第三十二話 突入
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北方三国連合軍が進軍を再開した。
先ほどまでは距離を取ってグリフォンとにらみ合いをしていたのだが、魔族も魔物も動かないためこちらから仕掛けることにしたのだ。
グリフォンは強い魔物だが、歴史上幾度も戦ってきた相手である。この世界の人は魔物との戦い方を知っていた。
最初は理術兵による攻撃術だ。
前衛の兵士が接敵する前に先制の一撃を入れる。
強力な範囲型の攻撃術が次々と景気良く放たれる。
出し惜しみは無しだ。魔族が出てきたらどんな強力な理術も無効化されてしまう。その前に一体でも多くの魔物を倒すべきだった。
もちろんグリフォンも黙ってやられてはくれない。
直撃を喰らって倒れるグリフォンが出る一方で、空に飛んで逃れるもの、地を駆けて回避するもの、ダメージを受けても気にせず立ち上がるもの。なかなか簡単には数が減らない。
そして先ほどまでは警戒していてもその場を動かなかったグリフォンが、攻撃を受けたことでこちらに向かって襲ってくる!
空に飛びあがったグリフォンはそのまま空を飛んで向かって来る。
空を飛べる魔物は前衛を飛び越して攻めて来るから厄介だ。そうはさせじと一斉に矢を射かけてこれを迎え撃つ。致命傷には至らなくても、矢を受けたグリフォンは比較的簡単に落ちている。
地を駆けるグリフォンは大盾を構えた重装備の兵士が受け止める。グリフォンも力の強い魔物だが、理力で強化し、重装備で固めた兵士も負けてはいなかった。
動きの止まったグリフォンを、横から伸びた槍が刺し貫く。
ただ数を頼むだけではなく、連携を取って確実にグリフォンを倒している。
大盾を持った兵士がいるのは最前列だけではない。
グリフォンが矢を掻い潜って空を飛び、あるいはその場で飛び上がって布陣の内部に入り込んで来ても、すかさず近くにいた重装備の兵士が押さえ込み、周りの兵士が討ち取っている。
緒戦は順調なようだった。
戦況は順調だった。
順調すぎて不安になるくらいだった。
なにしろ、魔族が出てこないのだ。魔王はもとより、傲慢のルシファーも出てこない。
さらには、グリフォン以外の魔物、つまり魔王配下の魔物も出てこない。
そのグリフォンも近くの仲間が攻撃されるまでは持ち場を離れないらしく、各個撃破で着実に数を減らして行っていた。
傲慢のルシファーはグリフォンに対して現状に合わせた指示も行っていないらしい。
このままで行けば大きな被害も出さずにグリフォンを殲滅できるだろう。
「魔族どもは既に逃げ出した後かも知れんな。」
「あるいは最初からこの場にいなかったのかもしれませんね。」
ポール隊長の軽口に、ローデ少尉も応じる。
それもまたあり得る話だった。
魔王が魔王城を作った、あるいは何者かが使った城を乗っ取って利用した目的として、勇者対策ではないかという推測もあるのだ。
勇者と魔族が正面から戦ったら勇者が勝つ。相手が魔王だろうと、七魔将が何体来ようと同じこと。それは長い歴史が証明していた。
だから勇者が出て来れば魔族は逃げる。
逃げる魔族を捉えて勇者が倒すか、勇者から魔族が逃げ切るか。そこが勝負の分かれ目だった。
魔王城に潜む魔王を勇者が探し回っている間に、こっそりと魔王城を抜け出して逃げる。無人の荒野は魔大陸に近いという点でも魔族の逃亡には都合が良かった。
北方三国連合軍が進軍して来た時点で勇者もやって来ていると判断して逃げ出していても不思議ではなかった。
ただし、この説には一つ致命的な欠点があった。
勇者から逃げるために魔王城に籠っていては、魔族本来の目的――人類の殲滅を行うことができない。そもそも勇者に殺されないだけでよいならば、魔大陸から出てこなければよいだけだ。
実際、過去には魔大陸に引きこもったまま、魔物だけを送ってきた魔王もいたが、大した戦果を上げられなかったため二度と同じ手は使わなくなったという話だ。
引きこもる場所が魔大陸から無人の荒野になったところで結果に大差はないだろう。
しかし、ここでもう一つの可能性が浮かび上がってきた。
勇者から逃げるための足止めではなく、勇者を釘付けにするための囮として魔王城を利用するつもりなのではないだろうか?
こんなところに怪しげな城があり、その周りを魔物で固めていれば、当然城の中には魔族が潜んでいると考えるだろう。ならば、勇者は必ずやって来る。
実際、今回は魔族の姿を見ていないにもかかわらず、北方三国連合軍を組織して無人の荒野までやって来た。勇者が健在ならば確実に参加していただろう。
しかし、もし魔王城の中に魔族がいなければ。魔王配下の魔物を引き連れてどこかの国の大都市近くに潜んでいるとすれば。
勇者が無人の荒野から帰って来るまでの間、何の心配もなく攻撃し放題になる。
今まさにそうして魔物の襲撃が行われているのかもしれない。
この場に勇者がいた場合、どこかの都市を魔族が襲っていると連絡が入ってもすぐに駆け付けることはできない。
カラトス大陸の北の果て、無人の荒野には転移門がないからだ。
理術を用いた連絡網でも無人の荒野まで情報を届けるには時間がかかるし、近いところでもサリオス帝国の帝都まで戻らなければ転移門は使えない。
早くて五日、下手をすれば十日以上勇者の到着が遅れる可能性があった。
多数の魔物を見つからないように潜伏させることが難しいこと、勇者が本当に無人の荒野に来ているかを遠くから確認する手段が必要なこと、何度も使える手ではないから城を建てるコストに見合わないだろうということなどから、可能性は低いと見られていた。
しかし、ここまで魔族の動きが無いと最初から魔族がいなかったか、既に逃げ出した後かと疑いたくなる。傲慢のルシファーがグリフォンに的確に指示を出していればもう少し苦戦したはずだ。
まあ今回は魔王城の探索して魔王の考えを調べることが主目的だから魔族がいなくても問題ない。
「いずれにしても、このまま行けば間もなく魔王城への道が開けます。」
「そうなれば、予定通り突入だな。」
戦況はその後も順調に進んだ。
北方三国連合軍の総指揮を執ったのはサリオス帝国の将軍だったが、かなり優秀らしい。
魔族も現れず、魔物の行動も変化ないと見ると、味方の被害を抑えつつグリフォンを確実に倒して行く戦術をその場で構築した。
対するグリフォンは、個体としては強いのだが、連携とか組織的な戦闘は得意ではないようだ。人間側の戦略に対応できずに、いいようにあしらわれている。
それでも強い魔物だから強力な一撃を受けて倒れる兵士も出るし、これから傲慢のルシファーや魔王配下の魔物が出て来るかも知れないから油断はできない。
しかし全体としてはこちらが優勢だ。少しずつ着実にグリフォンを倒して行っている。
安全を優先しているから少々時間がかかっているが、今回に限り何の問題はない。魔王を逃がすための時間稼ぎをしていようが、勇者を引き付けるための囮だろうと、勇者がいないのだから同じことだった。
そうして地道にグリフォンを倒して行った結果、ついにその一角を崩すことに成功した。
グリフォンはまだまだいるが、魔王城までの道は開けた。
ならば作戦は次の段階へと進む。
いよいよ魔王城への突入である。




