第十四話 港湾都市デルト
俺達はラムザス連邦の主要な都市の一つ、港湾都市デルトに来ていた。
この世界には現代の地球のように便利な乗り物はなかった。陸路ならば馬か馬車、さもなければ徒歩。船は帆に風を受けるか人力で漕ぐのみ。例外的に理術で動く船もあるらしい。そして飛行機は存在しない。
しかし、地球には無い特殊な移動手段が存在していた。
それが、転移門と呼ばれる理術装置だった。
転移門は動作すれば予め設置されている別の転移門まで一瞬で移動できるという非常に便利な装置だった。
ただ、転移門は設置にも運用にも大きなコストがかかるらしく、あまり気楽に使えるものではないらしい。
また、一度に転移できる物量にも制限があり、軍を派遣するために使用したり、大量の物資を輸送するには向かないのだそうだ。
実際、トモーロスの代表であるゴルカ氏はこの転移門を使ってサリオス帝国にやって来たのだが、よほど切羽詰まらない限りは転移門による補給物資の輸送は検討もされないらしい。
しかし、少人数の人間を他国に素早く送るには便利なため、カラトス大陸の主要な都市には転移門が設置され、非常時に使用できるように整備されているそうだ。
魔族との戦いも後半戦になると、勇者が転移門を使用して各地に出没する魔族を倒して回るのが通常だとか。
勇者ではないが、俺達も港湾都市デルトを襲った魔族に対するため、転移門を使ってこの地に来ていた。
怠惰のベルフェゴールは未だに動きを見せないことと、転移門を使えばサリオス帝国にもトモーロスにもすぐに行けるから、こちらを優先したのである。
「こちらが現在確認されている嫉妬のレヴィアタンの被害状況です。」
説明するのは、ラムザス連邦の評議長アレクス・モレノと名乗った男だった。
「襲撃を受けたのは港湾都市デルトの他にベルムとエジャル、他に幾つかの漁村が被害に遭っています。一箇所は小さな漁村でしたが住民が全滅したため発見が遅れました。」
予想以上に被害は広範囲にわたっていた。
「トモーロスに向かった大型商船が三艘行方不明、また時化でもないのに帰ってこない漁船か多数、おそらく海上で襲われ船ごと沈められたのでしょう。」
海上で襲われるのは厄介だ。戦力は十分にあっても船が沈められたらそれまでだ。
「時期的に見て、危険を感じて船を出さなくなったから港町を襲うようになったと思われます。魔族の目的は、おそらく民間人を殺すことです。魔物は軍が反撃を開始すると即座に徹底しています。」
これには一同息を呑んだ。
魔族の最終的な目的はカラトス大陸に住む全人類の抹殺だと考えられている。しかし、これまではその邪魔になる戦闘要員から先に攻撃して来ていた。
初っ端から民間人を狙ってくるのは初めてのことらしい。
「魔族はたまに前例のないことをやりますからのう。大方、有効な戦術かどうか試しているのじゃろう。」
爺さんの言う通りだとすると、ここで成功されると何度でも民間人を狙ってくるようになる。
「魔物は人間以外に興味はないようで、港湾施設も停泊している船も多くは無事です。しかし船で出港すれば沈められる危険が高い状況です。」
基本的に船は出せないか。どのみち勇者の真似はできないのだから、やはり上陸した魔族を撃つしかないな。
「マーメイドは陸に上がると動きが鈍くなります。海からある程度離れていれば、魔物が現れても避難が間に合います。民間人には海に近付かないように指示を出しています。」
マーメイドというと、半魚人とかじゃなくて人魚だよな? 陸に上がって来られるだけでも不思議なんだが。
「嫉妬のレヴィアタンも上陸してきますが、今のところマーメイド達の後方で状況を見ているだけのようです。軍が迎撃の体勢を整えたあたりで引いてくれるので何とか追い返せている状態です。しかし、このまま被害を抑え続けていると、魔族の動きがどう変わるか予想ができません。」
ラムザス連邦の軍に対して積極的に戦わないのは、マーメイドにとって不利な陸上の戦闘で消耗することを避けるためだろう。やはり非戦闘員のみを狙って襲っているらしい。
民間人の避難と軍による迎撃が素早くできるようになって、魔族側の成果が出せないと分かったら、嫉妬のレヴィアタンはどう動くか? 軍の兵士に攻撃対象を変更するのか、海で船舶を沈めることに専念するのか、別の海岸近くの都市を攻撃するのか、確かに予想がつかない。
「これまでの襲撃の状況を分析して、海流や潮の干満などから、ある程度次の襲撃場所と時間の見当がつくようになりました。サリオス帝国の援軍が到着したら、嫉妬のレヴィアタンの行動パターンが変わる前にマーメイドを一気に叩くつもりです。」
魔族の行動パターンを解析したのか。大したものだ。
魔物を倒すことで戦力の足りなくなった魔族を撤退に追い込む。勇者の加勢が期待できない状況で魔族を撃退する唯一の方法だそうだ。
撤退した魔族は配下の魔物を補充してやがて戦線に復帰する。その際に同じ行動をとるかは不明だ。
行動が読めている今のうちに嫉妬のレヴィアタンを倒す作戦を考えたいところだが……。
いや、まてよ。
「マーメイドが停泊している船を襲わないのなら、その船に隠れてやり過ごせば上陸した嫉妬のレヴィアタンを背後から攻撃できないか?」
俺のアイデアは検討の結果採用された。
現在の嫉妬のレヴィアタンの行動は消極的で、海からあまり離れようとしない。正面から接近しようとしても魔物の群れを突破しなければならないし、軍が強引に魔物を蹴散らしていけばそのまま撤退してしまう。
魔物を避けてこっそりと近付くのならば、レヴィアタンの背後を衝けるという点で停泊中の船は都合が良かった。
途中で見つかると大量の魔物に囲まれたり、最悪海中に引きずり込まれる危険があるが、それはどんな作戦でも付いて回るリスクだろう。
嫉妬のレヴィアタンが消極的な今なら、魔物に囲まれた状況からでも軍が出動すれば救出できる可能性が高い。また海上とは言え、港の中なので陸に逃げるのもすぐだ。
魔物に見つからなければ、狙撃が無理でもそのまま隠れてやり過ごすことも可能だろう。
「次の魔族の襲撃は明日の夕刻、ベルムの港に現れると予想されます。サリオス帝国軍の到着には間に合わないので本格的な反撃は行いませんが、これまでマーメイドを撤退させた程度の兵は配備しています。試してみるならばちょうどよいでしょう。」
さらに作戦の詳細が詰められていった。




