「………………」
少女は少し間を置くと、思い出したかのように自分の名前を口にした。
「メイ」
「メイ…ちゃん? それが、あなたの名前?」
「うん」
口数は少ないし、無表情だから表情が読めないけど、この子の名前が"メイちゃん"だという事だけはわかった。
その他もいろいろ聞いてみたけど、名前以外に身元が分かるようなもの何も無かった。
いったい……この子、どんな理由であんな所に居たんだろう?
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〜龍太郎Side〜
今日の晩ご飯を作って佳鈴の帰りを待ってたら、もう20時を過ぎた時にRainの着信音が鳴る。
佳鈴からだ。
読んでみると、帰り際に公園で12歳くらいの子供を見掛けて、その様子から犯罪に巻き込まれるのを塞ぐ為に家に連れて帰るから、お風呂の用意と着替えを用意してほしい、って書いてあった。
繁華街に買い物しに行って、どんな引きしてんだよアイツは。
とりあえず、俺はもうすぐ帰ってくる佳鈴の為に湯船にお湯を張るボタンを押した。
『お湯張りをします』
ボタン一つでお湯を張れるから便利なもんだ。
「ふぁに?ほうふぐふぁにんひゃんふぁえっふぇくふほ?」
「飲み込んでからしゃべれ」
ご飯の出汁に使った昆布とスルメを、口いっぱいに頬張りながら朱里が喋り掛けてくる。
グラピーが羨ましそうな目で朱里を見ているけど、悪いがネコには食べさせられないんだよコレは。
「もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ……ゴッキュン。
で、佳鈴ちゃん帰ってくるの?もぐもぐ」
「ああ、帰る途中で子供を保護したらしいから、ついでに着替えも用意してな」
飲み込んで聞いてきたと思えば、すぐにまた次の昆布とスルメを口に運んで食い始める。
生ゴミが出ないだけマシだが、この象の胃袋はもう少しどうにかならないのか?
柔道部とかの育ち盛りでもねぇ限り、ここまで食わねぇぞ?
半ば呆れを通り越しながら準備するが、12歳くらいかぁ………。
とりあえず、クローゼットから薄着の寝間着でも出しておくか。
あとはメシの皿を一人分増やすだけか。
と言っても、取った出汁に麺つゆと酒を混ぜて作ったつゆに、茹で上がった素麺なんだがな。
俺が素麺食いたいだけだけど。
5束くらい茹でておくか。
鍋に水を入れて火にかけて、茹でる頃には帰ってくるだろう。
そう逆算しながら沸騰するまで待っていると、意外にも早く佳鈴が帰ってきた。
ドアの音に反応して、グラピーが佳鈴の所に迎えに行き、俺もその後に続いた。
「ただいま龍太郎!」
「おぅ、帰ってきた……!」
玄関に迎えに行って、俺は目を見開いた。
たしかに、見た目12歳くらいの女の子を連れ帰って来た。
きたが………
「ごめんね龍太郎、ちょっと無理なお願いして」
グラピーが佳鈴の足元、スネに頭突きをして、身体をスリスリ擦り付けて愛情表現を示している。
その隣で、莉桜と同じ様に、珍しい色をした瞳の色の、ショートヘアで可愛らしい顔をしていた少女が、グラピーをキョトンとした顔で見つめていた。
どのくらい外を彷徨きまわっていたのか、身体や羽織っただけのTシャツは薄汚れて、少しニオイもキツい。
それだけならまだ良かった………。
「すぐにこの子をお風呂に入れるから………りょ、龍太郎?」
佳鈴が俺を見て、少しビックリした表情をする。
「えっと……なんで…………」
佳鈴が驚いたのも無理はない。
俺は連れ帰って来たこの紫紺の眼の少女を見て、すぐにその子の正体を見抜いてしまった。
そして俺は自然と、眼を紅く光らせていた。
「…………龍太郎?」
佳鈴は俺と連れ帰って来た子と交互に視線を移し見て、不安そうな顔をする。
少し少女を見据えると、俺の眼は元に戻った。
『♪♫♪♫♪、お風呂が沸きました』
タイミング良く風呂が沸いた。
「すまない。風呂が沸いたから、先に入れてきてくれ」
「う、うん。わかった」
戸惑いながらだったが、佳鈴は少女を連れてお風呂に連れて行く。
グラピーもその後ろをついて行った。
「……………」
一瞬、佳鈴の目の前で、あの少女に向かって刀の切っ先を向けてしまいそうになった。
いったい……どこであんなのを拾ってきたんだ………。
「ねぇ、龍太郎」
俺の後ろから、朱里が問いかけてくる。
「あの女の子、"妖魔"よね?」
そう、俺が眼を紅くした理由。
それは、佳鈴が連れ帰って来たあの少女が、"妖魔"だったからだ。
けど……
「ああ」
「………なんで、そのまま招き入れたの?」
もっともな疑問だ。
妖魔を招き入れるのは、獰猛で腹を空かせた猛獣を、檻に入れずにそのまま迎え入れるのと同じだ。
そうなれば最後、俺達は全員腹の中だ。
けど、そうならないという確信のようなものがあった。
「アイツ、俺の殺気を前に微動だにしなかった。というより、殺気には気づいていたけど、それが何なのか分かってなかった」
一つの理由として、妖魔は自分に向けられる殺意やそういったものに敏感だ。
類は友を呼ぶというように、悪意や類似するものを持つ者は自然と集まり、そしてそういった感情に敏感に反応し感じ取る。
妖魔もこれに付随していて、所謂悪感情というものには敏感だ。
けど、あの妖魔の反応は"無"だった。
「…………それだけ?」
「あと、グラピーが、あの"妖魔"に警戒しなかった。
コレが大きいな」
動物は、俺達人間なんかよりも敏感に敵意や悪意を感じ取る。
特に野生下での動物の危機察知能力は侮れない。
朱里もその辺りはよく分かってた。
「朱里、悪いが隠れて様子を見て、何かあったらあの妖魔を拘束してくれ。場合によっては誅滅してくれても良い」
「分かった」
指示すると、朱里は隠形をかけて姿を消す。
朱里の隠形に気付ける奴はそうそう居ない。
にしてもあの妖魔、いったい……何が目的なんだ………?
妖魔あむの真相、アナタはどんな風に考えますか?
では、今回は以上です∠(`・ω・´)




