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最後の一弾  作者: 水無月 黒


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第二十話 残弾四発

 銃把(グリップ)から弾倉(マガジン)を引き抜く。

 弾倉(マガジン)が銃弾を抜き取る。

 一個、二個、三個。

 何度数えても、机の上に並んだ銃弾は三個のみ。

 遊底(スライド)を引いて、薬室(チェンバー)から銃弾を取り出す。

 これで四個。

 怠惰(スロウス)のベルフェゴール相手に二発撃ってしまった。

 元から外す可能性の高い距離からの狙撃だったのだ。二発で済んだというべきかもしれない。

 残る魔族は四体。

 残る銃弾も四個。

 まだギリギリ全ての魔族を倒すことができる。

 けれどももう余裕はない。一発も外すことはできなくなった。

 何度数えても弾数は増えない。

 これ以上眺めていても仕方がないので、銃弾を弾倉(マガジン)に詰め込ん出て行く。

 一、二、三、四。

 あと四回撃てば俺の仕事は終わる。少なくとも俺にできることは無くなる。

 それまで生きていられればの話だが。

 「まあ、今は拳銃(ハンドガン)の手入れをするか。」

 俺はいつも通りに手入れを行い、弾倉(マガジン)銃把(グリップ)に収めた。


 ◇◇◇


 俺達はホートリア王国に戻って来ていた。

 これまで攻め込んできた魔族は、途中乱入してきた嫉妬(エンヴィー)のレヴィアタンを含めてすべて倒すことができた。

 残る魔族は首魁の魔王を含めて四体。何処で何をしているか、全て未確認である。

 魔族が何処で何をしているのか分からなければ、作戦の立てようもない。

 「残る魔族は大陸の北端、あるいは魔大陸において戦いの準備をしているものと思われます。」

 姫様が説明する。

 「現在我が国及びサリオス帝国がそれぞれ偵察を出していますが、非常に危険で困難な任務です。おそらく成果が出る前に魔族が動き出すでしょう。」

 大量の魔物がいるであろう魔族の本拠地を探ろうというのだ、相当な危険付きまとうのだろう。近付き過ぎれは魔族影響を受けて逃げ出すことも困難になってしまう。

 「魔族もそろそろ勇者様の登場を考慮しているはずです。サタンやマモンが倒されたと知れば、他の七魔将が動き出すでしょう。」

 この先は魔族も勇者を警戒している。今までのように不用心に近付かせてくれるとは限らない。魔族が近付く者を片端から殺して行くようならば作戦を立てるのも難しくなる。

 「勇者が現れたと判断すれば、総攻撃をかけて来ると思われます。複数の場所を同時に攻撃して、勇者に倒される前に少しでも多くの人間を殺すのがこれまでの魔族のやり方です。」

 魔族の弱点は魔王を含めて八体しかいないという数の少なさだったが、勇者はもっと少ないたった一人だ。複数個所を同時に攻めてこられたら、一箇所ずつ順番に対処するしかない。後回しになった所では被害は大きなものになるだろう。

 「過去の例からして、我がホートリア王国には色欲(ラスト)のアスモデウスが、サリオス帝国には暴食(グラトニー)のベルゼブブが攻めて来るでしょう。傲慢(プライド)のルシファーは魔王と共に行動することが多いようですが、魔王ともども何処に現れるかは不明です。」

 魔族の動きもある程度は予測ができるらしい。魔族の能力や使役する魔物の種類は毎回同じようなので、最適な戦法はそれほど変わらないのだろう。

 「作戦はこちらで検討しますので、それまでマサト様はどうか体を休めてください。」

 姫様直々に休暇を言い渡された。魔族が次の動きを見せるまではとりあえず俺の出番は無さそうだ。

 まあ、休暇と言っても俺は訓練を行う予定だ。

 実弾を撃てないのは辛いけれど、射撃訓練はやっておきたい。今度は早打ちが必要になるかもしれないし。

 それから兵士の訓練も少しだけ受けさせてもらっている。

 多少でも体力をつけ、魔物から身を守れるように剣の扱いも覚えれば生存率が上がることになる。

 最初の頃は超人的な身体能力を持つ兵士について行けなくて諦めていたのだけれど、魔族と対峙したことで考えが変わった。

 魔族が近付いて理力が封じられると、強い兵士ほど何もできなくなっていた。一番危険な状況では、俺も少しでも戦えた方が良い。

 ホートリア王国でも理力が使えない状況で戦う訓練を始めたので、そこに交ぜてもらうことにしたのだ。


 「全員まずこの手枷を付けるんだ!」

 手枷と言っても腕の動きを拘束するようなものではない。

 罪人を拘束する場合は鎖を付け、外れないように鍵をかけるのだそうだが、それらの拘束する部分を取り除くと手枷というよりちょっと武骨な腕輪になった。

 この武骨な腕輪には装着した者の理力を乱し、理術や理術による身体能力の強化を行えなくする作用があるそうだ。理術や理力による身体強化がある世界では、このような器具が無ければ犯罪者を拘束できないのだそうだ。

