第6話 真実
少女は俺を睨みつけるでもなく、ただじっと見つめてくる。俺は……速攻で目を逸らした。これ、余計に怪しまれるか?
でも、背中の痛みでそれどころじゃない。お願いだから早く殺してくれ。ていうか、さっき「魔王様」って呼ばれてたよな、この子。マジ?こんな少女が魔王? 俺、魔王に目つけられたの? 終わった?
少女は俺から一瞬視線を逸らし、門の向こう側をチラッと見た。そして、深いため息をついた後、剣を鞘に収めた。
え? ここでは殺さないのか?……待て。もしかして、ここで楽に殺されるよりも恐ろしい、人質としての拷問が待ってるのか? そう思った瞬間、痛みも忘れて全身に寒気が走った。震えが止まらない。
この異世界だ。しかも相手は魔族。平気で生きたまま皮を剥いだりしてくるに決まってる。
少女が近づいてくる。俺は必死に逃げようと這いずったが、やっぱり背中の激痛でバランスが取れない。こんなに囲まれてるんだ。逃げても無駄なのは分かってる。
俺は何とか、自分の大嫌いなキモい声を絞り出して、少女に懇願した。
「あ、あの……ええと、あ、拷問は……怖いので……その、殺すなら……できれば、一刺しで……心臓をグサッと……苦しまずに……お願いします……」
「え、えっと……何を言っているんですか?」
なぜか、呆れ果てたような顔で俺を見つめる少女。
「とりあえず、立てますか? 拷問も殺しもしませんから……今は」
そう言って、少女は俺に優しく手を差し伸べた。俺は考えを巡らせる。
……これ、手を取った瞬間に腕をへし折られたりとか、「キャー、触られた!」って叫ばれたりするやつか? 俺は怖くて、その手を取ることができなかった。
とは言え、「今は殺されない」という言葉に、少しだけ生気を取り戻した。絶望の中に一筋でも光が見えれば、人間の復活は早いもんだ。
俺は少女の手を無視して、何とか自力で立ち上がった。少女は少し感心したような顔をして、魔王城へと歩き出す。
「では、付いてきてください。色々と事情を聞きたいので」
俺は少女の斜め後ろを、のろのろと歩いた。この後に待ってる運命が怖すぎて、魔王城の景色なんて何一つ覚えていない。ただ怯えながら付いていくだけだった。
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案内されたのは、謎に「面接室」みたいな部屋だった。広くも狭くもなく、机と人数分の椅子がセットされている。
向こう側のちょっと豪華な椅子に、少女がちょこんと座る。その隣には、側近らしき白髪のイケメン男が座っていた。そいつは明らかな敵意を込めた眼差しで俺を睨みつけている。
……そして、舌打ち。おお怖。そりゃそうだよな。敵の人間が城の中まで来てるんだから。
それにしても、門の前は暗くてよく分からなかったが、明るい室内で改めて少女と隣の男を見る。
見た目は、ほとんど人間と変わらない。違いと言えば、耳が少し長いのと、瞳が赤いことくらいか。肌は透き通るような白さで、少女に至ってはビビるくらい綺麗だ。
少女は目の前の椅子を指差した。
「どうぞ、そこに座ってください」
「え、あ……はい」
え、なに。俺、魔族の採用面接にでも来たん?今日から俺、人間捨てて魔族として生きていく感じ? まあ、殺されるよりはマシかもしれないが。
静寂の中、少女が話し始めた。
「えっと……ですね。色々と聞きたいことがあるのですが……えっと、まず何から聞けばいいんでしょうか……え、あれ?」
さっきまで剣を構えてあんなにクールだったのに、いざ話し始めると隣の男をチラチラ見ては、あたふたと困り果てている。……ちょっと可愛いいの腹立つ。
2人でコソコソ相談した後、ようやくまとまったのか、再び俺を見て話し始めた。
「えっとですね、まずは自己紹介からです。私は”マオ”。一応、魔王をやっています。こちらは私の側近の”シロ”です」
