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最後の一弾  作者: 水無月 黒


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第三十三話 魔王城一階

 「近くで見ると大きいな。」

 俺たちは魔王城まで来ていた。

 そう、俺も突入要員だ。中に魔族がいるかもしれない以上、俺も付いて行く。そしてチャンスがあれば魔族を撃つ。

 「これだけ大きいと、外からでは中に魔族が潜んでいるか分かりませんね。」

 この世界の人は魔族が近くにいれば、すぐにそれと知ることができる。魔族の魔力によって理力が使えなくなるからだ。

 だいたい十ガルス、つまり三十メートルくらいで影響が出るそうだが、魔王城は幅が百メートルくらいありそうだ。高さ的にも三階建てに見えるから十メートルはあるだろう。

 魔王城は城としては小規模だが、それは単一の建物でしかないことも理由の一つだ。ホートリア王国の王城の場合、城壁内の広い敷地に複数の建物が建っていて一つの城を形成している。

 単一の建物としては、魔王城はかなりでかい。

 それ故、中に入らないことには魔族の存在すら確認できない。

 「それでは、突入します。何があるか分からないので十分に注意してください。」

 突入部隊の指揮を執るのはローデ少尉だ。ローデ少尉率いるカニンヘン隊とポール隊長率いるマサト部隊が合同で突入する。

 魔王城の中にもグリフォンや魔王配下の魔物がいる可能性がある。

 俺を守って進むことが難しいようならば、俺はマサト小隊と共に撤退する予定になっている。魔物の攻撃が激しいようならば、更に増援の兵士を連れてくる可能性もある。

 逆に魔王城がもぬけの空で安全が確認できたなら、調査用の部隊がやってくる予定だ。

 俺たちの突入は強硬偵察に近いものがある。

 ローデ少尉を先頭に、俺たちは慎重に魔王城へと入って行った。


 魔王城は石造りの立派な建物だった。

 築城に大した時間をかけられなかったはずなのだが、どうやって作ったのだろう?

 魔王城への突入自体は簡単だった。門は開け放たれていたからだ。

 正確に言えば、門に扉が付いていなかったのだ。

 急造の城だからだろうか、扉のあるべきところにはぽっかりと開いた穴があるだけ。妙な感じだ。

 魔族も楽に通れそうな大きな門から魔王城の中が丸見えなわけだが、門から入ると左右に伸びる長い通路になっているので、外からは城内の様子はほとんど分からない。

 もしかするとここは裏門か通用門で、反対の魔大陸に面した側に正門があるのかもしれない。

 門を入った後は――左右どちらの通路も同じようにしか見えなかったので――とりあえず右側の通路を進んで行った。

 何の変哲もない通路だった。何もなさ過ぎて違和感を覚えるほどだ。

 「魔王城は……魔族が作ったと考えて間違いなさそうです。使用されている石材に微かに魔力を感じます。」

 ローデ少尉が壁を見ながらそんなことを言った。

 「人の手で作られたものならば理力を宿しているはずです。魔力が染みついているということは、魔法で作ったか魔大陸から持ち込んだ石材を使っているということ。どちらにしても魔族の手によるものとしか考えられません。」

 詳しく調べる前から疑問点の一つが判明してしまった。やはりこの城は人の手で作られたものではなさそうだ。

 言われてみれば、この城は非人間的な雰囲気がある。

 まず飾りっ気がまるでないのだ。急造で無骨な城と言えばそれまでだが、壁は石がむき出しで色も塗られていない。

 門に扉が無かったこともそうだが、上の方にある明り取りの窓もただ穴が開いているだけで石以外の建材が見当たらない。

 その一方で、通路の天井は高く幅は広い。憤怒(ラース)のサタンの巨体でも楽に通れるだろう。

 最初から魔族が利用することを考えて作られた建物と考えて良さそうだった。


 あれから何十分歩いただろうか。

 魔王城の中を進むにつれ、その異常性が明らかになってきた。

 通路だらけで部屋がまるでないのだ。

 行き止まりや多少広くなっている場所はあっても、部屋として区切られている所は今のところ全く見ていない。門のところからそうだったが、ドアすらない。

 さらに内装品も全く見当たらない。机もなければ椅子もない。人間ならば必要になるであろう日用品も、城ならばあっておかしくない武具も一切見当たらない。

 ついでに照明器具も見当たらない。外の光が直接窓から入って来る辺りならばまだしも、奥の方ではかなり薄暗い。暗闇というほどではないが、怪しいものを見落とさないように理力で光るランタン(俺には使えない)で照らしながら進んでいる。

