会いたい、会えない
おれは兄貴が運ばれたという病院にすぐに駆けつけた。
「汀相楽さんに会わせてください」
そう懇願することに迷いも躊躇いもなかった。何故弟であるおれが兄に会ってはならないのか……それに一種の理不尽を感じていた。
だが、赤の他人とは無情だ。
「汀相楽さんは精神が不安定な状態ですので、面会は不能です」
精神が不安定……きっと、やつ、白崎幸葵がそうさせたんだ、とおれは決めつけていた。だが、そんな事情なんか知らない事務員は、ただただ自分の仕事をするだけだ。
「関係者と付添人以外の方は面会をお断りしています」
「おれは汀哀音……! 相楽の弟です」
思わずそう主張する。だが、事務員は取り合わない。
残酷な一言をおれに突き付ける。
「汀相楽さんにご兄弟がいるという証言は取れていません。お引き取りください」
「んなっ……」
証言が取れていない? ただそれだけの理由で?
こっちはただ兄貴が心配なだけなのに!
更に言い募ろうとすると、受付嬢が目付きを鋭くして、「警備員を呼びますよ」と威嚇してくる。
何故、もう少しの距離なのに、おれは兄貴に届かないんだ……!
おれは怒りと哀しみの綯い混ぜになった感情を手近な壁にぶつけようとして──腕を掴まれる。
その先には、春さんがいた。
「そんなの、あんたが傷つくだけだよ。止しな」
おれはその場に崩れ落ちた。
それから病院の中庭に場所を変え、おれと春さんは缶珈琲片手に沈黙していた。幸い、春さんがおれを止めてくれたから、院内から摘まみ出されることはなかった。
珈琲を一口啜ると、春さんが言う。
「今は、相楽が回復するのを信じて待とう。白崎と一緒なのは気がかりだが……白崎も前から随分変わったみたいだしな」
「なんで」
おれは静かに怒りを湛えてこぼした。
「なんでそう言い切れるんですか。白崎が変わった? 単に兄貴に近寄るための猫被りだとしたらどうするんです? また17年前の繰り返しになったとしたら?」
不安は連ねれば山のようにある。おれの口も止まらない。
「17年前、兄貴があの一件からどれだけ苦しんだか、あんたは知らないでしょう? 意識のある兄貴には一度も会っていないんだから! 何故おれが卒業証書を取りに行ったかも、わからないでしょう? あんたは何も、知らないだろうが!」
八つ当たりだということはわかっていた。春さんがびくりと肩を震わせて固まる。……違う、おれはそんな表情をさせたいんじゃない。
けれど、激情は止めどなく迸る。
「兄貴は、兄貴はなぁ……卒業式が来る前に、その精神を狂わせた果て……記憶を失ったんだよ。家族も友人も、おれのことさえ、全部な」




