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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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銅貨1000枚!

「飲っみホーダイ、食っべホーダイッ」

「カティ、変な歌をうたうなよ。周りから変な目で見られてる」

「いやあ、でも、思わず歌いたくなるっしょ!?」

「すみません、ユマリアさん。どうか気にしないでくださいね」


 マックスさんたちの案内で、買い取りを扱う宝石店へと向かっている。

 その道中を私は冒険者である彼らに、取り囲まれるようにして歩いていた。

 迷宮の出入口での件と、宝石の換金場所へ案内してもらうお礼に、『酒場での飲食代は全て持ちますよ』と私が言ったからだ。

 私の申し出に彼らの目は輝いた。

 熟練した狩人が、照準を獲物に合わせて笑みを浮かべる時の顔は、きっとこんな顔に違いない。


 それから宝石店へと歩き始めたのだけど、そのとき彼らに『絶対に逃さないからネ!』と言われて囲まれてしまった。逃げられない!どうする?


 この段階になって気付いたのだけれど、いま私はちょっと不味い状況になっていないだろうか?

 助けてもらう時にマックスさんは『後で事情を説明してもらうぞ』と言っていた。

 でもよく考えたら、私の事情を説明なんて出来っこない。


 まさか『私は貴方たちが攻略中の迷宮の管理人です。今日は街まで調味料を買いに来ましたのよ、おほほ』などと正直に言えるわけがない。


 彼らは冒険者だ。並のことならいざ知らず、そんな情報を手にしてしまえば、流石に温和に話を収めることは出来なくなるだろう。

 私を捉えて、盾にして、迷宮の先を効率よく進もうと考えるかもしれない。

 あるいはこの街の貴族に売るかもしれない。

 私はそれに対抗せざるを得ず、彼らとは血を流す諍いになってしまうだろう。


 酒場に着いたら、何て説明しようか。

 事実は話せない、かと言って納得してくれそうな嘘も付きたくはない。

 彼らはあの場で事情も聞かず、報酬も請わずに助けてくれたのだ。

 こちらも出来る事なら誠意をもって応じたい。


 悩んでいるうちに、宝石店まで着いてしまった。

 仕方ない、彼らには酒場でたっぷりと酒を奢り、早めに酔い潰れてもらおう。

 飲み代、足りるかな……。

 さて、宝石の買取金額はおいくらでしょうか?





「これは……!」


 私が無造作に小袋から宝石を取り出すと、鑑定士さんは感嘆の声をあげた。

 『マックスさんのお仲間のチャラ男くん』のザックくんが『うっわ!すっげー!ちょっと、みんな見てみろよ』と私の背中に凭れ掛かりながら叫ぶ。

 あの、ちょっと、重いです。


「しょ、少々お待ちください」


 鑑定士のおじさんが、慌てるようにして店長に声をかける。

 アルクさんに預かったこの宝石類、私も初めて見た時はその大きさに驚いた。

 コンビニのおにぎりを半分にしたくらいの大きさのルビー、サファイヤ、エメラルドがゴロゴロしていたからだ。

 しかもそれらはどれも綺麗にカットしてある。

 私の居た世界では“エメラルドカット”と呼ばれていた形だ。

 傍目から見ても、どれも良いお値段がしそうなものばかりだった。


「これは……もしかして<魔晶石>じゃないか?!」


 無口な人だと思っていたマックスさんが、驚きを隠せない顔で質問してくる。

 あれ?これって宝石じゃないの?やばい…買取不可だったら、どうしよう。


「ユマリアさんはご存じないようですが、<魔晶石>とは魔力が結晶となった宝石のことです。こんなに大きくて純度の高いものは、私は見たことがありません」


 『マックスさんのお仲間その2』であるロイドウさんが説明してくれる。

 <魔晶石>とは、魔法を使う時に魔力が足りない場合、補助的に使うものだそうだ。

 色が汚くて形の悪い、小指の先くらいのサイズの魔晶石でも、金貨数枚の価値がある貴重品らしい。それが見事にカットされていて、美術品としても遜色ない。

 『これなら買い手はいくらでも付くでしょうね』と補足してくれた。


「それなら、樽イッパイのお酒が飲めるネー」

「俺はご飯のほうが好きだなあ、来る途中に買い食いしなくて正解だったわ」


 カティと『マックスさんのお仲間その3』のマルタが、取らぬ狸の皮算用をしている。

 私はこの魔晶石が金貨数十枚で売れたとしても、その金額で何がどれだけ買えるか、全くわかってないので不安で仕方がない。


「カティ、ちょっとお聞きしたいのですけれど……お酒の相場を教えてもらえないかしら?」


 お酒一杯で金貨一枚くらいなら、何とか予算は足りるんじゃないかと思うけれど、それ以上なら『飲み放題、食べ放題』は諦めてもらおう。


「ウチらの飲む酒なんて、どんなにいい酒でも銅貨10枚しないヨー。安心してネ」


 そっか、安心していいのか。でも銅貨って何枚で金貨一枚なの?