 トイレも見当たらなかったのだが、魔族はトイレに行かないのだろうか?

 通路の方も不自然に入り組んでいる。

 無駄に長く、何度も曲がる通路があると思えば、分かれ道と行き止まりが連続するところもあった。

 同じような通路ばかりで現在位置が分かり難く、目的の場所に真直ぐに行くことができない。

 これはまるで――

 「迷路のようですね。やはり勇者様の足止めが目的でしょうか?」

 通路を移動しながら作成した地図を見て、ローデ少尉が首をひねる。

 たぶんそれ以外にないだろう。少なくともこんな建物に住みたいとは思わないな。

 「それよりも、ここまで魔物が全く出てこないことが気になる。」

 ポール隊長は別のことを気にしていた。

 魔王城一階の地図もだいぶ埋まって来たが、あると思われていた魔物の襲撃が一度もなかった。

 「勇者様が魔物に攻撃すれば大きな理力を発する。魔族にとっても勇者様を見つけられるから必ず魔物が待ち構えていると思ったのだが……」

 魔力を常時垂れ流しにしている魔族と違って、勇者はある程度理力を抑えることができるのだそうだ。ギリギリまで理力を抑えて魔族に近付き、逃げ出す前に魔族を討つ、これができれば勇者の必勝パターンになるらしい。

 ちなみに、今回も偽勇者役として参加しているマックスは理力を過剰に注入した聖剣レプリカと全身鎧にも限界まで理力を注入した結果、ギリギリ理力を最低限に抑えた勇者に見える状態になっているそうだ。

 偽勇者とは比べ物にならないほど強大な理力を放つ勇者が戦えば、魔王城の外で魔物を倒しても魔族に気付かれてしまうだろう。軍の力を借りて外の魔物を素通りしたとしても、魔王城内で魔物に襲われたら勇者が対処せざるを得なくなる可能性が高い。

 適当に魔物を放っておくだけで対勇者用の警報装置になるのだ。それが全くないということは、魔族が既に逃げた後ではないかと疑いたくなる。

 しかし――

 「魔族はおそらく上の階にいます。上階への階段付近に魔物がいるかもしれません。」

 魔王城に入ってから、魔族の魔力を感じているらしいのだ。俺は感じないのだが、魔力が強くなるとランタンの明かりが暗くなるからよく分かる。

 そして魔王城内をさんざん歩き回ったことで、魔族の位置もほぼ特定できていた。

 それは魔王城のほぼ中央。それも地上一階ではなく上の階にいると考えられた。

 魔力を含む壁に遮られて魔力が減衰しているとしても、強い魔力の範囲が少々狭いのだ。

 それに一階の中央に魔族が潜んでいた場合、勇者がやって来た時に脱出が困難になる。魔王城内をぐるぐると歩き回らされる複雑な通路に囲まれているのだ。最短の道順を知っていても、どこでやって来た勇者と鉢合わせするか分かったものではない。

 おそらくは二階か三階には、すぐに外に出られる作りになっている場所があって、そこに魔族がいるのだろうと予想された。空を飛べるグリフォンもいるし、魔族の身体能力ならば二階や三階から飛び降りたところで怪我一つ追わないそうだ。

 上の階には魔族がいる。おそらく最上階の三階だろう。勇者を長く足止めしたいと思えば、魔族に至るまでの道のりを長くするはずだ。

 そう考えて、探索を続けた。


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