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迷宮管理人のゆま  作者: 応龍
第一章 プロローグは、一章が終わるまでがプロローグです。
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事なきを得る

 “スタジオの皆さーん、聞こえますか?”

 “私は今、なんと迷宮の入口付近に来ています!”


 そう言葉に出したかったのだけれど、さすがに躊躇われた。

 見つかると、最悪の場合は人間の国と戦争になってしまう。

 

 この通路の先に、迷宮の入口である門がある。

 まあ、私にとって、そこは『出口』なんだけれど。

 その門の横には、厄介なことに、人間の兵士が立哨していた。





 <合体騎士>バガッシュさんから話を聞いて、初めて知ったのだけれど、人間たちの間では、アルクさんを神として崇めている宗教があるらしい。


 そして、<奈落の迷宮(アビス=ラビス)>の入口のある場所を、自国の領土としている王国の中では、その宗教の門徒は『悪魔も信仰している怪しげな宗教の信者』として粗雑に扱われているという。

 謂わばこの迷宮は、この国の統治機関から邪教の聖地扱いされている迷宮なのだ。

 とは言え、まだ破防法には引っかかっていない。うちらは外で悪さしてないしね。

 どちらかと言えば私たちは、ここの国が出来る前から存在している先住民だ。

 むしろ手厚く保護されてしかるべき立場じゃないのか?


 それに、ここの国民の殆どは、アルクさんを崇める宗教に悪い感情など持ってはいない。らしい。

 魔法とは簡単なものなら、ちょっとした才能さえあれば扱える、身近なもの。とのこと。

 

 『『50人に1人くらいは、<着火>程度の魔法は使えますぞ』』とは、バガッシュさんの弁だ。

 魔法の習得には勉強が必要だけれど、各地に建てられている『邪教』の教会が、無料で魔法を教えているようだ。邪教認定されているような宗教に入ってて、大丈夫なんだろうか。

 

 都市部ではあまり必要性を感じないかもしれないけれど、過酷な環境の土地に住む人にとって、魔法の恩恵は計り知れないだろう。


 そういう人間にとって、魔法を生み出したアルクさんは、感謝こそすれ憎む理由がない。

 当然、アルクさんを崇める宗教に抱く感情も同様だ。


 アルクさんやこの迷宮に悪感情を持っているのは、この国の王族や貴族など、上流階級の人間たちだ。

 『『奴らは<神々の主神>を信仰していますからな』』と、バガッシュさんは吐き捨てるように言った。


 出た、<神々の主神(メルセノラ)>。

 その神様こそが、アルクさんの遺産である<魔導の書庫(マグナ=ライブ)>を奪おうとしている、私たちの“敵”なのだ。

 しかしアルクさんはまだ死んでないのに、なぜ『遺産』なんだろう?

 たぶん私が思うに、音の響きがカッコイイからだと思う。


 話を戻そう。


 敵は裏で人間を操って、アルクさんの遺産を狙おうとしてるかもしれない。

 事実、この迷宮の入口は国が管理している。迷宮のすぐ外は、<神々の主神(メルセノラ)>の影響下にあると思っていいだろう。

 セコいことに、国は迷宮への入場料を取ることで冒険者に開放しているらしい。

 まったく。他人の迷宮を使って、勝手に商売をやらないで欲しいな。

 こっちも税金払ってないけどさ。


 バガッシュさんから話を聞き終えたあと、『大事になる前に、ちょっとその王国を滅ぼしてきなさい』と、アルクさんに冗談を言われたが丁重にお断りした。


 なんにせよ、まずは敵情視察ですよ。

 ついでにお買い物です。調味料を買わなくては。





 そんな訳で私はいま、迷宮の外に出るために、身を潜めています。

 さて、どうやったら兵士に疑われずに突破できるかな…。

 

 冒険者のふりをして、何食わぬ顔で通り抜けても大丈夫かな?

 出入りするときに、兵士から名前のチェックを受けないだろうか?

 しまった。相手の情報がないから迂闊に動けない。

 もっと詳しい話を、バガッシュさんから聞いておけばよかった。


 取り敢えず<透明化>の魔法をかけてみるけれど、これは陽の光の下だと影ができてバレちゃんたよね。

 一人で通り抜けるのを諦めて、中から冒険者の一団が出てくるのを待とう。

 数人が歩いているところに混ざって通れば、大丈夫かもしれない。





 半時ほど待っていると、迷宮の中から5人の冒険者が出てきた。

 私は透明化したままの姿で、彼らの後ろをこっそり付いて行く。

 

 

 

 

 兵士の居る門まで後10メートルのといったところで、先頭を歩いていた冒険者の足が突然止まる。

 

「マックス、どうしたん?トイレにでも行きたいん?」


 マックスと呼ばれる大男のすぐ後ろにいた、チャラそうな男が尋ねる。


「いや……、何でもない」


 何でもないと言いつつも、歩き始めず止まったままだ。

 まさか……気づかれたかな?


