第二十八話 残弾二発
今回も厳しい戦いだった。
暴食のベルゼブブは強者を求めて戦場を駆け回る。
何処にいるのか分からないから、こっそり忍び寄って狙撃という手は使えない。
何処に現れるか分からないから、待ち伏せて狙撃という手も使えない。
結局、強欲のマモンや色欲のアスモデウスのようにおびき出す作戦しかなかった。
暴食のベルゼブブは強者を求めているから、精鋭部隊で魔物を派手に倒して行けばおびき出すことは可能だ。
しかし、おびき出した後が問題だった。
直接自分で人を殺すことに拘らなかった他の魔族と異なり、暴食のベルゼブブは積極的に人を殺して喰らう。
出会い頭にいきなり俺が食い殺される危険性もあった。
サリオス帝国の誇る囮部隊でさえ、暴食のベルゼブブから犠牲を出さずに逃げ切る方法が見つからず、囮作戦を行えていない状態なのだ。
そこで考えられたのが、偽の勇者一行を仕立て上げる作戦だ。
あの時勇者役が持っていた聖剣は、聖剣そっくりに作られたレプリカだ。
その聖剣レプリカに限界まで理力を注ぎ込むことで、レプリカは力を最低限に抑えた聖剣に、持つ者は消耗して聖剣の力を一割程度しか引き出せなくなった勇者に見えるのだそうだ。
勇者が相手となれば、暴食のベルゼブブも躊躇するだろう。
勇者を避けてそのまま逃げる可能性もあったが、それならばそれで無事に生還できる。
しかし、勇者が自分でも倒せるほどに弱っていると判断すれば、魔族にとって最強の人類である勇者を喰らおうと考えるのではないか?
ベルゼブブが自ら人を喰らう場合、ケルベロスは少し遠ざけて手出しをさせないことが歴史的にも知られていた。うっかりケルベロスに狙っていた人を喰われることを避けるためだと考えられている。
だから、ベルゼブブが勇者を喰らおうとすれば、そこに隙ができる。勇者に集中したベルゼブブは周囲の人間など気にもしないだろう。
最悪、勇者役の者が食い殺されている間にベルゼブブを倒せればよいという非情な作戦だった。
この危険な勇者役を行ったのは、マックスだった。
死刑確定の囚人にやらせなければならぬほどに危険な任務だ。
その危険な任務を、マックスは嬉々として引き受けた。
彼なりの贖罪だったのかもしれない。
あるいは勇者に対する拘りがまだ残っていたのかもしれない。
いずれにしても、マックスは勇者の代役を見事に果たし、運よく生還することができた。
大勝利と言ってよい。
暴食のベルゼブブの性格や行動パターンを読み切った作戦勝ちだ。
しかし、今回最も活躍したのはマックスで間違いないだろう。
聖剣レプリカは当然聖剣のような能力はない。それどころか、無理やり理力を注入しているので却って脆くなっている。「魔物相手にも使うな」と言われているお飾りの剣だった。
そんな頼りない武器を手に、狂暴な魔族相手に自信たっぷりにはったりをかまして警戒させたのだ。
あれで動きが止まったからこそ、俺は撃つことができた。
そうでなければ、マックスが喰われている隙に撃つことになるところだった。
マックスが生き延びたのは、間違いなくマックスの演技力の賜物だった。
暴食のベルゼブブが現れてからも倒すか喰われるかの厳しい戦いだったが、ベルゼブブをおびき出すまでも大変だった。
ケルベロスは強い魔物だ。
守りに徹している兵士達からすれば、魔物だらけの戦場に果敢に攻めいる一団は、さぞや強そうに見えたことだろう。
確かにホートリア王国の精鋭部隊、マサト小隊は理力を封じた特訓の成果もあって強い。
しかし、俺は相変わらずお荷物だった。訓練で多少は体力も付いたが、理力で底上げした身体能力で戦う兵士にはついていけない。
さらに、普通に戦えばかなり強いマックスも、聖剣レプリカを振るうわけにはいかないため、戦いに参加していなかった。
暴食のベルゼブブと戦うまでは出番のない俺たち二人を守りながら、俺に合わせて移動速度も控えめで行動していたのである。ベルゼブブが現れた時に俺が動けないほど疲れ切っていたら元も子もない。
無造作に出撃して手当たり次第に魔物を倒していたように見えて、複数のケルベロスの群れに囲まれないように注意してコースを選び、二、三戦たらすぐに引き返していた。
実は動き回ることで余計な戦闘を避けていたのだが、それを果敢に攻め入っているように見せたのは暴食のベルゼブブをおびき出すとともにサリオス帝国軍の士気を上げる意味もあった。
まあ、それでもマサト小隊が強い精鋭部隊であることは間違いない。俺たちを守りながら襲い来るケルベロスを危なげなく倒して行った。
そして、暴食のベルゼブブが現れた時も落ち着いて行動することができた。訓練の成果が出た。
マサト小隊の皆が魔族が近付いたことによる弱体化にも慌てず、冷静に作戦通りの行動をとれたから俺は自然に暴食のベルゼブブを狙撃する絶好の位置に着くことができた。
その後統率を失ったケルベロスをやり過ごし、全員五体満足で帰還することができた。
AMT オートマグ IIIから銃弾を取り出した。
弾倉から一個。薬室から一個。
残る銃弾は二個のみ。
残る魔族も二体のみ。
傲慢のルシファー。
そして魔王。
この二体が今とこで何をしているのか、その動向はつかめていない。
ただ、傲慢のルシファーは魔王と共にいることが多いらしい。場合によっては魔族二体を相手にしなければならないかもしれない。
戦いもいよいよ大詰めだ。後二体魔族を倒せばそれで終わる。
俺は銃弾を弾倉に詰め直す。
いつものように拳銃の整備を終えると、弾倉を銃把に収めた。