マオとシロ。覚えやすくて助かる。やっぱり「魔王」で合ってたらしい。なんでこんな可愛い子が魔王なんてやってるのかは謎だが。
「えっと、あなたの名前は?」
「え? あ、えー……牛島千温……です」
「チハル……不思議な名前ですね。……もしかして、召喚された別世界の人間……でしょうか」
マオは顎に手を当てて、俺の正体を見抜いてきた。俺は正直に答えるべきか迷う。召喚者なら即処刑、なんてことも普通にありそうだし。
「……早く答えろ」
「ひっ!?」
シロが低い声で俺を射抜くように言った。マジで怖えよ、このイケメン。なんで魔王と側近でこんなに態度が違うんだ。マオが困り顔でシロをなだめる。
「シロ、チハルが怯えていますよ。もう少し優しく……」
「ですが……」
「もう。いつもは私にデレデレな態度なのに」
「なっ、それは今は関係ないでしょう! とにかく、この人間を尋問しなければ……」
「人聞きの悪いことを言わないでください。はぁ……」
マオはため息をつくと、俺を見た。
「チハル。あなたが転移者だろうとなんだろうと、この場で殺したりはしません。正直に答えてください。まだ聞きたいことはたくさんありますから。……殺すなら、その『後』です」
いや、今すげえ物騒なこと言わなかった!? 俺、ここに連れてこられた時点で死ぬ運命確定なの!? しかもそれをニコニコ笑いながら言うのかよ。
黙って時間稼ぎでもするか? ……いや、下手に隠して機嫌を損ねるよりは、正直に話して、苦しまずに殺してくれる温情を狙った方がいい。きっと、多分。
「えっと……はい。その……ああ……勇者召喚された一人、です」
「やはりそうですか。人間族はそこまでしてくるとは……。分かりました。正直に話してくれてありがとうございます」
マオが俺に向かって頭を下げた。シロは「クソ、人間め……」と呟いて拳を握りしめ、さらに俺を睨みつけてくる。なんだよ。まるで俺が悪役みたいな……。マオはそのまま続けた。
「チハル。答えてくれたことには感謝しますが、私たちも立場上、あなたをただで返すわけにはいかないのです。あなたは別世界の人間とはいえ、私たちにとっては平和を脅かす敵側なのですから」
「え、いや……平和を脅かすって、それは……魔族の方、なんじゃ……?」
「あ”? 人間、てめえ本気で言ってんのか?」
「ひっ!?」
シロがまたガン飛ばして威圧してくる。さっきからなんなんだ?確かに俺たちは敵なんだろうが……。
「……おそらく、人間族は自分たちの都合がいいように真実を隠して、嘘を吹き込んでいるようですね。人間とは、なんて愚かなんでしょうか」
嘘? どういうことだ?
「えっとですね。信じるかどうかはあなた次第ですが、説明します。人間族は、私たち魔族を支配し、土地や物資を奪い、そして労働力を手に入れるためだけに、この戦争を仕掛けてきているんです」
「え……?」
「私たちはただ、平和に暮らしたいだけ。どこにも干渉せず、静かに暮らしたいだけなんです。人間族はそれを許さない。なんて強欲な種族……。それに」
マオは一旦深呼吸をして、冷徹な視線を俺に向けた。
「私の両親……先代の魔王は、人間族によって殺されました。すごく、すごく憎いのです」
低い声。立ち込める殺気。俺は思わず冷や汗が吹き出し、鳥肌が立った。怖くて目を合わせられない。
「だから、あなたたちを返すわけにはいきません。一刻も早く、この戦争に決着をつけたい。たとえ別世界の人間だろうと、人間の味方をするというのなら……」
これが、真実か。
シロの俺への態度にも納得がいった。あの目は嘘じゃない。本気で俺を……人間を憎んでる目だ。
俺のいた世界だって、欲のために殺し合って、それを正当化する戦争を繰り返してきた。この世界の人間も、結局は根っこが同じってわけか。
「……えっと、すみません。少し脅しすぎましたね。……次は、あなたの番です。だいたい予想はつきますが、なぜあなたは、こんな無謀な方法で魔族領に入ってきたのですか?」




