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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第二章 管理人業務はじめました。
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従属の首輪、奴隷の首輪

 騎士団の団長であるワイマールさんが、肉を二枚重ねしたハンバーガーを食べ始めた直後、遠巻きに見ていた人たちが、露店へお客として次々と集まってきた。


 男性のお客さんの中には、ワイマールさんにオマケしたのと同じ、“ダブルの肉”を注文してくる人もいた。

 朝っぱらから重い食事をして大丈夫なんだろうか、と心配になったが、日本でも朝から特盛りの牛丼を食べてる人もいるし、案外、平気なのかもね。

 男の人は凄いなあ。


 この街では、いや、この世界では神様が『人間は一日二食で十分である』として、朝を抜いた一日二食だけの生活を推奨をしている。

 と言っても厳しく禁じらている類のタブーではない。

 事実、貴族や豪商の中には、しっかり三食食べている人も居るらしい。朝食を食べることは、グレーゾーンだといえる。

 だからこそ庶民は、騎士団の偉い人であるワイマールさんが食べるのを見て『偉い人が食べてるのだから大丈夫』と安心して、注文しだすのだろう。

 そういえば昨日の串焼きも、ワイマールさんが食べてくれた後、それに続くようにして他の人から注文が入った。

 もしかしたら、朝食をとる習慣をこの街に根付かせるためには、このワイマールさんを攻略する事が鍵となるのかもしれない。


 先ほど、ワイマールさんはハフハフ言いながらハンバーガーを完食した後、お腹をさすりながら苦しそうに仕事に出かけていった。

 オヤジさんのパンシチューも食べてたし、二枚重ねは可愛そうだったかも。

 でも帰り際に、明日もまた来てくれると言ってくれたので、ちょっと安心。

 明日は露店で何を売ろうかな。





「こんにちワ!私も偵察に来たヨ~。おひとつ、くっださいナ」


 酒場宿のオヤジさんが開いている露店で売り子をしていたカティが私たちの露店へ訪れる。偵察なんて言ってるけれど、単にハンバーガーの味見をしたいだけだろう。先ほどオヤジさんが味見をしていた時に、羨ましそうな顔をしていたもんね。


「いらっしゃい、カティ。一つ、銅貨三枚よ。もうすぐお肉が焼けるから、もう少し待っててね」

「はいヨ~。このニオイを嗅いだだけで、お腹すいてきちゃったヨ」


 彼女は涎を垂らさんばかりに、肉を焼く鉄板を眺めてくる。

 眺めていても、焼き上がるのは早くなりませんよ?


「いらっしゃいませ」

「ハイ、いらっしゃいまシタ!金髪ちゃんはユマリアのお友達かナ?」


 テオとカティが挨拶を交わす。でも、何処かぎこちない。なんでだ?


「あっ!そういえば貴女たち、顔を合わすのは今日が初めてよね?」


 私はテオとカティに、お互いのことを紹介する。

 といっても流石に私とテオが迷宮の住人であることは、冒険者である彼女には話さず。『今は露店の料理人』という言葉で有耶無耶にした。


 前回の飲み会の時に、マックスさんが私の素性を知るために、色々と探ろうとしていたことを思い出す。

 当然、マックスさんの仲間であるカティも、私の正体は疑っているだろう。


 まあ、彼らと酒を酌み交わした時の感触では、正体がバレたとしても何とかなるんじゃないかという予感はしている。

 しかし、こちらは迷宮の住人で、向こうは迷宮に挑む冒険者だ。

 相手の意向が明確にならない以上は、迂闊に正体を明かすわけにもいかない。


「はい、おまたせ。ハンバーガーできたわよ。熱いうちに食べてね」

「ありがとネ。うん、ユマリアは料理が上手なんだネ」


 カティは女子とは思えない速さでハンバーガーを平らげると、おかわりを要求してきた。しかも、彼女が食べている間に来たお客さんが“ダブルの肉”のオーダーをしているのを聞いて『自分も“ダブル”でお願いネ』と言ってきた。