「だいじょーぶだヨ、マックス。殺気は全然ないカラ平気だヨ! ネー?」


 そう言いながら、私のすぐ眼の前を歩いていたフードを被る女の子が、『ネー?』のタイミングで後ろを振り向いた。


(嘘っ!気づかれてる!?)


 私は即座に<思考加速>を起動しつつ、対応を考える。


  対策1:このまま脱兎のごとく逃げる。

  対策2:軽く事情を話し、協力してもらう。

  対策3:取り敢えず『誰もいませんよ?』と返事をする。

  対策4:<魔神の吐息>で全てを無に返し、事なきを得る。

  対策5:諦めよう。現実は非情である。


 女の子の突然の行動でパニックになり、酷い選択肢しか浮かんでこない。

 私に気付いていながらも『怪しいので斬りかかる』という選択をしてこなかった彼女に賭けて、対策2を選択することにする。


「申し訳ありません。少々込み入った事情がございまして、兵士に気付かれず通り抜けたいのです。ご助力を頂けませんでしょうか?」


 私は姿を見せずに、透明になったままお願いしてみる。

 これで斬りかかってくるようなら、対策4だ。


「……後で事情は説明してもらうぞ」


 マックスさんは、そう答えてから歩き出した。他の人も、その後に続く。

 女の子は『ニシシ』と歯を見せて、見えないはずの私に笑いかけてきた。


「ありがとうございます」


 取り敢えず何とかなりそうだ。

 でも、兵士の目の前についたときに、バラされる可能性もないわけではない。

 通り過ぎるまでは、気を抜かずに行こう




 兵士の立つ門を抜けると、小砂利が敷き詰められた広場に出た。

 周囲は低木に囲まれて、空は突き抜けるように広く、青かった。

 迷宮以外の、本当の意味で私にとって初めての『異世界の風景』だ。


「まだ階段の下にも衛兵がいる。少しここで待っていろ」


 私が景色に見とれていると、マックスさんたちは広場の端にある建物に入っていった。

 影で気づかれちゃうから、私も慌てて付いて行く。

 建物の前には『受付』と書かれた看板がある。

 ここで迷宮探索の結果報告でもしてるのかな?

 それとも姿が見えない不審者の報告だろうか?

 中に入るのは止めておこう。


 いつでも<高速飛翔>で逃げられるように準備をしてから、周囲の様子を確かめる。


 迷宮の入口になっているこの広場は、小高い山の頂上付近にあった。

 石作りの長い階段を登ったところにある、お寺や神社のような場所だ。

 実際、この広場から下へと降りる階段の所に、鳥居のような柱が立ってる。

 アルクさんを神と崇める宗教の人たちが、昔に建てたのだろう。

 階段を降りた先には三千年前には無かったはずの、町並みが広がっていた。



 かつて“宗教都市ホープソルナ”と呼ばれたその街は、アルクさんを信奉する人たちが作った門前町だ。

 今ではこの国の貴族が統治していて、宗教都市ではなくなって、ただ“ホープソルナ”と呼ばれている。

 それでも遠目に見えるいくつかの建物には、かつては宗教施設だっただろう名残りが見える。


 迷宮の入口となるこの場所を背に、U字の形で大きな城壁が二重に作られ、その外側にすら人の住む家々や畑が広がる風景を見て、この街は長い歴史を持つのだろうと感じた。




「待たせたな。では街まで行こう」


 誰に言うでもない独り言を呟いて、マックスさんたちは階段を降りていく。

 いや、私に言ってくれたんだろうけどね。


 広場から下へと続く階段を降り、一番下にいた衛兵を通りすぎて暫く歩いた後に、マックスさんが「もう大丈夫だ」と言って足を止め、こちらを振り向いた。

 そこで私は<透明化>の魔法を解除して、冒険者たちに姿を現す。



「助かりました。皆さん有難うございます」


 私は深々とお辞儀をして、彼らに感謝を示した。


「おう」

「うっそ!すっげー可愛いじゃん!美少女じゃん!」

「あたしと同い年くらいだネー」

「とても冒険者には見えませんが、どうしてあの場所に?」

「結婚して下さい。彼氏とか居ますか?」


 冒険者たちから一斉に声をかけられ、答えに困った。

 でも結婚はしません。

 

「みんな止めなヨー。このコ、困ってるよ?酒場に行って、そこで話そうネ」


 私の透明化を一発で見破った女の子が、フードを取って顔を見せてくる。


「ワタシはカティっていうんだヨ。キミの名前はナニカナ?」


 カティは垂れた犬耳が可愛い、獣人さんでした。

 そうか、臭いでバレたんだな…。


「私は……ユマリアといいます。どうぞよろしくね」


 酒場に行くなら驕ってあげたいところだけれど、現金を持っていないんですよね。

 だからアルクさんから預かってる宝石類を、まず換金したいです。

 皆さん、この街に換金所ってありますか?





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