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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
15/28

どう思う?

ユマリア視点ではなく、他の人のお話です。

 ───ある宿屋の部屋の一つに、冒険者たちが集まっていた。

 彼らは<カムイソルナの迷宮>を探索する冒険者の中でも、腕利きとして知られるパーティ<アルバトロス>のメンバーだ。

 先ほどまで、彼らの一部は酔いつぶれていたが、カティと呼ばれる少女が帰ってくる頃には酔いも少し治まり目を醒ましていた。


「カティ、彼女(・・)はどうだった?」

「あの大荷物を背負って、迷宮に入っていったヨ。ザックよりも足が早かったネ」


 軽口で答えたが、カティは内心で動揺していた。パーティで一二を争う自慢の俊足を持つ自分が、気配すら隠せない娘を尾行するときに、本気で付いていかないと見失いかねない状況へ追いやられたのだ。


「ちょっと~。ユマリアちゃんが俺より早いなんて、有り得ないっしょ?」

「しかも食材ばかりを詰め込んだ、あの重い鞄を背負ってですか?それもこんな夜に、たった一人で迷宮へ?」


 ザックとロイドウが『そんな馬鹿な』と声を合わせて笑う。何も知らなければ、マックスも一緒に笑っただろう。

 だが彼女は、宮廷魔術師ですら習得している者が少ないはずの<透明化>の魔法を、いとも簡単に扱い『単純な魔法だ』と笑いながら断言したのだ。

 自分たちにとって未知の、しかも高度な魔法を使いこなし、信じられない力を振るったとしても、別に不思議とは思わない。


「やはり俺たちが出会った時の彼女は“迷宮に入るのを止めて帰ろうとした”のではなく、“迷宮から外に出れなくて困ってた”と考えるのが妥当か」

「……そうですね。彼女の住居は、迷宮の中にあると見て間違いないでしょう」


 マックスの考えを、ロイドウが肯定する。


「ってことはー?ユマリアちゃんって、実は怪物(モンスター)なの?敵なわけ?」

「でもご飯を驕ってくれる人に悪い人はいないよ?」


 ザックの安易に出した結論に、マルタが苦情を入れる。


「……マルタ、お前は詐欺に騙されないよう注意しろ。これは命令だ」


 そう言って笑いながら冒険者パーティ<アルバトロス>のリーダーであるマックスは、酒場での彼女との会話を思い出していた。



 マルタに注意しろとは言ったものの、マックスも彼女が悪人だとは思っていない。もし彼女が怪物だったなら、俺たちを頼ること無く衛兵を殺し、そのまま街へと進んだことだろう。