「いいけど、太るよ?」


 私がカティに念を押そうとすると、テオが横から耳打ちしてきた。


「いや、恐らく彼女は大丈夫だろう」

「えっ、どういうこと?」

「うん、平気だヨ~。これくらいなら、ペロリと食べるネ」


 『やはりそうか』と言いたげな顔で、テオはカティを見て頷く。

 私は何が何だか解らないまま、カティにダブルミートのハンバーガーを手渡す。


「魔獣の肉なんて久し振りだネ。こっちの大陸で、この肉を食べるのは、獣人の国だけだけ思ってたヨ」

「……“こっちの大陸”か。やはりカティ、お主は魔大陸の人間、魔族だな?」

「そうだヨ~。テオは鋭いネ」

「嘘!?カティって魔族だったの?!犬系の獣人族だと思ってた」

「魔族を魔族たらしめているのは、その高い魔力や身体能力だ。魔族の外見は、千差万別。人族そっくりな者もいれば、獣人に似た者も居る。知らなかったのか?」


 今は知っているけれど、それはカティと出会った後に習った知識だ。

 出会った時に垂れた耳を見て以来、獣人族だとずっと思い込んでいた。


 この世界における魔族とは、アルクさんたち<古代人>と獣人族や人族などの間に出来た混血種の総称である。

 そして、この世界では『魔族』と『獣人族』と『人族』を柱にした『人型の種族』のことを『人間』と呼んでいる……はず、だ。アルクさんの3000年前の知識が、今でも通じるならばの話だけど。


 魔族も人間のカテゴリーであることは知っているけれど、今でも同じ扱いなのかは判らない。魔族という名前の響きからして、ここでそういう話をするのはマズイのでは?

 て言うか、テオ。彼女の何処を見て、魔族だと気づいたの?


「今から1500年も前には既に、この大陸で魔族は恐れられていた。魔族の身体能力や魔力は、この大陸の人間より高い者が多いからな。魔力感知で判るさ」

「そんな機能は、私には無いよ……」


 まあ<解析>の機能を使えば判るんだけど、起動させると目に映る全てのモノの詳細な情報が頭に浮かんでくるから、うざったいので常時起動はさせていない。


「さらに彼女の首を見てみろ」


 カティの首のところを見ると、黒いチョーカーが付いている。

 いや、違う。これはチョーカーじゃない、首輪だ。


「これは<魔導の神>さまが、人間たちに唆されて作ってしまった魔道具の一つ、『従属の首輪』だ。一般の奴隷はこんなものは着けない。必要ないからな。こんな物騒なものを着けさせられるのは、魔族くらいなものだろう」

「イヤイヤ、これは『奴隷の首輪』というんだヨ。結構あちこちで使われてるネ。<魔導の神>が唆されて作ったって話は知らないけどネ。私は<魔導の神>が人間を服従させるタメに作った魔道具だッて聞いているヨ?」

「何だと?今ではそんな話になっているのか……」


 テオは吐き捨てるように呟いたけれど、その気持はよくわかる。



 <魔導の神>と呼ばれる私の雇い主であるアルクさんは、迷宮に引きこもる以前は人間と仲が良かったらしい。

 人間たちがより良い生活を送れるように、アルクさんも魔法を教えてた。

 しかし、当時の人間は理解力が低く、魔法の基礎的な知識すら満足に理解できず、単純な呪文を覚えることしか出来なかったそうだ。


 その代わりに人間たちは、アルクさんを煽てたり泣きついたりして、自分たちでも扱える、様々な魔道具をアルクさんに作らせたのだ。その一つがカティの首に付いている『従属の首輪』だ。今では『奴隷の首輪』と呼ばれているようだけど。