 この手枷を、マサト小隊の全員が着けた。

 俺も着けてみたが、予想通り何の影響もなかった。俺は最初から理力を持たないのだから当然だ。

 一方、マサト小隊の皆は少々辛そうだ。

 強欲(グリード)のマモン、怠惰(スロウス)のベルフェゴールと理力が使えなくなる状況は経験している。だからいきなりへたり込んだりパニックを起こすことはない。

 しかし理力による身体強化は半ば無意識で行っているものだ。突然理力が使えなくなるといきなり体が重くなり、まるで病気にでもなったかのような不調を感じるのだそうだ。さぞやり難いだろう。

 「それでは、当面この手枷を着けたまま生活する。訓練も含めて、非常時以外は手枷を着けたままでいるように!」

 ポール隊長が自身も手枷を着けて命令する。

 これがサリオス帝国の囮部隊から学んだ訓練方法だった。魔族に近付かれた時と同じ状態に慣れることで、魔族と出会っても普通に行動できるようになる。

 ちなみに、トモーロスの戦士の訓練方法も聞いたが、こちらはちょっとまねできそうにない。バッデン山脈には理力が希薄で消耗した理力を回復できない場所があるそうで、そこで理力が切れた状態のままずっと訓練を続けるのだとか。

 高地トレーニングみたいなものだろうか?

 「それでは訓練を開始する!」

 理力を封じた状態での兵士の訓練が始まった。


 「これ、きっつー。」

 マサト小隊の一人、ベンが弱音を吐いた。

 軍の訓練の定番と言えば、重い装備を着けたまま走ることだろう。

 それはこの世界でも同じだ。

 この世界では銃火器の代わりに剣を持ち、軍行に必要な物資を詰め込んだリュックを背負い、人によっては重い鎧を着たり盾を持ったりして、ひたすら走る。

 俺が最初にこの訓練に参加した時には手ぶらでも付いて行くことができなかった。

 この世界の兵士は、短距離走の速さで長距離を走りぬくことができるのだ。付いて行こうとすればあっという間に息が切れてしまう。

 しかしそれは理力で強化された体力があってのこと。

 理力を封じられたマサト小隊の皆はボロボロだった。

 どうも、理力による身体強化が切れた状態での感覚がつかめず、ペース配分が上手くできていないようだった。

 今回は俺も同じ荷物を背負って走ったのだが、他の皆に付いて行けただけでなく、走り終えた時に俺が一番余裕があったくらいだ。

 「次! 剣術の訓練を行う。現状では危険なので、今日は素振りのみを行う!」

 短い休憩でどうにか息を整えたポール隊長が次の指示を出す。

 疲労で足元もふらついている現状では打ち合う練習は危険と判断したらしく、ひたすら素振りをすることになった。

 俺も剣を借りて教えてもらいながら素振りをする。

 練習用の剣は、刃は潰してあるそうだが真剣だ。もっとずっしりとした重みを感じる。

 魔物の中にはドラゴンのように固くて厚い皮膚を持つものもいるから、剣も切れ味の鋭さよりも敵を押しつぶす重量が必要とされるらしい。

 刃を潰してあっても重量だけで致命傷を与えられそうだ。

 重い剣を振り上げて、振り下ろす。

 単純な動作だが何度も繰り返すと腕が重くなってくる。

 ホートリア王国やサリオス帝国の軍は、他国との戦争よりも魔物との戦いを想定して訓練が行われている。歴史的に他国を武力で併合してきたサリオス帝国はともかく、ホートリア王国は特にその傾向が強いらしい。

 魔物相手の剣術は、とにかく素早く、強く、正確に、だ。敵との駆け引きよりも、とにかく手数を重視する。

 だんだんと腕が疲れてきた。剣が重い。必死になって握りしめていないと、剣がすっぽ抜けそうだ。

 ふと横を見ると、俺よりもよほど剣を振り慣れているマサト小隊の面々も足元がふらついていた。

 先ほどの走り込みの疲れが残っているのだろう、踏み出す足がぐらついて、振り下ろす剣先も揺れる。

 剣を振るというより、剣に振り回されている感じだ。剣で打ち合う練習を避けるはずだ。凄く危なっかしい。

 目標の回数を振り終えた時、隊員の半数がぶっ倒れるように地面に横になり荒い息をしていた。残りは地面に座り込んでいる。


 翌日、全員がひどい筋肉痛に苦しんだ。

 そして筋肉痛のまま地獄の訓練は続く。


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