 もしかしたら敵なのかもしれないが、少なくとも血に飢えた殺戮者ではない。

 むしろ見た感じ、悪人どころか、お人好しの部類に思う。


 『では結局、ユマリアは何なんだ?誰かに雇われている魔法使いなのか?』

 『そうですね。魔法使いです、誰かに雇われてもいます』

 『雇い人は誰だ?どこかの国か、貴族か?』

 『国にも貴族にも雇われていませんけど、雇い人は言えません』

 『そうか……では、ユマリアが迷宮の入口に居た理由は?』

 『それも言えないんです。助けてくれたのに、ごめんなさいね』


 あの時の彼女は、自分の話せる範囲の中で、出来うる限りの誠実さで答えようとしてくれていたように思う。

 だが言えないという事実を晒すだけで、知らないという事実を晒すだけで、彼女の正体が朧げながらも見えてきた。

 あの出会いと対話は、実に有意義なものだったと、改めてマックスは振り返る。


「最初は単なる賊かと思ったが、とんでもない。アレは相当な大物かもしれん」


 帝国の宮廷魔導師すら習得不可能の<透明化>の魔法を、容易く使いこなす。

 しかも<透明化>の術式構造は、単純なものだと言い放った。

 その癖、希少な高純度の魔晶石を売りに来たのに、貨幣のレートすら知らない。


 何処の世間知らずなお姫様かと思いきや、貴族社会とは無縁のようだ。

 そして名を明かせぬ主人を持ち、闇夜に紛れ、たった一人で迷宮へ潜っていった。


 ここまで情報が揃えば、ある一つの推論に行き当たる。


 『ユマリアという少女は、あの迷宮の主の使用人ではないだろうか?』


 だが、マックスはその答えを即座に否定する。

 あの迷宮の主は、数千年も前に隠棲した、伝説の“魔導の神”なのだ。

 神話の世界の住人は、今はもう伝説の彼方に消え、存在などしてはいまい。


 そして人間の歴史の中において、あの迷宮の主や使者が、迷宮を抜け、街に出てきたという話は、ついぞ聞いたこともない。

 満を持して現れたのが、あの彼女だとすれば、何と地味な登場なのだろう。

 そんな彼女に酒や食事を奢って貰った一幕を思い出し、マックスは(かぶり)を振る。



「じゃあ結局、ユマリアちゃんの正体は何なのよ?」

「はっきりとは解らない。だが一つ、関連してそうな事件に心当たりがある。お前らも半年前の『通り馬事件』は憶えているだろう?」

「迷宮内にいた幾つものパーティが、同じ日に襲われた事件ですね?」

「ウチらも襲われて、酷い目にあったよネ……」


 あれは迷宮の奥の奥、未踏破領域を進んでいた時のことだ。

 襲いかかってきたのは、馬のような体に人間の体が二つ付いているような、謎の合成獣(キメラ)だった。

 辛くも追い返せたものの、戦いの最中(さなか)に水と食料と照明道具を全て奪われ、散々な目にあった。帰りの道中でザックとマルタが本気の喧嘩をして、諌めるのに苦労した。

 それでも何とか生還できたのは奇跡といえる。

 そのことを思い出して、カティがゲンナリした顔をする。



「俺達を襲った謎の生物の正体は、確定ではないが、ほぼ特定できた。獣人が統治する西の連邦国家の、有力氏族となる獣人の息子たちだ」

「西の連邦国……ザルツハッツェですか。あそこは幾つもの獣人の氏族が、寄り集まって出来ている国ですね」


 ロイドウが他のメンバーに説明をする。ザルツハッツェは武の国だ。国の領土には大森林が広がり、一般市民ですらそこに棲む魔物と闘いながら暮らしている。

 あの国は国民全員が戦士である。有力氏族長の直系ならば、高い戦闘力は折り紙つきだ。


「その有力氏族の中にケンタウロス族と馬頭族がいる。その族長の息子たちが、ある宗教の熱心な信者でな。その息子たちは半年前に、突然姿をくらましたそうだ」


「その宗教って……もしかしテ?」

「そう。<魔導の神(カムイソルナ)>を崇めている“ソルナ教”だ」


 推測するに、ケンタウロス族と馬頭族の息子たちは、この迷宮を訪れた。

 それが通り馬事件の怪物の正体だろう。


 何のために、彼らが迷宮へ潜ったのかは分からない。

 しかしマックスたち<アルバトロス>や、他の冒険者パーティが地下70階を突破したことは、街の外にも伝わっている。当然、他国へも伝わっているだろう。

 その報告を耳にした獣人の信者が、聖域を汚す冒険者へ天誅を与えるために、迷宮へ潜りこんだのであれば辻褄は合う。


 通り馬はあの事件の日に迷宮の奥へと消え、それ以降は誰も見てはいない。

 姿を見ないのは、迷宮の魔物に食われたからだろうと他の冒険者は考えている。

 もう半年も見ていないのだから、誰もがそう考えるのは当然だ。

 マックスも、今まではそう考えていた。


 しかしその半年後に、迷宮の中からユマリアという少女がひょっこり現れた。

 彼女は高度な魔法の知識を有し、夜闇に紛れ迷宮へと一人で潜る。

 ただの人間とは思えない。何かしらの、特殊な事情を抱えているはずだ。


 迷宮における通り馬とユマリアの出現。この二つは全くの無関係なのだろうか?

 何か関連性があるのではないのだろうか?


「もし、通り馬と彼女が関連しているとするなら、ありえそうな話としては“邪神復活”ですかね。魔大陸でも同様に“魔王復活”の噂がありますし」


 マックスが持つ疑惑を事実と仮定して、ロイドウが可能性のあるものを挙げた。 確かに<魔導の神>は、悪魔からも信仰されている神であり、それ故に邪神であるとする説がある。平民は頑なに信じないが、大陸中の王族貴族は、この説を確実視して政治に反映させている。


 その邪神を復活させるため暗躍する者たちが、彼女であり、通り馬であるとする。その場合、彼女の雇い主は通り馬か、或いは迷宮に隠れ住む邪神の神官かもしれない。

 なるほど、有り得そうな話だ。彼女自身は事情を知らず、特に邪神復活の手伝いなどしている自覚もなく、結果的にのほほんと協力している可能性だってある。


「そうだな。魔法への造詣が深い彼女の正体が、そこらの賊の子分であるよりも、よっぽど可能性が高い話だな。カティ、お前はどう思う?」

「んー。難しいコトは、分からないネー」

「そうか……」


「ただネ。あのコからは犬でも猫でもない、他の獣の臭いがしていたヨ」

「それは本当か!?もしかすると馬の獣人の臭いじゃないのか?」

「そこまでは分からないネ」


「もしかしたら“ユマリア”というのは通り名(コードネーム)かもしれません。“マリア”が“聖女”の代名詞であるように、“ユマリア”という名前は“傾国の魔女”の代名詞と言われています」