 この首輪をつけたものは、主人の命令には逆らうことができない。魔法的な力で、強制力が働くのだ。

 死ねと命じられれば死ぬし、かと言って主人を殺そうとすることも出来ない。

 『魔獣を従える為に作って欲しいと言われ、一つ作った後に魔道具のレシピを教えてしまった』とはアルクさんの談だが、それを人間相手に使うのか。


 アルクさんが迷宮に引き篭もった理由の一つに『人間たちが神と同じことを始めたので見限った』というのがある。

 3000年ほど昔、迷宮に篭もる前は、アルクさんは人間たちに魔法を教えていた。

 教えていれば当然、魔法の上達が早い者と、そうでない者が出てくる。

 とはいえ、やっとのことで初歩の魔法が使えるようになった者など、アルクさんにしてみれば、魔法が使えない者と比べても、五十歩百歩の差でしかない。

 だが当の本人たちにとっては、それは大きな違いだ、とでも感じたのだろう。

 ある時、魔法の使える人間が、アルクさんの目の前で、使えない人間を奴隷として扱い始めたのだ。

 それは5000年前に見た、古代人や天使、悪魔、精霊たちを奴隷として扱う、あるいは虫のように見下す、そんな神々の言動にそっくりだったそうだ。

 それを見たアルクさんは、その日を限りに、人間に魔法を教えるのは止めてしまい、迷宮に引き篭もったのだ。



「あー、でもこの首輪は自分からマックスに着けてくれってお願いしたんだよネ。コレをつけていれば、身分の証明になるし、捕まって殺されたりしないでショ?」

「殺されずとも、奴隷の身分に堕ちた上に、主人の命で働くことになるがな」

「あはは、バシャウマのように働いてるヨ。だからお腹が空くんだよネー」

「いや、元々、魔族は大食らい揃いだろう……」


 魔族が大食らいなのも初耳だが、この大陸では、普通の魔族は捕まってしまうのか。それすら初耳だ。

 アルクさんの講義を受けて、この世界の常識を知れば、外の世界に出ても大丈夫だと思っていたけれど、考えてみれば3000年前の常識なので、むしろ余計な先入観が出来てしまったな。まあアルクさんが悪いわけじゃないし、仕方ないか。


「しかし、お二人サン。余りにもこの世界の常識を知らなすぎるネ?」


 3000年前の常識だけなら、そのへんの長老より詳しいんですけどね。

 カティが私たちの常識知らずさに、突っ込みを入れてくることは予想できた。確かに事実だしね。だから私は平静を装って答える。


「ええ、そうね。私たちは人里離れた山奥で暮らしていたからね」


 嘘じゃない。<奈落の迷宮>の入口は山の上だ。その迷宮の奥に住んでいるのだから、暮らしているのは山奥で間違っていない。


「ユマリア、何を言っているのだ?我らが住んでいるのは

「テオ!愛してる!」

「もがっ!」


 私はテオに唐突に抱きつき、テオの頭を自分の胸に(無いけど)押し付ける。

 危ない、危ない。貴女、いま素でバラしそうになったわね?


(ちょっとテオ!何ばらしそうになってるの!?)

(ん?どういうことだ?お主の友達なのだろう?知っているのではないのか)

(私たちの正体は内緒なの!彼女は冒険者なんだよ?)

(そ、そうか。すまなかった)


「ちょっと、お二人サン?抱き合ったまま、ナニしてるのカナ?そういう関係なのカナ?」

「何もしていない!誤解だ!」

「ナニはしていないから誤解ね」


 どうやら私とテオのヒソヒソ話は、カティには聞こえなかったらしい。セーフだ。

 彼女は耳もいいだろうから、抱きついて話し合うくらいしか思いつかなかった。


「ん?……ユマリア、ナニとは何だ?」

「ナニとは、アレのことです」

「どれだ?全く判らない……」


 安心して頂戴。ノリで言っただけで、私にも意味はわからない。


「まー、内緒なのは分かったけどネ。私からは詮索はしないヨ。安心してネ」


 なんだよ!しっかりバレてるじゃん!


「全部、聞こえてたんかい……」

「いつかジジョーを教える気になったら、私にも教えてネ」


 そう言って、カティは私たちに笑いかけてくる。安心していいのかな?

 所で“ジジョー”って“事情”のことだよね?寿司をシースーと呼ぶ的な、ズージャ読みの話じゃないですよね?


「あ、カティ!先に食べるのズルいんじゃな~い?」

「ユマリアさん、僕にもください。隣の金髪さんは結婚してください」


 重い寸胴をここまで運び、今まで休憩をしていたザックとマルタくんが、酒場宿のオヤジさんの露店の方から、こちらへと向かってくる。

 よし、テオ。そろそろ貴女にお肉焼いて貰おうかな。

 パンが余っているのに、お肉がそろそろ品切れだから、私は市場で何か仕入れて新メニューを考えよう。




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