これからよろしくね
一人一人は格好いいのに、合体すると残念になる。
そんな二人が、私の目の前で、全く同時に嘶いた。
二人で嘶いちゃったら、人馬一体じゃなくて、馬二頭な気がする。
片方が馬なら、もう片方は人間役をやって欲しい。
この二人は<奈落の迷宮>に搭載されている人工知能によって、『守護者?』と分類されている人たちだ。
ちなみに私は『管理人』、アルクさんは『創造主』、ドライクたちは『守護者』だ。
疑問符が付いている辺りに、<奈落の迷宮>が二人をどう扱うべきなのか、困惑しているのが見て取れる。
「えーと。ケンタウロスのバッシュさんと…馬頭族のガッシュさんですね?」
「「左様。偉大なる<魔導の神>が住まう迷宮の、守護者となるべく馳せ参じました!」」
同じセリフを、必ず二人で同時に言うのは何でなの?キャラ付けなの?
そんな二人をアルクさんは、胡散臭そうな顔で眺めている。
明らかに『こいつらには守護者役は任せたくない』と思ってる顔だ。
まあ私の目にも、彼らは色物にしか見えないので、その気持は解らないでもない。
しかし実力試験と、面接試験の内容いかんによっては、ちゃんと採用しますよ?
ほらほら、アルクさん。そんな嫌な顔をしないの。
「私はユマリア=カムイソルナと申します。我らが主、アルク=カムイソルナから、この迷宮の管理人を、仰せ付かっています」
「「おお、これはご丁寧に」」
二人は私とアルクさんへ、深々とお辞儀をし、改めて自己紹介してくる。
そして何かに気付いたように、私に問いかけてくる
「「ユマリア…カムイソルナ…?もしかして貴女は、アルク様の奥方で
「違います」
「「しかし今、アルク様と同じ、“カムイソルナ”と
「違います」
アルクさんの嫁か?と聞かれかけたので、即座に否定する。
全く惚れていないし!むしろ大きな子供を持った気分だし!
私としては、アルクさんとは歳が離れているけど、悪友的な友人のつもりである。
「…私はアルクに作られたホムンクルスです。まあ、中身は異世界からの、召喚者なんですけど」
「「なんと!召喚者とは! さながら伝説の勇者のようですな!」」
あ、やっぱり勇者召喚あるんだ…。
異世界への召喚魔法が使えるのって、アルクさんだけかと思ってた。
「ところで貴方がたの事ですが……ここまで辿り着いたからといって、守護者としての大役を、安易にお任せするわけには参りません。ここで実力を示していただきます」
「「ふむ。尤もな話で有りますな」」
「ご理解頂けたようなので、ひとつ、私と手合わせをお願いしますね」
「「いや、申し訳ありませんが、それはご遠慮させて頂きますぞ!」」
なんでだよ!<魔人の吐息>吹きかけるよ?
見た目はともあれ、二人とも話の通じる、まともな人たちだと思ってたのに!
「「貴女はレディです。我らは女性を傷つけることなど、出来ませぬ故」」
なるほど、そういうことか。
確かに私は、見た目だけは、10代半ばの女の子だ。
二人がそう考えるのも、無理はない。
でもね、この迷宮を攻略しに来てる人間たちの中には、女性も居るんです。
女性とも、戦ってくれなきゃ、困るんですよ。
「私はアルク謹製のホムンクルスですよ? 大丈夫です。ちゃんと手加減してあげますから」
少し煽ってみた。平気だから、早くかかって来なさいな。
すると二人は小声で何やら相談しあった後に、私と少し距離を取る。
そしてケンタウロスのバッシュさんが、こちらを向いてランスを構え出した。
よかった。やる気になってくれたようだ。
「「わかりました。では、このバッシュめが、お相手いたしますぞ!」」
そう言った後に、バッシュさんの背中から、ガッシュさんが降りた。
一対一で戦うつもりか、騎士道精神なのかな。
「いや……二人で掛かって来て欲しいんですけど?」
「「いえ!そんな事は、出来ません」」
「そうですか」
こちらとしては、『人馬一体』の実力が知りたいんだから、二人揃って来て欲しいんだけどな。
まあ一本目は軽く、こちらの力量を見せて、二本目は二人で来るよう説得するか。
「では掛かって来て下さい」
「「いざ、参る!」」
突進してくるバッシュさんだけでなく、何故か遠くで腕組しているガッシュさんまで、同じセリフを叫ぶ。
なんでやねんと心でツッコミを入れつつ、私は<知覚強化><思考加速><身体強化>を起動させ、魔法の障壁の準備をする。
バッシュさんは、最初はゆったりとした駆け足で進み、やがて全速力で走る襲歩となって、加速度を増して、ランスを構え突撃してくる。
この攻撃を、魔法の障壁で受け止めようか……それとも躱そうか?