「傾国の魔女と……邪神の復活……!」


 ロイドウからの思わぬ話に、周りの仲間たちが色めき立つ。

 それは“あの天然ぽいユマリアが、邪神復活に携わっている”という、冷静に見れば飛躍してると思える推論に、それなりの真実味を持たせる情報だった。

 しかも彼女とともに酒場で盃を交わした仲だ、彼らの心中は複雑だ。


「さっきも言ったが、彼女の正体はまだハッキリとは分からない。しかしこの迷宮の奥で何かが起こっているのは、まず間違いないだろう。これが他の件と、連動してなければいいのだが」


 マックスはユマリアの正体や目的を推察するのはここで切り上げて、他の話題を俎上に載せようとする。彼女に関する推察をする為には、もっと情報が必要だ。



「そうですね。この迷宮以外の場所でも、いくつか気になることがあります」


「この大陸中で行われている“勇者召喚”のコトかナ?」


 千年に一度の確率でしか成功しないと言われている、異世界からの勇者召喚。

 その成功報告が、各国に散っている密偵たちから、次々と届いていた。

 明らかに異常といえる事態だ、各国はその事実を隠そうと躍起になっている。


「魔大陸では“魔王復活”の話もあるよね」


 こちらの方はまだ噂の範疇だが、勇者召喚の異常な成功数を鑑みるに、ただの噂で終わることはないのかもしれない。これが事実となれば、いずれ大陸中を巻き込んだ戦いが発生することは、想像に難くない。


「カティもマルタも正解です。この世界が大きく動き始めている、そんな気がしてなりません」


 ロイドウが不安げな面持ちで呟くと、それに引きずられるようにして仲間たちも顔を顰める。

 “魔王の復活”と、いくつもの“勇者召喚の成功”。それはどちらも、ここ半月ほどの間に出てきた話だ。

 その一方で“迷宮に住む少女の発見”は、今日のこと。順序としては後に来る。

 しかし、あの“通り馬事件”は、もう半年も前に起こった出来事なのだ。


「魔王の復活、大勢の勇者の降臨。そして邪神の復活……」

「一連の事件の発端が、この迷宮にあるとしたら……」


 マックスは宿屋の中から、<カムイソルナの迷宮>を眺めてみる。

 自分たちの見えない場所で、何かが静かに動き始めていた。それが今、やっと目に見えるようになってきた。そう仮定して、動いたほうが良さそうだ。



「では帝国の皇子(・・・・・)とシテは、どのように動くのかナ?マクシミリアンさま?」


 犬耳の従者が、主人を試すように『ニヤリ』と嗤う。


「先ずはこの迷宮の踏破だ、最深部まで食らいつこう。俺は100階あたりが最深部だと睨んでいる。先ずはそこまで辿り着き、魔導の神が残したとされる秘宝を手に入れるのが、当面の目標だ。邪神復活の真偽も、その過程で確かめられるだろう」


「今日は73階まで進んだしぃ~。あと半年も掛からずに行けそうじゃん?」

「そうだな。だが気を抜くなよ?全員、五体満足で最後まで辿り着け。これは冒険者としてではなく、皇子としての命令だ」


 ザックが呑気に予想を立てて、サムズアップをする。その姿に頼もしさを覚えながらもマックス───隣国の帝国の皇子であるマクシミリアンは、しっかり釘を差しておく。


「了解了解。最後まで行けば、ユマリアちゃんと会えるかなー?」

「やー。割とすぐに会えると思うヨ?冒険者登録していたモン」

「それなら正式なタグを受け取りるために、後日ギルドに行くはずです。カティはその日取りを調べておいてください」

「会ったらご飯のお礼言わないとね」



 部下たちの会話を横で聞き流しつつ、マクシミリアンは考える。

 

 酒と食事のお礼に、次は俺たちが奢ることを申し出てみよう。その時には、また彼女の話を聞かせてもらうのだ。

 もし、こちらの秘密を打ち明けたら、彼女の事情も聞かせてくれるだろうか?


(多分……あの少女は、この世界の命運を大きく動かす鍵となる)


 今までしてきた推論を抜きに、直感で、そう確信する。

 彼女に会えた今日という日に、マクシミリアンは感謝した。




正鵠を射たり、ニアピンだったり、大外れだったり。

色々と忙しいマックスさんたちでした。

あと1話、別の人の間話を入れて、プロローグという名の第一部は終了の予定です。

といっても、第二部もいつも通り、日を置かずに更新する予定です。

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