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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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君の幸せを祈ってる

「親父さん。この店で一番美味しいお肉を焼いて。パンも付けてね」

「アタシ、ビールお替わりほしいネー」

「では私にもビールください」

「じゃあ俺もビール」

「あいよー」


 同じテーブルに座る冒険者四人が、テンポよく酒場の主人にオーダーを続ける。

 ただ一人、真面目顔のマックスさんが私のことをお姫様だと断定し、私の返答を待っていた。


「どうして私のことをお姫様だと思ったのですか?」


 せっかく飲み放題食べ放題コースを奢ったのに、マックスさんが注文もせずに私の聞き取り調査を続けている。

 いや、それより飲みましょうよ?乾杯しましょう乾杯。

 一気飲みは危険ですから、特に強要しませんよ?

 俗世の些事から離れ、酔いましょう。今すぐ酔い潰れてしまいましょう。


「まず、その言葉遣いだな。そんな言葉を使うのは、王族か貴族。他は上級商人くらいのものだ」


「ロイドウさんだって同じような丁寧な言葉遣いではないですか?」

「ロイドウは下級ながらも貴族の出身だ」

「あはは。実はそうなんですよ。東の帝国出身です」


 ロイドウさんが照れたように笑う。そうか、丁寧語は上流階級しか使わないのか。もっとフランクに話しかけたほうが良いのか。


「この言葉遣いは、仕事上の癖でして。相手に失礼の無いよう使っています」


 普段はもっと砕けています。お望みなら、もっと下衆な喋り方も出来ますよ?

 だから早くお酒を飲んで、酔い潰れてくれないかなあ。ほんとマジお願いします。


「君は今は仕事中なのか?俺たちは仕事を依頼していないし、依頼されてもいないが」

「仕事中…といえば仕事中ですけどね。しかし、それとは別に助けていただいたので」


 アルクさんの食事を作るための買い物に来たから、仕事中ではある。

 でも助けてくれた人には、普通は丁寧な言葉で会話するでしょ?

 感謝を気持ちを示しているわけですよ。


「それなら普段通りの言葉を使ってくれ、堅苦しくて敵わん」


 助けてくれた本人がそう言ってくれるなら、仕方ない。

 素の口調でお話ししますよ。


「……分かったわ、マックスさん。では私のことも“君”ではなく、ユマリアと呼んで下さい。皆にも改めてお礼を言います。先程は有難うございました」


「いえいえ。パンのおかわりください」

「無事でよかったネ。ビールお替わりネー」

「お気になさらないで下さい、あ、私はワインを頂けますか?」

「じゃあ俺、シチュー」

「あいよー」


「お前らは本当に自由だな……」


 マックスさんが自分の仲間を見て項垂れる。

 いやいや、みんなと一緒に飲みましょうよ。

 そして色んなことを忘れましょう。


「マックスさんも、みんなに負けずに飲みましょう!今日は私の奢りですし!パーッと行きましょうパーッと!」

「言っておくが俺は酒には強いぞ?酔って忘れるなんてことはないからな?」


「あ……そうですか……」


 私もビールを注文し、一気に盃を煽った。

 ビールがちょっと温い、もっとキンキンに冷やして欲しい。



「では質問を続けよう。言葉遣いの次は魔法だ。姿を消す魔法なんて、そこらの人間には修得するのは不可能だ。本人の高い教養と魔力、そしてそれに見合う知識を持つ魔術の教師が必要なはずだ」


 そんなことを言われましても……アルクさんに教わっている中では<透明化>は分類するなら『中級の中では簡単な部類』の魔法ですよ?

