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最後の一弾  作者: 水無月 黒


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第三十四話 魔王城二階

 さらに歩き回ることしばし、ようやく上階への階段を発見した。

 何の変哲もない階段だった。魔王城一階の地図はほぼ埋まっているので、ダミーということもないだろう。

 階段が魔王城の中心付近にあるためか、それとも上階とつながっているため魔力が流れ込んで来るのか、ランタンの明かりはほぼ消えてしまっている。

 しかし二階の方が明るいらしく、階段の上から入ってくる光で他よりも明るかった。

 「ここまで来て、まだ魔物が出ないのか。」

 「ここに魔物がいないということは、階段を上がったところで待ち構えているかもしれません。」

 結局、魔王城に入ってから一度も魔物に出会っていない。一階は迷路で、二階は魔物だらけになっている可能性もある。

 「階段を上っている途中で襲われると危険です。全員で一気に駆け上がりましょう。」

 この階段、手すりもない上に急勾配でちょっと怖い。こんなところで戦闘になって、一人転げ落ちて仲間と分断されるのは避けたいところだ。

 俺たちは大きな階段を駆け上った。


 もしかすると、油断があったのかもしれない。

 魔物がまるで出てこないから気が緩んでいたのかもしれない。

 何もない廊下を延々と歩かされて焦れていたのかもしれない。

 慎重を期すならば、誰か一人を偵察に出すべきだっのかもしれない。

 まあ、全ては結果論だ。

 上階でグリフォンが待ち構えていた場合、偵察に出た一人は高確率で死ぬ。理力による身体能力の強化もほぼなくなっている状態なのだ。

 全員で向かったことは、必ずしも間違った判断とは言えないのかもしれない。

 とにかく、俺たちは全員で魔王城の二階へと上がって行った。


 魔王城の二階は、一階とは様相が異なっていた。

 一階の複雑な迷路のような通路は存在しなかった。

 フロア全体が一つの部屋になっているらしく、内部を仕切る壁は存在しなかった。ただ等間隔に柱が立っているだけだ。

 一階よりも一回り小さい二階の四方の壁には明り取りの窓が並び、その中央にはひときわ大きな窓――グリフォンの出入口かもしれない――が開いていた。

 西側の窓からは、だいぶ傾いてきた日が深く入り込んでいた。

 予想に反して、魔物の襲撃は無かった。広いフロアの中、動くものはほとんどなかった。

 その代わりにいたのは――()()だった。


 「!」

 予想外の出来事に一瞬固まる。

 目の前には二体の魔族がいた。

 一体は傲慢(プライド)のルシファーだろう。

 身長は二メートル強。

 巨体だがごついと感じさせないすらりとした体型。

 白いシャツに黒いジャケットの様な衣装。手には白い手袋を着けて顔以外の皮膚を露出していない。

 やや青白いが端正な顔立ち、その額からは一本の角が伸びている。

 聞いていた傲慢(プライド)のルシファーの姿と一致する。

 残る一体は当然魔王だろう。

 身長は二メートル半を超える。

 上背だけでなく横幅もあるがっしりとした体形。

 黄土色の肌。

 黒を基調とした衣装に、背中にはマントまで着けている。

 威厳のある顔の額からは一本の角が、更に左右のこめかみからも角が生えている。

 その隠しようもない存在感は、魔王以外あり得なかった。

 こんなところでいきなり出くわすとは思ってもいなかった。

 だが、驚いたのは向こうも同じだったようだ。

 なぜか魔王たちも驚いて動きを止めていた。

 もしかすると魔王が勇者を察知する能力は予想以上に高く、魔王城に勇者が侵入すれば分かると考えていたのかもしれない。

 あるいは外のグリフォンとの戦闘に勇者が参加していないため、今回は勇者は来ていないと考えたのかもしれない。

 ひょっとすると、外の様子を見るために大きな窓のなさそうな三階から降りて来たところにばったりと俺たちに出会っただけかもしれない。

 いずれにしても、互いに想定外の状況で意表を突かれ、しばし見つめ合ってしまった。


 最初に我に返ったのはマックスだった。

 「ここにいたか、魔王! この勇者クリストファーがお前を成敗してくれる!」

 芝居がかった様子で聖剣レプリカを抜くマックスを、こちらも呆然から立ち直った魔王と傲慢(プライド)のルシファーが胡散臭そうな目で見る。

 まあ当然だろう。

 聖剣レプリカと鎧に籠めた理力は、勇者がギリギリまで理力を抑え込んだ程度の強さで、それ以上は強くならない。

 負傷を押して無理して出て来たように見せかけた暴食(グラトニー)のベルゼブブの時とは違い、こちらから仕掛けた戦いだ。弱体化した勇者を引っ張り出す理由もなければ、魔王を前にして力を出し惜しみする必要もない。

 偽勇者であることがばれるのも時間の問題だろう。

 だが、それで構わない。

 ほんの少しの間だけ注意を引き付けられれば良い。

 マックスの三文芝居に応じて皆が慌てて剣を抜き、マックスの周囲に展開する。

 それに合わせて俺も懐から拳銃(ハンドガン)を取り出す。

 安全装置(セーフティー)を解除する。

 撃鉄(ハンマー)を起こす。

 遊底(スライド)を引く。

 両手でしっかりと保持して、狙いを定める。

 引金(トリガー)に指をかける。

 一連の動作を皆が魔族に剣を向ける動作に合わせて行う。

 手にした武器が異なっていてもさほど気にされないはずだ。

 魔族が二体同時に現れるという状況は最悪に近い。だが想定の範囲内だ。

 近くに魔物がいない分、多少はましだ。

 事前の打ち合わせ通り、狙うは魔王。

 魔王が倒れた後に傲慢(プライド)のルシファーがどう動くのか気になるが、魔王を倒さないことには心配しても仕方がない。

 俺は意識がマックスに向いている魔王の心臓を慎重に狙い、引金(トリガー)を引く!


 「魔王様!」


 直前で傲慢(プライド)のルシファーが動いた。

 俺だけ手にした武器が異なることに違和感でも覚えたのか。

 俺の殺意にでも気が付いたか。

 単なる直感か。

 危機察知能力でも持っていたのか。

 傲慢(プライド)のルシファーが射線に割り込んできた。


 ――バァーン!


 傲慢(プライド)のルシファーは魔王の代わりに心臓に銃弾を受け、崩れ落ちた。

 まずい、魔王の方が残ってしまった。

 魔王が驚愕の表情で倒れた傲慢(プライド)のルシファーを見ている。

 俺が魔族を倒せることが魔王に知られてしまった。

 マックスの三文芝居の意味を考えれば、俺が正面から戦えないほど弱いことは見当が付くだろう。

 もしかすると、勇者が既にいないことまでバレるかもしれない。

 魔族二体を同時に相手にした時点でこうなるリスクは高かった。

 しかし、厄介な方が残ってしまった。

 魔王自身も、配下の魔物も、他の七魔将より弱いということはないだろう。

 こちらの手の内が知られた以上、魔王を倒せる可能性は著しく低くなった。

 ――いや、まだだ。

 魔王はまだその場を動いていない。

 狙う先は変わらない。

 傲慢(プライド)のルシファーは既に倒れた。

 射線は開いている。

 俺は反動(リコイル)でブレた銃口(マズル)を微調整して、再び引金(トリガー)を引く!


 ――バァーン!


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