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最後の一弾  作者: 水無月 黒


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第十一話 残弾七発

 帝都は賑わっていた。あちらこちらから歓声が聞こえる。

 「勇者が強欲(グリード)のマモンを倒した。」

 公式にそう発表されたからだ。

 俺のことは極秘扱いにしてもらっているから、魔族を全て倒し終わるまでは勇者の名に活躍してもらわなければならない。

 魔族との戦いが始まった時点で一般の市民は帝都から疎開を始め、今では軍関係と一部の政府の人間、後は軍需物資を持ってくる商人くらいしかいないらしい。

 その分魔族の脅威を肌で感じている者が多いそうで、魔族討伐の報は歓喜を持って人々に受け入れられていた。

 賑わう街の喧騒を横に、俺は城内に与えられた部屋の中で拳銃(ハンドガン)の手入れをしていた。

 今の拳銃(ハンドガン)はこまめに手入れをしなくてもジャムったりはしないそうだ。

 けれどもこいつはこの世界で替えの効かない唯一の品だ。できる限りのことはしておきたい。

 銃把(グリップ)から弾倉(マガジン)を取り出し、ついでに弾倉(マガジン)から銃弾も取り出して机の上に並べる。

 数は六個。

 さらに遊底(スライド)を引いて薬室(チェンバー)から弾丸を抜き取る。

 これで七個。現在持っている銃弾の全てだ。

 銃弾を机の上に並べたまま、手入れ用にもらった布で拭ける限りの場所を拭いて行く。

 終わったら、銃弾を一個ずつ弾倉(マガジン)に詰め込んで行く。

 一、二、三、四、五、六、七。

 残り七発。

 魔族も心臓を貫けば一発で倒せる。それが分かったことも大きな収穫だった。

 弾倉(マガジン)銃把(グリップ)に納める。

 今回は色々と危なかった。

 ゴブリンに囲まれたときは、正直もう駄目かと思った。あの数の魔物を相手に持ちこたえるこの世界の兵士は凄い。

 それが魔族が現れただけで一気に劣勢になったのには焦った。弱体化するとは聞いていたが、これほど激的だとは思わなかった。

 比較的戦えていたサリオス帝国の兵士達でも防戦一方になっていた。

 ゴブリンが俺のところまで来ていたら終わりだった。

 今回魔族を倒せたのは、俺達が生き残れたのは、運が良かった。

 強欲(グリード)のマモンは、俺達を殺すことよりも武器を回収することを優先していた。ゴブリンたちもそれに協力していたからマサト小隊の皆はどうにか助かった。

 まず俺達を殺して、その後から剣を物色するつもりだったら全滅していただろう。

 ゴブリンに取り囲まれて射線を塞がれたら失敗していたかもしれない。

 マモンは全く俺達を気にしていなかった。俺の拳銃(ハンドガン)だけでなく、隣のトムの投げた剣にも警戒することはなかった。

 この油断こそが最大の勝機。しかし、それだけに頼るのでは危う過ぎた。

 今回は囮に誘い出された魔族を倒すだけの簡単な作戦だった。失敗しても逃げ帰ってやり直せるはずだった。それが魔族の行動が変わっただけで一転、全滅のピンチになった。

 もっと確実な手段があればいいのだが……、無いものねだりか。

 これからも状況と魔族の特性を考えて最善の作戦を立てて行くしかない。

 そう言えば、今回は生まれて初めて殺意を籠めて引金(トリガー)を引いた。

 憤怒(ラース)のサタンの時は無我夢中だった。強力な殺意に押されて、追い払うようなつもりで撃った。

 だが今回は、こちらを意識もしていない強欲(グリード)のマモンを不意打ちで射殺した。

 最初から殺すつもりで、銃口(マズル)を向け、引金(トリガー)を引いた。

 「あ、あれ?」

 なんだ、今になって、指先が震えてきた。くっ!

 俺は震える指先を押さえ、安全装置(セーフティー)だけ確認して、オートマグ IIIをホルスターに納めた。


 ◇◇◇


 「大役を果たしたばかりのところ申し訳ないが、次の作戦の検討を始めたい。」

 帝都に戻ってきた翌日、早々に会議が行われた。

 強欲(グリード)のマモンを倒したばかりだが、魔族は後六体残っている。

 全てを倒さなければ戦いは終わらない。

 出席するメンバーはほぼ同じだ。俺のことが極秘になっている以上、対魔族の作戦会議に加わることのできる者は限られている。

 だが、全く同じメンバーというわけでもなかった。

 「紹介しよう、トモーロスの代表、ゴルカ殿だ。」

 サリオス帝国の皇帝から紹介されたのは、サリオス帝国ともホートリア王国とも違った感じの、カーキ色の民族衣装のような服装を着た壮年の男だった。

 魔族との戦いはまだ始まったばかり。

 現在確認されている魔族は、三体のみ。

 ホートリア王国を襲った憤怒(ラース)のサタン。

 サリオス帝国と交戦していた強欲(グリード)のマモン。

 そしてトモーロスに現れた怠惰(スロウス)のベルフェゴール。

 残る五体はカラトス大陸の北方、あるいはケラモス大陸――通称魔大陸で戦力となる魔物を生み出していると考えられた。

 サタンとマモンを倒した今、必然的に次の標的は怠惰(スロウス)のベルフェゴールになる。

 そこでトモーロスの要人を招いて作戦会議を行うことにしたのだ。

 「ベルフェゴールは現在この辺り、我らのバッデン山脈の目と鼻の先に陣取っている。こちらから近付かなければ何もしてこないが、トモーロスの戦士が山を下りれば戦闘になるだろう。」