 ああ、そうなの。金貨1枚が銀貨10枚、銀貨1枚が銅貨100枚ですか。

 つまり金貨一枚は…。


「銅貨1000枚!」

「わっ!」

「どうした?!なぜ立ち上がる?」

「いえ、何でもありません」


 ごめんなさい、取り乱してしまいました。私は優雅に座り直す。

 それなら飲み放題の食べ放題でオッケーだと思います。







「買い取り額は、全て纏めて金貨1500枚でいかがでしょうか?」


 店長さんから満面の笑みで査定額を提示された。

 金貨1500枚は銅貨1500000枚ですね、ひゃくごじゅうまんまい!

 オッケーですよ、超オッケーです。

 皆に驕った後に、欲しいものを全て買っても、お釣りを持って迷宮に戻れる。

 良かった良かった。


「待った」


 お金を用意するため、店の奥に入ろうとする店長さんを、マックスさんの渋い声が止めさせる。


「この魔晶石は、どれも質の高い逸品揃い。それが全部で20個あった。総額で金貨1500枚なら平均して1個あたり金貨75枚?いくらなんでも安すぎる」


「すっげー!やるじゃんマックス!」

「計算早いネー」

「私もマックスに同意見ですね。少し足元を見すぎているのでは?」

「早くご飯食べに行こうぜ!」

「お前らは少し黙っていろ」


 マックスさんは騒ぎ出した仲間を鎮めると、店長さんを一睨みして『やり直せ』と凄んだ。


「も……もう一度査定し直しますので、少々お待ちを!」


 『少々お待ち』をしている私たちに、店員さんがお茶を出してくれた。

 結局、マックスさんの交渉によって、買取総額は金貨3000枚になった。

 いま、私の目の前には大きな金貨袋が、三つ並んでいる。一袋あたり金貨1000枚だ。

 袋の一つは私が抱えて持っていくけれど、他の二つはマックスさんたちが持ってくれた。

 皆から『大丈夫。持って逃げたりしないから!』と言われたけど、出来ればそのまま逃げてくれれば有難いです。

 でないと、これから酒場に連れていかれて、聞き取り調査が待っているのだ。





 酒場に行く途中、雑貨屋に寄ってもらい、背負い鞄を買うことにした。

 歩いて旅をする行商人が持って居るような、大きめのやつだ。

 そこに鍋やフライパンなどの調理器具と食器類に調味料、それにハーブやスパイスも買って入れた。

 更にチーズも買えた。乳製品の加工品は迷宮内では絶対に入手不可なのでありがたい。帰ったらヘルメスさんにも分けてあげよう。

 <木精乙女(ドリュアス)>のシルヴィオちゃんに育ててもらうための野菜の種も欲しかったけれど、それは売ってなかった。農家に訊いてみてくれと言われた。

 この世界の街に住む人は家庭菜園をしないらしい。

 他に味噌の類の発酵調味料もないか、お店の人に尋ねたら、数日だけ待って貰えば仕入れておくと言われた。


 詰め込めるだけ詰め込んでパンパンに膨らみ、如何にも重そうになった鞄を、私が軽々と背負ったのを見てマックスさんに驚かれた。

 <身体強化>を起動してるので、こんなの余裕ですよ。

 この格好でマックスさんをお姫様抱っこすることだって楽勝で出来ますよ?

 まあ、しませんけどね。





 そんなやりとりの後、ついに来ました。ここは街の酒場です。

 まだ日も落ちていない時間なのに、それなりにお客さんが居る。


 私は酒場のご主人に、小分けにした小さめの金貨袋を渡して『このテーブルの注文は、飲み放題食べ放題にして下さい』と伝えた。

 ご主人はマックスさんたちと顔馴染みなのか『おめえら良い金づる見つけたじゃねーか』と笑った後、私に『こいつらに集られすぎんなよ』と忠告をくれた。

 さてこれから『飲み放題食べ放題』という名の、聞き取り調査が始まります。

 うう、困ったなあ……。



「では率直に訊こう。君はどこの国のお姫様だ?」

「はい?」


 唐突にマックスさんから、お姫様認定された。

 貴方、さっきこの鞄を軽々と背負ったの見てましたよね?

 それとも、この世界のお姫様は、マッチョになることが嗜みなんだろうか。



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