 本当の意味で姿を消す<不可知>の魔法なら上級魔法ですし、その言い分も解りますけれどね。


「あの魔法は、自分の体の上に『自分という障害物』がない場合に見えるはずの映像を映し出すだけの、単純な魔法なのよ。だから陽の光の下では影ができちゃうし、臭いも気配も消せません」


 私は<透明化>の魔法理論を簡単に説明して、マックスさんを納得させる。


「……何を言っているのか全く判らん。俺は魔法が使えないしな」


 納得しないのかよ!判らんと言ってる割には『修得するのは不可能だ』とか、魔法のこと詳しいですよね?



「では結局、ユマリアは何なんだ?誰かに雇われている魔法使いなのか?」

「そうですね。魔法使いです、誰かに雇われてもいます」


「雇い人は誰だ?どこかの国か、貴族か?」

「国にも貴族にも雇われていませんけど、雇い人は言えません」


 申し訳ないけれど、言えないものは言えない。言ったら、国税庁からの査察が入るかもしれん。


「そうか……では、ユマリアが迷宮の入口に居た理由は?」

「それも言えないんです。助けてくれたのに、ごめんなさいね」


 言えないことばかりで、非常に申し訳ないです。

 助けてもらうときにマックスさんから『後で事情は説明してもらうぞ』と言われていたのに、教えた情報は実質ゼロですわ。

 迷宮(うち)に来たときピンチになったら、助けに行くから許してください。





「難しい話はドウでもイイからサ。マックスもユマリアもお酒飲もうヨ」


 カティが私のおっぱいを揉みつつ、マックスさんとの会話に入ってくる。

 そうだよ。たくさん飲みましょう!

 ちょっとカティ、揉むのはいいけれど、私の匂いを嗅がないで!

 この世界に来てから、お風呂入ってないのよ。



「あ、シチューおかわりください、肉多めで。パンもおかわり」


 ああ、マルタくんは好きなだけ食べてていいです。食べ放題ですしね。





 飲み会はザックとロイドウさんが酔いつぶれたのを機に解散となった。

 思ったより時間がかかった。もう日は落ちて、辺りは暗くなっている。

 最後に私はマックスさんとカティにお礼を言って、帰ろうとしたら『もし迷宮に出入りするつもりなら、冒険者登録しておくといい』と言われたので、迷宮への帰りすがりに冒険者ギルドへ立ち寄ることにする。


 登録するときに必要なものは、名前と性別を書いた書面だけで良かったので助かった。

 種族名の欄とかあっても、ホムンクルスなんて正直に書けないもんね。


 冒険者として登録するとギルドタグが貰えるらしい。

 ギルドタグとは、元の世界で軍人さんがつけてる認識票(ドッグタグ)と同じ意味合いのものだ。

 私の名前を彫り込んだ正式なタグは、三日後に出来上がるから取りに来るよう言われた。

 通し番号のついた仮のギルドタグを貰って、ギルドから退出する。

 雑貨屋に頼んである発酵調味料を取りに来なきゃいけないので、そのついでにここにも寄ればいいかな。



 これで今日のミッションは果たした。

 急いで帰ろう。お腹を空かしたアルクさんが待っている。






「ただい……

「おかえりユマリア!帰って早々悪いが、さっそく料理を作ってくれ!」


「ま。はーい」


 アルクさんに食い気味にご飯を所望された。良い傾向だと思う。

 今日はチーズとトマトのキッシュでした。

 後でテオドーラとヘルメスさんのところにも持って行こう。




 作ったキッシュはアルクさんたちには好評だったけど、味は『まあまあ』だった。

 あの街には小麦粉は全粒粉しか無かったし、改良の余地アリだな。

 薄力粉や強力粉も欲しい、ケーキも作りたい。というより食べたい。

 確か全粒粉だけでもマフィンなら作れたんだっけ?でもレシピが判らないしな……。

 私はデザートは食べる専門で、甘味の類は涼子ちゃんの得意分野だった。




 涼子ちゃんは、元気かな?

 私はこの異世界で、頑張ってみるよ。

 涼子ちゃんも、頑張ってね。

 世界を超えた、この場所から、君の幸せを祈ってる。





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