それは、ランスの穂先が私の間合いに入る刹那に決めよう。
その為に全神経を集中し、相手の動きを五感で捉え、“後の先”の攻撃を狙う。
本来なら、まだ距離のある内に、攻撃魔法で攻めても良かった。
でもバッシュさんは戦うと決めた時に、私から距離をとったのが気にかかった。
距離をとったのは勿論、ランスチャージをするためもあるだろう。
しかし、こちらの魔法を、何らかの手段で無効化し、有利に戦う。
そのための手段があるのでは?と私は考えたからだ。
だからこちらも魔法では攻撃せずに、<魔法の障壁>を見せ札としてチラつかせ、接近戦で攻めてみることにした。
「「ぬおおおおお!ランスチャージ!!」」
『だからッ!何でッ!二人で叫ぶのんッ!』心の叫びと同時並行して、私は<魔法の障壁>を起動する。
真っ直ぐに私の体を狙っていた長槍の穂先は、球体状の障壁に阻まれて、その向きを変える。
このままだと突進してきたバッシュさんは、速度を殺しきれず、障壁へ激突するだろう。
そう考えた瞬間、バッシュさんは盾を構え、前足に力を込め、更に加速してきた。
「「はあああああっ!」」
これは盾による強打!バッシュさんだけに、シールドバッシュなのね?!
バッシュさんの盾が、紫色に怪しく光る。あれは対魔法用の盾なのだろう。
私は急いで魔法障壁を解除して、身を屈め、摺足の要領で突撃してくるバッシュさんの下へと滑りこむ。
そして徐ろに立ち上がり、バッシュさんの体を、持ち上げるようにして後方へと投げ飛ばした。
「「なんと!?」」
二人は私の虚を突く行動に、対応出来ない。
もとよりガッシュさんとは、50メートルくらい離れているしね。
速度のついたバッシュさんの体が、放物線を描いて壁に衝突する。
「「ぐはぁ!」」
バッシュさんは障壁に直撃し、そのまま気絶した。あと長槍は折れた。
「これで“二人で掛かって来て欲しい”という、私の気持ちは伝わりましたね?では、二回戦と行きましょうか」
「な、何という攻撃……流石は<魔導の神>のホムンクルス。この先に居たゴーレムにすら、決して劣らぬ強者だ」
気絶したままのバッシュさんを見つめながら、ガッシュさんが息を呑む。
何だ、一人でも喋れるのかよ……。
しかし彼らにとって、あの木人は強敵なのか。ていうか、あれと戦ったの?
ゴブリンやオークは、みんなゴーレムを避けて進んで、もっと下層に住んでるよ?
あのゴーレムは、動けないからね。
「では次は、二人で力を合わせた、本当の実力を見せて下さい」
「いや、必要なかろう。やっぱり駄目だな、弱すぎる。守護者の役は任せられん」
今まで静観していた、アルクさんが、判決を下す。
確かに、下層にいる他の守護者と比べると、別格の弱さだ。
二人で戦った時の強さも、大体想像が出来る。でも、ね。
「んー、でも。取り敢えずは仮採用して、少し様子をみましょう」
アルクさんは弱いと言うが、弱いなら鍛え治せば良いと思う。
まずはお試し期間を設けよう。それで駄目なら不採用にすればいい。
アルクさんへの敬意と、真っ当な騎士道精神を持つ彼らは、なかなか得難い逸材だ。
もっと強い相手をスカウトして来ても、そいつが根性悪だったら、いつか寝首をかかれかねない。
それならいっそ、まず彼らを鍛えてみよう。そう思った。
私はバッシュさんが目覚めるのを待ってから、最終結果を発表する。
「アルクさん、人事権は私にあるんですよね?」
「う、うむ……だが……」
アルクさんは不満気だ。でも、今から代わりを探すにしても、時間がかかる。
その間だけでも、彼らに任せたほうがいいと思うのだ。
「では決定。仮採用ですが、お二人とも、第一階層をよろしくお願いしますね」
「「あ、有難き幸せ!」」
「ただし」
「「はい?」」
「暫くの間はここを離れ、下層のゴーレムと戦っていて下さい。全部で四体います」
「「な、何故ですか?」」
修練のためですよ。
せめて、あの木人たちよりは、強くなってもらわないと困る。
目指すは『木人なんて、雑魚ですよ雑魚(笑)』と言える強さになること。
「申し訳ないけれど、貴方たちは他の守護者と比べて、格段に弱いの。だから今より強くなってもらいます。その為の鍛錬の一環だと思って下さい」
「「畏まりました。アルク様、ユマリア殿。よろしくお願い致します」」
納得してくれたようで、良かった。これからよろしくね。
ランスが折れちゃったから、後で何とかしてあげないと可愛そうだな。
その前に<奈落の迷宮>への登録だ。
「おーい、<奈落の迷宮>。聞こえてる?彼らの情報の更新をお願い。コードーネームは…そうね、<人馬一体>でいいかしら?」
「待て待て待て!“馬頭ケンタウロス”は無いだろう。君は意外とセンスが無いな、もっと格好良いのを付けてやりなさい」
アルクさんに駄目出しされた。なんだよ、もう!
貴方、この二人に興味は全く無いでしょうに、部下の名前には拘りがあるのね。
「じゃあ、何かいいアイデア下さいよ」
「……そうだな。では<合体騎士>というのは、どうだろう?」
速攻で対案が出た。もしかしてアルクさん、ずっと考えていたのかな…。
<魔導の神>による直々の命名に、バガッシュコンビは満足気だ。
「じゃあそれで。<奈落の迷宮>、今の会話は聞こえてた? コードネームは<合体騎士>。分類は『守護者見習い』よ」
──────イエス、マム。
<奈落の迷宮>から、了承の声が届く。
これで彼ら二人も、正式に、ここの住人となった。
これからよろしくね。