 「おそらくはマモンが総攻撃を仕掛ける際に、トモーロスに背後から攻められないように牽制しているのでしょう。」

 強欲(グリード)のマモンが操るゴブリンは単体では弱い魔物だ。それを数で補うがゴブリンの戦い方なのだが、実は進軍中の背後から攻められると弱いのだ。後方のゴブリンが倒されている間に前方のゴブリンは進んで行ってしまうから、大軍なのに各個撃破されてしまう。そこで臨機応変な対応を行える頭はゴブリンには無い。

 強欲(グリード)のマモンにとっても全ゴブリンによる総攻撃は乾坤一擲の大勝負だ。結果がどうあれ総攻撃が終わればゴブリンはほぼ全滅し、再びゴブリンの数を揃えるまでマモンは戦線を離れることになる。可能な限りの成果を上げたいところだろう。

 また、トモーロスはバッデン山脈に暮らす山岳民族で、地の利を活用した堅い守りで有名なのだそうだ。魔族からしても、山に籠っているトモーロスに攻め入るより、山から下りてきたところを叩く方がよほど戦いやすいのだそうだ。

 バラバラに攻めてきているように見えて、意外と魔族同士で連携を取っているらしい。

 だから状況が変わらない限り、つまりサタンやマモンが倒されたことを知るか、トモーロスの戦士が山を下りてくるかしない限りは、怠惰(スロウス)のベルフェゴールは動かないだろう。

 本来ならば歓迎すべき状況だ。可能な限り損害を抑えて勇者の登場を待つのがこの世界の魔族との戦い方なのだから。魔族が何もしかけてこないなら、様子を見ていればよい。

 しかし今回ばかりは状況が違った。勇者はもういないのだから。

 「しかし、ベルフェゴールが動かないのは困りましたね。向こうから近付いてきてくれないことには、マサト殿が攻撃する隙を作ることが難しくなります。」

 ローデ少尉は困ったように首をひねる。

 サリオス帝国の囮部隊では、強欲(グリード)のマモンだけでなく、他の七魔将が攻めてきた場合にも戦場から魔族を引きはがすための作戦を考えていたそうだ。

 しかし、全く動こうとしない相手を誘導することは困難だ。

 ベルフェゴールに動いてもらわないと俺が困る。

 今ベルフェゴールがいる場所は見晴らしの良い平原で、周囲には配下の魔物がうようよいるらしい。こっそり近付いて不意打ちで倒すことは困難だ。

 魔物から離れて単独で動くことがあれば待ち伏せをすることもできるのだが。

 これが戦闘訓練を終えた、仕上がった勇者がいるならば話は簡単、なのだそうだ。勇者を先頭に魔族に向かって突っ込んで行くだけでいい。勇者ならば魔物を蹴散らして魔族を倒すことができる。

 だが俺の場合は他の兵士に魔物から守ってもらう必要があった。だから特に魔族の影響を強く受ける三ガルス以内に魔物がいるだけで成功率が一気に下がってしまう。

 「我々も一番近いサイジの砦から怠惰(スロウス)のベルフェゴールの様子を監視しているが、何をするでもなくただいるだけだ。今のところ、自ら動く様子はない。」

 トモーロスが動けばベルフェゴールも動くだろうが、こちらの都合の良い場所に誘導できるかというとかなり不確実だった。

 トモーロスの戦士かサリオス帝国の軍に守ってもらいながらベルフェゴールに近付く手もあるが、間違いなく警戒されるだろうし、接近した後は状況に応じて臨機応変に動く必要があるから成功率はかなり怪しいことになってしまう。

 どちらにしてもそれなりの被害を覚悟しなければならないし、失敗した場合のリスクも大きい。

 もう少し成功率を上げる工夫をしないと、危なくて実行できない。不確定要素の一つで窮地に陥ることは強欲(グリード)のマモンとの戦いで身に染みていた。

 かといって、「勇者が出て来るまでにはまだ余裕がある」と思っている魔族の隙を突く好機をみすみす見逃すのも非常に惜しいものがあった。

 議論は白熱したが、なかなか良い案は出てこない。

 しだいに煮詰まってきたころ、新たな知らせにより事態は急変した。


 「大変です! ラムザス連邦の港湾都市デルトが魔族に襲われました!!」


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